高齢者の性生活、性欲、性犯罪について

日本人の健康寿命が年々延び、人生100年と言われる時代になっています。時より高齢者のセクハラや性犯罪などでニュースで取り上げられることはありますが、どこか高齢者の性生活および性事情はタブー視されていると思いませんか?むしろ、「高齢になると性欲はないのでは?」と考えている人も多いはずです。確かに10代や20代のようにギラギラはしていないかもしれませんが、高齢になっても性欲が無くなることはありません。とは言っても、にわかに信じがたい人もきっといるはずです。かく言う私も最初はそうでした。

ここでは、調査データなどを基にあまり表沙汰にならない高齢者の性生活、性欲、性犯罪についてお伝えしていきたいと思います。

高齢者は性欲がないは嘘

冒頭で軽く触れましたが、「高齢者は性欲がない」という話をしばしば聞きます。結論から言うと、高齢者であろうと性欲が無くなることはありません。

まず、性欲は、人間の三大欲求の一つです。性欲とは「セックスがしたい」と思った状態のことを言いますが、性欲が掻き立てられるキッカケには主に3つの条件があります。それが下記のとおりです。

● 視床下部漏斗部(以下、性中枢)が刺激を受けて興奮する。
● 性ホルモン(男性・女性ホルモン)の分泌。
● 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感からの外的刺激。

性中枢は大脳皮質によって調整されているため、人は動物とは異なり年齢や気温、季節などに関係なくいつでも性行為ができます。つまり、大脳皮質が正常に働いている限りは性欲が無くならないということになります。

しかし、年齢を重ねるにつれて、性中枢は老化し、性ホルモンの血中濃度は低下していくため、刺激に対する感受性が弱まっていきます。また、肝心の性機能も衰えていきます。高齢男性の場合ですと、勃起能力の低下(硬度や持続など)、精巣の萎縮。高齢女性の場合は、卵巣、子宮、膣、外陰などの性器が萎縮されていきます。

これがよく言う「年のせい」による性欲の減退(衰え)です。ただ、あくまで減退であって、性欲が無くなる訳ではありません。ここが多くの人が誤解している部分です。

次は、高齢者夫婦の性交頻度について触れていきたいと思います。

高齢者夫婦の性交頻度について

ここでは、高齢者の性行為の頻度について日本老年行動科学会セクシュアリティ研究会で行われたセクシュアリティ調査の結果を交えて、お伝えしたいと思います。

この調査では、2012年に関東圏に住む40~79歳までの男女(有効回答1,162人うち有配偶者863人、単身者299人)に対して、自記式調査票と返信用封筒を配布し協力を依頼しています。

高齢夫婦の性行為の頻度の調査結果は、以下の通りです。

高齢者夫婦の性交頻度
※引用:日本性教育協会、現代性教育ジャーナルより

データを見みると、【この1年全くない】の回答について、60代男性は53%、70代男性は69%。60代女性は66%、70代女性が76%と両性共に、性行為を1年の間にしていない夫婦が半数以上の割合を占めているのが分かります。「やっぱり、性欲は落ちてくるのか」と思った方もいるでしょう。

しかし、これはあくまで夫婦間での性行為の頻度です。長年夫婦でいれば、相手を性行為の対象として見れなくなる(見なくなる)夫婦もいます。そこで、次は高齢者のマスターベーションについての頻度を見ていきたいと思います。

高齢者のマスターベーションの頻度

高齢者のマスターベーションの頻度
※引用:日本性教育協会、現代性教育ジャーナルより
※有配偶者の高齢者

上記で紹介した夫婦間の性交の頻度と比較すると【この1年全くない】の割合が減少傾向にあり、特に男性に関しては、女性より2倍近く減少しているのが分かります。次は、単身者のマスターベーションの頻度をみたいと思います。

単身者のマスターベーションの頻度
※引用:日本性教育協会、現代性教育ジャーナルより

60~70代というデータではありますが、単身者の方がさらにマスターベーションの頻度が多くなっているのが分かります。マスターベーションをするということは、性欲は間違いなくあることを意味し、「高齢者は性欲が無くなる」という意見を裏付けるデータになります。ただ、さすがに若年層と比べると行為の頻度が落ちてくるのは言うまでありません。

高齢者の性犯罪

ここからは、少しダークなお話になります。近年、高齢者の性犯罪が増えつつあるのはご存知でしょうか。

法務省の犯罪白書平成27年度版によりますと、平成26年の高齢者の性犯罪検挙人員は昭和61年と比較すると、強姦が約7.7倍、準強制わいせつが約19.5倍に増加しています。

被害者と被疑者の関係については、強姦、強制わいせつ共に被害者との【面識があり】および【親族】の割合が上昇。内訳として、強姦(面識あり)は、平成26年時点で平成7年と比べると約1.7倍、強姦(親族)は約8.6倍。強制わいせつ(面識あり)は約4.6倍、強制わいせつ(親族)は13.5倍とそれぞれ上昇しています。

● 孫娘にわいせつで70代の男が再逮捕

高齢の親族によるわいせつの検挙人員が上昇している件で、直近でも下記のような事件がありました。

2020年9月17日、徳島県に住む70代の男が孫娘に対する強姦の疑いで再逮捕されました。再逮捕の容疑としては2015年10~11月頃(2018年5~7月、強制性交疑いで2020年8月28日に逮捕されている)、自宅で同居していた10代の孫娘に手首を掴むなどの暴行を加え、わいせつな行為をしたとしています。県警は公的機関から「家庭で性的虐待を受けている」と通報があり、調べを進めていました。

全ての高齢者に対して、警戒しなければならないわけではありませんが「高齢者だから大丈夫でしょう」という考えは変えるべきでしょう。

こちらの記事にも、高齢者が犯した性犯罪のニュースがまとめられています。
高齢者が犯した性犯罪まとめ 2019年

介護現場でのセクハラ

介護施設でも介護をされる側の高齢者によるセクハラが、頻繁に起きています。介護業界で働く人の労働組合【日本介護クラフトユニオン】が2018年6月に公表したアンケート調査(回答者2411人(女性2107人、男性293人)を実施し、そのうちの7割が利用者から何らかのセクハラに該当する行為を受けたという結果が公表されています。多くは介護サービス中での出来事だということです。セクハラの内容は下記のとおりです。

● 不要に体に触れてくる。
● 胸や腰などをじっと見てくる。
● 性的な発言を繰り返してくる。
● 鍵をかけて逃げられないようにされた。
● キスをされた(されそうになった)。

実は筆者の私も介護現場でセクハラにあったことがあります。私は男なのですが、高齢女性を車いすに移乗するために抱えた瞬間、股間を掴まれたことがあります。最初は「たまたまだったかな?」とスルーしましたが、それを期に何度も触ろうとしてくるので、ある時、その女性に「溜まってるのかい?」と言ったら「うん、そうだね」とニコニコしながら言っていたのを今でも覚えています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
私自身がそうでしたが、介護業界に入るまでは「高齢になると性欲が無くなる」と勝手に思い込んでいました。理由としては、恥ずかしながら私自身が青年時代より元気がなくなっているため勝手に紐づけていただけです。しかし、介護施設で働くことになってから、それは大きな間違いだったことに気づきました。やはり、人間の欲求は死ぬまで無くならないかの如く、むしろ認知機能の低下などでタガが外れたかのように、性欲を全面に出してくる高齢者は数多く見てきました。一番の衝撃的だったのが、軽度認知症の高齢者が夜な夜なベッドの上で自慰行為をしていたのを目撃した時でした。その時は、あまりにも衝撃的だったので嫌悪感を抱きましたが、高齢者の性欲をタブー視するのは違うと思いました。あまりにも酷い場合は別ですが、性欲はその人の生きがいになる場合があるからです。例えば、恋愛です。性欲がある限り、いくつになっても異性を意識し、その意識が生きる源に変わります。もし、家族や介護者の人で、高齢者の性について関わることがあった際には「年甲斐もなく何をしているんだ」とは思わず、温かい目で見守ってください。

※参考文献:江東区医師会