高齢者のバイタル測定 バイタルサインの正常値とは

バイタルサインを直訳すると【生命兆候】という意味で、その生命兆候の基準となるのが体温・血圧・呼吸・脈拍です。それらを測ることをバイタル測定と呼び、この4つの内の1つでも異常があれば体の中で何かが起こっているといっても過言ではありません。現在、新型コロナウィルスの感染拡大が猛威を振るっていますが、感染兆候がある指標として【発熱・呼吸困難】などが挙げられます。

バイタル測定を行った時に、高熱や呼吸数に異常があれば、今なら新型コロナウィルスの感染を疑うと思います。そうしたようにバイタルサイン・バイタル測定というのは生命の異常を伝えてくれる重要な役割を果たします。ただ、高齢者の場合、数値が異常でも症状がはっきりと表れないこともあるため、定期的にバイタル測定をしておく必要があります。

ここでは、高齢者の異常状態にすぐ気づくためにも、それぞれのバイタルサインの正常値をお伝えします。

バイタルサインとは

冒頭でも触れましたが、バイタルサインは、体温・血圧・呼吸・脈拍の4つの項目が基本となります。これらのどれかが異常値に達していた場合、最悪死の危険性があります。ただ、バイタル測定時の数値も大事ですが、その時の状態も判断材料になります。例えば【意識レベル(朦朧としていないか)・酷い頭痛・眼球運動(瞳孔など)・発語(呂律が回っていない)・嘔吐・排便(タール便)・下血・尿量(乏尿、無尿、失禁)】などです。これの状態には、まず健康の人はならないと思います。

基本的な4つの項目にプラスして、例えで紹介した状態も意識して観察すると生存率は格段に高まります。

次では、基本的な4つのバイタルサインの正常値、各項目の測り方のポイントなどをお話します。

体温について

よく平熱という言葉を聞きますが、平熱には個人差があり、時間帯によっても体温は変化するため「平熱は○○℃」という規定はありません。ですが、約7割の日本人の平均体温(ワキ下検温時)は【36.6℃から37.2℃の間】というデータがあり、一般的には37.5℃以上は熱発・発熱(微熱も含む)とされています。時間帯の変化については、1日の中で早朝が最も体温が低く、夕方にかけて徐々に高くなる傾向にあります。

自分の平熱を把握するためには、時間帯ごとに体温を測っておくことが必要です。そしてそれらを基に、現在の体温は、測っておいた体温からどれくらいの差があるのかで「今日は、熱っぽい」と判断すると良いでしょう。

特に高齢者は老化により体温調整を行う機能が低下するため、発熱している状態や低体温状態になっていることに気づきづらい傾向にあります。そうした意味でも普段から検温して平熱を知っておくこと良いでしょう。

検温について

検温に使う体温計についてですが【実測式・予測式・赤外線センサー】の3つがあります。実測式は測定部の現在の温度を測る体温計、予測式はワキ約10分後、口腔内では約5分後の体温を予測する体温計です。赤外線センサーはセンサーで温度を捉えて測定する体温計となっています。

正確な体温を測る場合は実測式がオススメですが、ワキで約10分、口腔内で約5分もかかってしまうのがデメリットです。また、脇下の検温方法は、脇下に挟む角度や挟み方もあるので実は少し難しい検温方法でもあります。下記に正しい測り方の動画を載せていますので、この機会にご覧になってみると良いでしょう。

● 正しい体温の測り方(ワキ測定)

※関連記事:高齢者の体温における正常値や基準値について

血圧について

血圧とは、心臓から血液が送り出された際に、血管壁が受ける血液からの圧力のことを言います。

心臓から全身に血液が送られるときの圧力が収縮期血圧(最高血圧)、全身から心臓に血液が戻ってくるときの圧力を拡張期血圧(最低血圧)と言います。よく「上(最高血圧)が○○」と言われているのが収縮期血圧、「下(最低血圧)が○○」と言われているのが拡張期血圧です。

血圧を測定することで、心臓の機能や全身の血管の異常などを知ることができます。高齢者の場合は、血管の弾力性や柔軟性がなくなるため血管壁が硬くなり、その壁に錆のようなものがこびりつき、血液の通り道が細くなります。それが動脈硬化の状態です。動脈硬化によって血液が流れにくくなると、心臓はより血液を強く送り出す必要がでてきます。そうしたことが体内で起こっているため、高齢者は血圧が高くなる傾向にあります。

高血圧は、心臓や血管に大きな負担をかけるため、最高血圧が140以上の場合は注意が必要です。高血圧によって起こる主な病気は、心筋梗塞・脳卒中です。

最高血圧(収縮期血圧) 最低血圧(拡張期血圧)
高血圧 140mmHg 以上 90mmHg 以上
低血圧 100mmHg 以下 60mmHg 以下
前期高齢者(75歳未満)の降圧目標 125mmHg 75mmHg
後期高齢者(75歳以上)の降圧目標 ・135mmHg(降圧目標) ・130mmHg(忍容性がある場合) ・85mmHg(降圧目標) ・80mmHg(忍容性がある場合)

※引用:日本高血圧学会ガイドライン/WHO(世界保健機関)より
※これらの表は、最高血圧・最低血圧どちらかでも該当していたら高血圧および低血圧と診断されます。

血圧測定方法について

血圧計には【上腕式・全自動タイプ・手首式】があります。測定時の注意点として、測定時は腕を心臓と同じ高さに置き、肘を曲げないように注意してください。

血圧も体温と同じく時間帯によって変化するため【朝・昼・夜】の血圧数値を把握しておくと良いでしょう。血圧が心配な方であれば【食前後・運動時・入浴前後など】も測っておくと、より正確に自身の血圧状況を知ることができます。

※関連記事:高齢者が高血圧になる原因と予防策とは

呼吸について

呼吸とは、体内で必要なエネルギー産生を行うために必要な酸素を肺で取り入れ、代謝された結果に生じた二酸化炭素を排出することを言います。

呼吸のバイタルサインとしては【①呼吸数、②呼吸の深さ、③呼吸のリズム、④呼吸音、⑤SPO2、⑥チアノーゼ】などが基本です。日常生活をしている中で呼吸数を測定するということはあまりないとは思いますが【呼吸が苦しそうな時】に呼吸の測定をすると良いでしょう。そして、目安となる呼吸数ですので下記をご覧ください。

呼吸数 考えられる原因 状態
正常呼吸 12~20回/分 問題なし 正常
頻呼吸 25回以上/分 発熱・肺炎・心不全など 呼吸数の異常
徐呼吸 12回/分以下 睡眠薬投与時、脳圧亢進、低体温など
過呼吸 呼吸数に変化なし。呼吸の深さが増える。 運動直後・貧血など 呼吸の深さの異常
減呼吸 呼吸数に変化なし。呼吸の深さが減る。 呼吸筋の低下など

参考文献:一般社団法人日本呼吸器学会より

● 呼吸数の測り方

胸やお腹を見て【吸って、吐く】を1回とします。ただ、測定する際に「ジーッ」と見られていると呼吸が乱れることがあるので、脈拍を測る時と一緒に測定すると良いでしょう。

※関連記事:高齢者のSPO2の正常値とは?

脈拍について

手首や首などを触ると「ドクドク」と鼓動をするのが脈拍です。脈拍は血液循環が正常に機能しているかを判断するための指標になります。

状態 回数/1分間 考えられる原因
正常値 ・60~90回/分 ・健康
徐脈 ・59回以下/分 ・不整脈 ・甲状腺機能低下症など ・スポーツをしている人も徐脈になる傾向にあります。
頻脈 ・91回以上/分 ・不整脈 ・貧血 ・緊張状態(健診直前や病院にいるときなど) ・甲状腺機能亢進症など

正しい脈拍の測り方

こちらの動画には、正しい脈拍の測り方はもちろんのこと、【不整脈のリズム】【不規則な脈拍のリズム】も紹介していますので、ぜひご覧ください。

まとめ

ここでは、基本となるバイタルサインについてお伝えしました。今回紹介したバイタルサインの1つでも数値に異常が見られた場合は、大きな病気が潜んでいる可能性があります。また、高齢になると認知面の衰えなどから病気の症状を感じづらくなる傾向にあるため、健康を維持していくためにも、日常的にバイタル測定をしておくことが重要です。