高齢者の賃貸住宅について、世間では【高齢者は借りにくい】と言われています。私もケアマネジャーをしていた時に、利用者が事情により引越しを余儀なくされ一緒に探したことがありますが、普通の賃貸住宅は【ほぼ、無理】でした。
やはりそこには、家族状況や健康リスク、資産状況などがネックでした。ここでは、なぜ高齢者は賃貸住宅が借りにくいのか、大家さんはどう思っているのかなど、グラフなどを使って深堀していきたいと思います。
目次
実際に大家さんはどう思っているのか
冒頭でも触れましたが、世間的には「高齢者は借りにくい」と言われても、正直ピンと来ませんよね。そこで、高齢者の入居に対して、世間の大家さんはどのように思っているのか、平成28年10月に国土交通省が公表した【家賃債務保証の現状】で、住宅確保要配慮者の入居に対する大家の意識という項目で明らかにされていますので、そのデータを紹介します。
※出典:(公財)日本賃貸住宅管理協会(平成26年度)家賃債務保証会社の実態調査報告書
グラフを見ても分かるように、約6割の大家さんが高齢者の入居に拒否感を現しているのが分かります。一方で、高齢者に対して入居制限を行っている大家さんの割合は1割程度という意外と少ない結果も出ています。それが下記の通りです。
- 単身の高齢者(60歳以上)は不可:11.9%
- 高齢者(60歳以上)のみの世帯は不可:8.9%
- 生計中心者が離職者の世帯は不可:8.7%
入居制限をする理由についてのデータもありますが、それについては障害者や外国人、子育て世帯に対しての拒否感のデータも反映されているため、高齢者だけに対する理由であるという断定はできません。ただ、回答の一つに【居室内での死亡事故等に対する不安】が挙げられており、全体の18.8%を占めていました。この後でも少し触れますが、孤独死といった事故ではないかと思われます。
高齢者は審査が通りにくくなる
賃貸住宅を契約したことがある人なら分かると思いますが、賃貸住宅を借りる際には必ず【連帯保証人】を立てる必要があります。いわゆる、借主に何かあった場合でも代わりに賃料や賠償を支払ってくれる人です。
高齢者の場合は、身寄りがいなく連帯保証人を立てられない場合が多々あります。そうした人のために連帯保証人を代行してくれる【家賃保証会社】が存在します。
私の経験では(利用者など)、高齢者の生活保護者が保証会社に代行して賃貸契約を結んでいるケースが多くいました。言い方が悪いかもしれませんが、高齢者の生活保護者の多くは金銭的だけではなく、身内同士の人間関係、身内がいないといった問題を抱えているケースがとても多い印象でした。
ただ、必ず保証会社が代行してくれる訳ではありません。こちらに依頼する場合でも、保証会社が「連帯保証人になっても良いか」という審査が行われます。当たり前ですが、この審査が通らないということは、家が借りられないに等しいと思ってもよいです(連帯保証人を自分で見つけてくる以外は)。下記に、年代別に審査に通りやすい割合を調査したデータがありますので、ご覧ください。
このグラフを見る限りでは、70歳が境界線となっているのが分かります。さらに属性別の審査状況では、高齢(60歳以上)で年収350万円以下の人だと【通りやすい:45.3%】【落ち散見:28.3%】【落ち:15.1%】【申込みほとんどなし:11.3%】だったのに対し、高齢で年収350万円~500万円以下の人だと【通りやすい:67.9%】【落ち散見:22.6%】【落ち:0%】【申込みほとんどなし:9.4%】という結果でした。
高齢者でも年収である程度左右されるようです。どれだけ収入があるかというのは、その人の一種のステータスですので差が出るのは当然かもしれません。もし、年齢が70歳以上で年収が350万円以下の人だと家を借りるのは、さらに難しくなるのが今の現状と言わざるを得ないでしょう。
※出典:(公財)日本賃貸住宅管理協会(平成28年6月)「家賃債務保証会社へのアンケート調査」
高齢者が入居出来ない理由は【孤独死】
冒頭でも触れましたが、私もケアマネジャーをやっていた頃は引越し先を探す場面が多々ありました。住む地域にもよりますが「なかなか無い」というより「ほぼ無い」に等しかったです。
恐らく、ダメな理由は【孤独死問題】だとは思っていましたがあまりにもないので、思わず賃貸管理会社の担当者に「何でないんですかね?この利用者さんは、変な人ではなく、一定の収入もある方ですよ?」と白々しく尋ねると、担当者の方は「あまり大きな声では言えないですが、高齢者の方だと、今は元気でも、今後何があるか分からないので断るケースが非常に多いんです。いわゆる、孤独死ってやつですね。」と言い、さらに孤独死を理由に断ることについて詳しく教えてくれましたので、下記で紹介します。
なぜ、孤独死を理由に断るのか
真っ先に挙げられた理由は【孤独死】。これは、ニュース等でも取り上げられたりするので分かっている人が多いと思います。
孤独死をしてから発見されるまでの日数は一週間以上経った頃が一番多く、発見のキッカケで最も多い原因が【異臭】です。これが、夏場だと一週間もかからずに異臭を放ちます。
外部にまで漏れる異臭となると、部屋の中は防護服を着ないと危険なレベル(感染症など)に達し、体は溶けて床にまでしみ込んでいる状態になります。
ここから遺体を撤去して原状回復を行いますが、大家さんの多くは【ここからが一番困る】と言っています。それが下記の理由です。
- 現在入居している人が退去してしまう。
- 再募集をする際に、部屋で何があったかを告知する義務が発生する。
- 新規入居者が決まりにくくなる。
- 部屋だけではなく、物件自体が敬遠される。
といったリスクが起こるので、高齢者の入居を拒否すると話していました。正直な話、孤独死にかかる原状回復費用については、孤独死に対応した保険があるため、そこまで困らないということです(加入していれば)。
ただ、原状回復費用が補填できても【次に貸せなくなるのなら意味がない】というのが多くの大家さんの考えだということです。
私の経験談:車いすの人は拒否される傾向にある
高齢者住宅といった、普通とは違う賃貸住宅でならば車いすを利用している人でも全く問題なく入居ができます。しかし、普通の賃貸住宅はだいたいは断られました。その理由が【床が傷つくから】【壁紙や壁が損傷しやすいから】とのことでした。
「車いすのタイヤはゴムだから傷つかないでしょ?」と思うかもしれませんが、タイヤがゴム部分なのは後輪だけで、だいたいの車いすの前輪はプラスチック製です。しかも、前輪は360度回転するので床を傷つけやすい傾向にあります。新型の車いすだと改良されているのもありますが、旧式の車いすだとだいたいはプラスチック製です。
壁紙や壁の損傷については、気をつけていても車いすは意外と突起部分が多いため、穴を空けてしまったり、裂いてしまったりというのはよくある話だということです。特に、風呂場やトイレなど狭い場所だと動いた際にグリップ部分やフットレストの金属部分をぶつけて損傷させるといったケースは非常に多いとのことです。
「出るとき保証すればいいのでは?」と疑問に思うかもしれませんが、大家さんからしたらわざわざ損壊されるリスクが高い人を入居させたくないというのが本音だそうです。これは年式が新しい家だと尚更その傾向は強いようです。
高齢者でも借りられる賃貸住宅はあるのか
結論から言うと【あります】。
賃貸住宅を探す際に物件紹介欄に【高齢者相談可・シニア相談可】【高齢者向け・シニア向け】などと書いてあるものが存在します。恐らくですが、高齢者に対して寛容な大家さんなのだと思います。
今まで高齢者に対してネガティブな内容ばかりを紹介してきましたが、正直なところ、健康状態や収入状況(生保含む)に問題なければ、生活スタイルで言えば比較的規則正しい生活を送っている人が多いと思いますので、夜中の騒音問題やゴミ出しといった近所トラブルになることはあまりありません。
また、若い人と比べて頻繁に引越しをする人は少ないので長期的に家賃収入が得られやすい点があります。
ただ、そもそも高齢者向けの物件が多く存在する訳ではなく、あっても競争率が高かったり、住みたい地域にない場合がありますので、その点はご理解ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
グラフのデータを見る限りでは、高齢者は賃貸住宅への入居は厳しい状況なのはお分かりいただけたかと思います。私自身もその点は実際に体験しているので、そのまんまだと断言します(たまたま、探していた地域がなかったというのもあります)。また、高齢者問題の中でも筆頭と言っても過言ではない孤独死問題がネックとなっているようです。
ただ、最後にお伝えしたように高齢者向け・シニア向けといった物件もありますし、これからますます高齢者の人口が多くなってくるので、貸す側も「高齢者だからダメ」と言ってられなくなる時代がいつか来ると思いますので、諦めないで下さいね。