高齢者が縁側で「コクン、コクン」とウトウトしている様子や、ドラマのワンシーンなどで一度は見たことがあると思います。こうした居眠りをしていることを傾眠と言います。しかし、傾眠を起こす原因によっては、大きな病気が隠されていたり、傾眠からの覚醒後の対応をしっかりしなければ事故に繋がる場合があります。ここでは、高齢者の傾眠を引き起こす原因や覚醒後の危険性についてお伝えしたいと思います。
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高齢者の傾眠(居眠り)はよくあると思われがちですが、実は意識障害の1つです。意識レベルには【正常➡傾眠➡混迷➡昏睡】と4つの段階に分けられており、正常から昏睡に行くほど重篤な状態になっていきます。「いつも居眠りしているから」と侮っていると、実は混迷や昏睡している場合がありますので、それぞれの特徴について理解しておいてください。
傾眠をしてしまう原因はいくつかあります。傾眠に陥ってしまう主な原因が下記の通りです。
高齢になると、睡眠を促すホルモン物質などの減少で夜の眠りが浅くなり熟睡できず、そのツケが昼間に襲ってくるといった悪循環が起こりがちになります。
昼間に寝てしまうと日光を浴びる機会を失い、寝ることで活動量が落ちてしまうので余計に夜は熟睡できなくなります。こうした日常が昼間に傾眠してしまう原因になります。
頭を強く打ったことで脳の血管が傷つき、ゆっくりと時間をかけて(1~2ヶ月前後ほど)脳内で出血し、その血が脳と硬膜の間で血の塊(血腫)ができ、脳が圧迫されたことが原因で傾眠してしまう場合があります。
特に足腰が弱い高齢者の方は転倒しやすいので慢性硬膜下血腫になりやすく、また血の塊が大きくなるほど傾眠傾向が強くなるので、転倒後から1~2ヶ月前後は要注意です。血の塊を取るためには外科手術が必要になりますので、脳神経外科へ受診してください。
認知症の初期症状でもある【無気力状態】から傾眠をしてしまう場合があります。無気力状態になると、周囲への関心がなくなり、ほぼ全てにおいて意欲を失うため、脳が興奮状態にならず傾眠傾向が強くなります。
高齢になると、若い頃と比べて体内の水分量が少なくなります。それに加えて、喉の渇きも感じにくくなるため水分を積極的に飲まず脱水症状に陥りやすくなります。脱水症状に陥ると、脳を含めた全身の機能が低下するため身体は脱力し、傾眠を引き起こしやすくなります。
補足として、脱水症状は、傾眠だけではなく幻覚症状も引き起こしたり、最悪の場合、昏睡状態になりますので夏場は特に注意が必要です。
上記で述べた慢性硬膜下血腫や脱水症状といった症状は、放置すれば命の危険に晒される場合がありますが、それら以外にも日常的に潜む危険はまだあります。
覚醒後の歩行は特に注意が必要です。注意力が低下していると小さな段差などに気づかず転倒し、ケガをするということはよくあります。また、自宅内ですと転倒した際に角のある家具やガラス扉などに突っ込むといった事例もよく聞きます。
高齢者の場合、傾眠状態から覚醒した後【無気力】【注意力の欠陥】といった症状が続く方がいるので、傾眠からの覚醒は注意しなければなりません。
介護施設などでも多いのが傾眠後の誤嚥性肺炎です。傾眠からの覚醒は注意力が低下していることが多いので水分やおやつの時間などで起こした直後に、しっかりと確認せずに飲食物を提供したことで誤嚥をするといったことがよく起きます。
家庭でのシチュエーションだと夕方前くらいに傾眠をし、夕飯前に起きたときが危ないと思います。誤嚥を避けるには、原始的ですが濡れタオルで顔を拭いたり、口腔内に凍った脱脂綿を入れ、頬っぺたの裏側を刺激するなどしてしっかりと覚醒させてください。
それでも覚醒しない場合は、無理に食べさせるのではなく少し時間を置くことが大事です。無理に食べさせて誤嚥性肺炎になると、最悪の場合死に至りますよ。
健康的な生活を送るには【規則正しい生活】が重要です。つまり、栄養のある食事を摂り、定期的な運動を行い、十分な睡眠をとるということです。
その中でも定期的な運動という点ですが、傾眠をするとその時間は活動量が落ちます。そのような状態が続くと次第に運動不足になり、全身の筋力が低下していきます。
全身の筋肉とは腕や足以外にも、腰回りや口腔だったりと生活に必要な筋力も入っています。最近では【フレイル(介護状態の一歩前のこと)】という言葉を使いますが、日中の活動量が落ちれば、遅かれ早かれフレイル状態になり、最悪寝たきり状態になってしまうので「年寄りだから仕方がない」と放置しておくのは危険だということを覚えておいてください。
いかがでしたでしょうか。
本記事でお伝えした通り、傾眠をしているところを見かけたら【ただの睡眠不足】なのか【病的から来ているのか】を見極め、それらにあった対策が必要です。傾眠をよく理解していない人だと「お年寄りだから仕方がない」と思われがちですが、傾眠傾向が連日続くようならば生活に支障をきたしてきます。もし、病的でないと判断できたら、日中はなるべく活動の機会を設けることが大事です。何もしない時間が多いとやはり眠くなってしまいます。ただ、飲んでいる薬の影響もあるので副作用で眠くなる成分が入っている場合は主治医に相談すると良いでしょう。