高齢者と誤嚥性肺炎 原因と症状、予防法について解説

日本人の死因は戦前は悪性新生物より肺炎が多かったのですが、抗生物質の普及により死亡者数が激減し、現在では肺炎の死因は第5位に位置しています。しかし近年、肺炎による死亡が年齢が上がるにつれて高くなっており、その多くが誤嚥性肺炎によるということです。ここでの記事では、高齢者の死因で多い誤嚥性肺炎の原因や症状、予防法などについてお伝えしたいと思います。

誤嚥性肺炎とは

食べ物を口に入れて飲み込むと食道を通って胃に行きますが、食べた物が食道ではなく気管に入ってしまうことを誤嚥(ごえん)と言います。

口に含んだ食べ物には、咀嚼することで唾液と混ざります。唾液には細菌が混在しており、誤って気管や肺に侵入すると細菌感染が起こり、免疫力の低下している高齢者では、結果的に【肺炎】となります。

これを、誤嚥性肺炎と呼びます。

誤嚥性肺炎が起こる原因

次は、なぜ誤嚥性肺炎が起きてしまうのか、その原因について解説したいと思います。

脳の機能が低下

誤嚥性肺炎になる原因の1つが脳機能の低下です。低下の原因は、加齢というよりは脳梗塞や脳出血といった後遺症が原因で起こります。

まず、食べ物や飲み物を飲み込むことを嚥下(えんげ)と言います。通常であれば、気管に異物(食べ物や唾液)が入ってくるとそれを咳で吐き出そうとしますが、脳の機能が低下していると、異物が混入したという指令を脳へ上手く伝達できず、咳が出せない(出ない)場合があります。

喉頭(こうとう)の筋力の低下

高齢になると全身の筋力が衰えていきますが、それは喉頭(口から喉までの間)の筋力も同様です。食べ物などを食道に正しく運ぶ(飲み込む)には、それらの筋力が重要となります。

しかし、筋力の衰えで正しく食べ物などを運ぶことが出来なくなり、気管に入ってしまうことで誤嚥をしてしまいます。また、咳が出ても上手く押し出す力が弱く、誤嚥をしてしまうこともあります。

補足として、脳の機能が低下していたり、加齢により喉頭の感覚や筋力が衰えている場合、唾液や食べ物が気管に入っていても気がつかないことがあります。これを【不顕性誤嚥】といいます。

誤嚥性肺炎の症状

肺炎と聞けば、高熱が出て「ゼェー・ゼェー」というイメージが強いと思います。確かに誤嚥性肺炎は肺炎同様の症状を引き起こすこともありますが、高齢者に多い誤嚥性肺炎の場合は少し異なります。主な症状は、下記の通りです。

高齢者に多い症状

  • 微熱が続く
  • 食欲が低下する
  • 元気がなくなる
  • 意識障害
  • 不穏
  • せん妄(幻覚・幻聴・暴れ出すなど)
  • 食事以外でむせ込んでいる
  • 喉あたりから「カラカラ・ゴロゴロ」といった痰が絡んでいるような音が聞こえる

典型的な肺炎の症状(誤嚥性肺炎も含む)

  • 痰(膿性痰:黄色~緑色や鉄さび色)
  • 高熱(38度以上)
  • 胸に鋭い痛み

誤嚥性肺炎の治療法とは

誤嚥性肺炎と診断された場合は、一度症状が落ち着くまで飲食を禁止し、主に抗生物質を用いた薬物療法が行われます。当然ですが、飲食禁止なので高齢者の場合は入院が必要となるケースがほとんどで、入院後もしばらく点滴加療が行われます。

ちなみに、抗生物質による点滴加療は肺炎に焦点が絞られているため、例え治ったとしても誤嚥性肺炎が起こる可能性はかなり高いので注意が必要です。

補足として、肺炎球菌ワクチンの予防接種は、肺炎球菌のワクチンなので誤嚥性肺炎の予防にはなりませんので、気をつけてください。

誤嚥性肺炎の予防法とは

誤嚥性肺炎の予防法には大きく分けて3つあります。その3つが合わさって初めて予防に繋がりますので、それを紹介していきます。

口腔内の清潔を保つ

まず、口腔内(口の中)を常に清潔に保つ必要があります。下記に列挙していくので参考程度にご覧ください。

● 口をゆすぐ
・口をゆすぐことで口腔内が洗浄されます。出来ない人であれば、除菌効果のある薬剤がついた脱脂綿で口腔内をふき取る。
● 舌を掃除
・舌にも細菌が付着しているので、可能な限り舌ブラシで綺麗にする。
● 小まめに歯ブラシ
・残渣物などから菌が繁殖がするため、食事後(30分~1時間の間)は必ず歯磨きをする。

飲み込む力をつける・保つ

いわゆる、嚥下機能を活性化させるということです。では、どういった方法がよいのか下記の動画を参考にしてみてください。

動画のように、食事前に舌などを動かすことで飲み込む際に必要な筋力がほぐれやすくなったり、唾液が出やすくなるといった効果があります。ポイントとしては、大きく口を開けて動かすことが大事となります。

さらに、口周辺を動かすことで飲み込みに必要な筋力が鍛えられるので、口腔トレーニングとしても効果があります。

補足として、全身の筋力を鍛えると飲み込む際に必要な筋力も同時につくので、毎日の日課として、散歩や簡単なスクワットなども取り入れると良いでしょう。

食べる環境を整える

例えばですが、薬の影響や寝不足でフラフラしていれば誤嚥してしまうことが多々あります。そういった意識外のところで誤嚥をしないよう、覚醒させてから食事をしてください。

また、食べる姿勢も重要で椅子で食事をする場合は、アゴを引き、背は90度にして体が斜めになどにならないようにする。テーブルの高さは腕を乗せて90度位にし、足も床に着くようにセッティングすることで体が安定し、誤嚥の予防になります。

寝たきりの方でしたら、頭部を30~40度ほどにギャッジアップさせ、枕などでアゴ引くようにさせてから食事の介助をすることをオススメします。姿勢の参考動画が下記になります。

食事形態が合っているかを確認

本人の嗜好もあると思いますが、歯や入れ歯の具合、身体機能によって食事の形態(流動食・半固形・一口大など)は変える必要があります。本人に合っていない食事形態だと上手く飲み込めず誤嚥をしてしまう危険性があるからです。

また、あまり知られていないのですが、お味噌汁のように汁物に固形の具材が混在しているものは高齢者にとって、誤嚥の確率がかなり高くなりますので注意が必要となるということを覚えておくと良いと思います。

飲み込みに不安だという人は、嚥下検査を行っている口腔リハビリテーション科がある病院等へ受診されることをオススメします。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
高齢者の死因の中でも肺炎は未だに上位ランクに位置しており、その肺炎の中でも誤嚥性肺炎で亡くなるケースは非常に多いのが現状です。ただ、誤嚥性肺炎というのは清潔保持、食事前の体操、姿勢、食事形態などで防ぐことができます。もちろん、完ぺきではありませんがやるのとやらないのとでは全然違いますので、ここでの記事を参考に試してみて下さい。