高齢者とペット、アニマルセラピーの効果とは

わが国では、核家族化や独居高齢者世帯が年々増え続けています。そういった背景から高齢者は、孤独感や社会からの孤立などから精神的に追い詰められ、病気を発症したり、元々持っている病気を悪化させてしまうといったケースは少なくないです。

そんな中、アニマルセラピーというのはご存知でしょうか。後述に詳しく説明をしますが簡潔に答えると、動物及びペットの存在により心身に癒しをもたらし、心身の病気の治癒や生活の質の向上をさせるといった効果があるといわれています。ここでの記事では、高齢者の暮らしとアニマルセラピーの関連について紹介していきたいと思います。

アニマルセラピーとは

日本でいわれているアニマルセラピーとは「動物介在療法」と「動物介在活動」「動物介在教育」の3つが合わさった意味を持ちます。またアニマルセラピーとは日本独自で生まれた言葉です。ですので、世界ではアニマルセラピーといっても、その意味合いが全く違ってくるため、まずその違いについて紐解いていきたいと思います。

動物介在療法

医学的治療を目的にする補助療法です(医療行為の一環)。そのため、医師や看護師、メディカルソーシャルワーカー(MSW/相談員)、理学、作業、言語療法士等が動物ボランティア団体と協力し、患者の身心機能、社会的機能の向上を目的に行います。また単純に動物を介入させれば良いという話ではないため、どのタイミングが一番効果的かなど、その点も踏まえて専門職種が検討をし、治療を行います。

動物介在活動

こちらは前述した動物介在療法とは違い、特別な治療目的に行うものではありません。そのため、動物とふれあうことで、患者の生活の質の向上や情緒の安定、レクリエーションを中心とした目的で行われます。

そのため、病院や施設、ディサービスなど幅広い場所で、対象とした方と動物がふれあうといった活動が可能となります。

わが国では、欧米とは違い、日本アニマルセラピー協会や、動物と共に活動しているボランティア団体などは、「動物介在活動」を主としていることが多いです。
また治療目的及び医療行為の一環では行われていないため、専門職種との協議などは原則必要ないため、比較的直ぐに行われる活動ともいえるでしょう。

動物介在教育

主に小学校などでの教育の場で提供されるもので、動物の生命に対する教育や道徳観、人格的な成長などを目的とした活動で、前述した2つの関わりとは少し異なるものとなっています。

アニマルセラピーの効果とは

実際高齢者にどのような効果があるのか、そこが一番重要なところですよね。一見ただの癒しだけと思われている方もいると思いますが、動物とふれあうことで体内から「オキシトシン」といわれる物質が分泌され、うつ症状や認知症の改善、がん治療に活躍出来ると研究で分かっています。ではその「オキシトシン」とは一体なんなのかを紐解いていきたいと思います。

オキシトシンとは

まず2015年4月「サイエンス」の麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室からの研究結果によると、人間と犬がお互い見つめ合うことで、双方にオキシトシンの分泌が促進されるということが分かりました。

オキシトシンは通称「幸福ホルモン」といわれ、体に有益な効果があるといわれています。例えば、幸せな気分を高めたり、やる気が出るドーパミンなどのホルモンの分泌を促しなどを行います。ではさらに、オキシトシンといわれる物質が体内にどのような効果があるのか見ていきます。

睡眠を促し、ストレスの緩和に貢献?!

オキシトシンは、副交感神経を優位にさせるため、ストレスに反応するコルチゾールといわれる分泌を抑える効果があります。そのためストレスの緩和や気分を落ち着かせるため、ストレスによって収縮した血管を広げ、血圧を下げるといった効果があります。さらにセロトニンの分泌も促されるため、不眠で悩んでいる方にも効果的と言われています。

認知症の症状の緩和やがん治療に貢献?!

アメリカの大学の動物介在療法プログラムの研究結果によると、ペットを飼っている人と、飼っていない人に比べて、うつ病や気分障害を発症する割合が低く、また症状の軽減にもなっていることが分かっています。

さらにオキシトシンの効果はまだまだあります。オキシトシンは脳内麻薬といわれるエンドルフィンの分泌を促し、鈍痛を抑えるなど体の痛みを和らげる効果があります。そのため、体への負担が大きいとされている抗がん剤治療を行っている方に、オキシトシンの分泌は一定の効果があるといわれています。

ペットを飼うのはあり?!しかしその問題点もある

1人暮らしは寂しいし、アニマルセラピー効果も同時に得られるのなら、ペットを飼ったら良いのではないか。と考える方もいると思います。確かに一石二鳥ですよね。しかしペットを飼うのは容易ですが、飼った後のことをよく考えることが必要です。言うまでもなくペットは生き物ですので、良い部分だけではありません。では高齢者がペットを飼うことでの、問題点についていくつか例を挙げていきたいと思います。

ペットの世話

当然ながらペットを飼うということは、食事の提供や一定の運動、排泄処理、健康および衛生管理などが必要となります。飼い主が元気なうちは、難なく世話が出来ると思います。しかし飼い主が何らかの病気になったり、入院をすることになったりと、高齢になると色々なことが身に起きてきます。そのため、自分自身に何かあった時のことを考えなければなりません。短期間家を空けるような入院などでしたら、知人や身内に預けたり、ペットの世話代行をしてくれるサービスやペットホテルなどに一時的に預ける方法もあります。しかし長期間ですと費用的な問題や知人や身内に預けた場合には、その方に迷惑がかかります。こういったリスクも考慮しなければなりません。

ペットの医療費問題

ペットを飼うことで、自身の生活費以外の出費が発生してきます。そのため、年金暮らしでそこそこギリギリで生活している方ですと、ペットが病気をしてしまった時やペットが老化し頻繁に病院へ行かなければならないなど、自分以外での出費が発生するリスクがあります。そのため、自身のことだけではなく、ペットにかかる出費についても考えておかなければなりません。

入院、入所の拒否

これは私個人が経験したことではありますが、1人暮らしをしている高齢者がいました。ある時入院をしなければならない重篤な状態に陥ってしまったのにも関わらず、ペットの世話をする人が誰もいなくなるといった理由で、入院を拒否するといったことがありました。その方は、誰がペットの世話をするんだと訴えていました。他の方でもショートスティの拒否や老人ホームの入居拒否など、ペットがいることで必要な処置やサービスなどを拒否するケースがありますので、ペットの飼育を希望されている方がいましたら、今後先々の生活を踏まえて考える必要があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。アニマルセラピーには、3つの意味合いがあり、目的も違います。ここでの記事では、ペットによる効果により、オキシトシンといわれる「幸福ホルモン」が分泌され、主にストレスの緩和、血圧の降下、鈍痛緩和、睡眠促進などさまざまな効果が得られることを紹介をしました。

また体内での効果以外でもペットという存在により、孤独感から解放されるなど気持ち的にも効果もあることが分かります。しかしペットを迎え入れるということになれば、ペットの世話、自身が世話が出来なくなった場合、経済的な事情など、さまざまな問題も出てくるため、よく検討する必要があります。

もちろんペットを飼う以外の選択肢ももちろんあり、自治体が動物ボランティアと共同して開催するイベントやディサービスでのイベントとしてアニマルセラピーを行っている施設もあります。街の広報やインターネットで検索してみると良いでしょう。