認知症の高齢者の事例別対応方法 6選

認知症の高齢者の行動は私たちでは考えられない行動を突然取るため、介護者の人は苦労が絶えないと思います。私も特別養護老人ホーム(以下、特養)に勤めていた時は本当に苦労しました。ここでは、そうした同じ苦労をしている介護者(家族も含む)に向けて、認知症の高齢者がよく取る行動の対応方法を事例別に紹介したいと思います。

事例と対応方法の紹介

認知症の高齢者の行動は、健常者からすれば「何をやっているんだよ」と呆れてしまうものばかりなのですが、本人にとっては大真面目です。大真面目の相手に対して、子馬鹿にしたり、素っ気ない対応をすれば、怒り出したりと収集がつかなくなることが多々あります。

そのため、相手が大真面目で言っている以上、こちらも同じ目線で真面目に受け答えをする必要があります。その姿勢が次にお伝えする事例に共通してきます。

事例①:ご飯を食べない時の対応

認知症の人で、今さっきご飯を食べたばかりなのに『ご飯はまだか!』、『ご飯を食べていない』というケースはよくあります。そうした場合によくやりがちな対応が『今食べたでしょ』です。

認知症状の物忘れは、我々がする物忘れとは次元が違います。健常者の物忘れの場合は、確信となる部分は忘れていても、シチュエーションや端々は覚えているけど思い出せない。といったように、忘れたこと自体は理解しています。

しかし、認知症の人はその時の出来事がすっぽりと消えているため【なかったこと】になっています。そういう感覚の人に『今、食べたでしょ』と言っても『食べていないよ!』と反論されるのは当然のことです。本人の世界では食べてないのですから。

こうした時は、相手の世界に入り、対応することが大事です。私がよく行っていた対応は下記の通りです。

●「あ、もうそんな時間でしたか。今からご飯作りますね」
●「今作っていますので、テレビや新聞でも見て待っていてくださいね」
●「待っている間にお茶でもいかがでしょうか?」
●「今日は出前を取っているんですよ。でも、もう少しかかるみたいですから、一緒にお散歩しませんか?」

などと笑顔で相手の主張を受け止め、他の話題に逸らす方法を使っていました。笑顔で受け止めることで相手を安心させ、他の話題に注意を逸らし『ご飯を食べなきゃ』という考えを薄れさせます。

少し卑怯かもしれませんが、実際には食べているわけですから、相手が安心して落ち着くのであれば良しと考えましょう。

事例②:失禁してしまった時の対応

認知症になると、下の機能が低下するため失禁をしてしまうことはよくあります。そうした時に、ついつい出てきそうな言葉が【汚い・臭い】です。

失禁をしてしまった本人も悪気があって失敗してしまった訳ではありませんので、これは仕方がないこと思い、介助者は割り切るしかありません。

覚えておいて欲しいのが『なんで?どうして?』、『そんな・・・』と本人の心の中では究極に恥じており、混乱しています。

そうした状況の時に『うわ、もう~汚いな』、『くさっ、何してるのさ~』といった言葉を浴びせた時には酷く傷つき、この上ないストレスを与えてしまいます。そして、『また、同じことになったらどうしよう』という不安や、臭い・汚いと言われた時のショックがキッカケで認知症状が悪化することもあります。

よくあるのが『ボケているから何言っても分からないでしょ』と思う方もいますが、決してそんなことはありません。認知症の人でも私たちと同じように感情があります。

指摘したくなる気持ちは分かりますが心の中でグッと堪え、適切に素早く対処してください。言ったところで、ただ相手を傷つけるだけなので現状は良くなりません。

事例③:お風呂や着替えをしない時

認知症の人で、お風呂に入りたがらない人は結構います。入浴を拒否する理由は人によって様々ですが、比較的多い理由が下記の通りです。

・入浴動作が分からないから入りたがらない(認知機能の低下のため)。
・入浴やお風呂の意味を忘れている。
・入浴は体力の消費が激しいので疲れるから入りたがらない。
・裸になることに抵抗がある。
・強要されるのが嫌で抵抗している。
・昔から風呂嫌い
・数日前に入った記憶をさっきの記憶だと思い込んでいる。

正直な話、拒否の姿勢になったらお風呂に入ってもらうのは難しいです。また、嫌がっているところに無理に進めると意固地になります。

そういう時は一度諦め、時間もしくは日を置いて、再度本人が興味を引くような声かけで対応するのが有効です。

●『今日はいい温泉の素を手に入れたのでどうでしょうか?』
●『一番風呂ですから気持ちよいですよ』
●『今日は○○の日(父の日・母の日、敬老の日などの祝い日)なので、お背中流させてください』

といったように、本人が興味を引くような声かけを性格に合わせて色々とアレンジすると良いでしょう。

場合によっては、足浴や手浴といった部分浴から始め【入浴は気持ちが良いもの】というイメージ作りから始めるのも、一つの手ですので試してみてください。

事例④:同じことを何度も言う時の対応

同じこと言うのは仕方がないと割り切り、絶対に否定せずに初めて聞くように話を合わせてください。「え?何回も言ってきたら疲れるよ」と思う方もいることでしょう。

そうした時は、オウム返しをしてみてください。ただし、全ての発言を同じように返すのではなく、相手の語尾に対してオウム返しをします。

例えば『○○で△△なんだよね~』と言った場合は『△△なんですね』と最後だけを切り取って共感するイメージです。

こちらも繰り返しオウム返しをすることで、ある時を境に本人の中で【聞いてもらえた】、【共感してもらえている】と感じ安心し、繰り返しの発言がなくなります。

認知症の人の対応の基本は、相手を尊重し、その人の世界に寄り添うことが大切になります。そして、オウム返しも共感という形で同じ世界に入っていることになります。

認知症の人と話を合わせることで本人は安心し、その安心感から落ち着いていき、繰り返しの発言が徐々になくなっていきます。

事例⑤:帰宅願望がある高齢者への対応

帰宅願望は、認知症のBPSD(心理・行動症状)の1つです。実は人間だれしも帰宅願望は持っています。

例えば、私たちも”遠く知らない場所に行けば自宅が恋しくなったり”、”居心地が悪い場所だから帰りたい”などといった気持ちに一度はなったことはありませんか?

その感情は、安心できる場所へ帰りたいと思うからこそ湧き上がってくる感情であり、その感情は認知症の人も持っています。ただ、認知症の人の場合は、自宅にいるのにもかかわらず『帰りたい』という時もあるので、なぜ『帰りたい』と言うのかの原因を突き止める必要があります。

認知症の人が帰宅願望をしてしまう多くの原因が【不安・焦燥・孤独・悲哀】といったネガティブな感情からくることが多いため、まずは本人にとって安心できている環境なのかを見極めることが重要になります。帰宅願望になる主な原因とその対応が下記の通りです。

帰宅願望になる主な原因 対応
・周りに人が多すぎて落ち着かない。 ・可能な限り少人数の環境を作る。
・部屋が広すぎて落ち着かない。 ・ 可能な限り、本人が昔に暮らしていた部屋の広さを提供する。 ・違和感のないパーテーションなどで部屋の広さを調整する。
・明かりが煌々としている。 ・時間帯によって明るさを調整したり、明かりの種類を変える。
・周囲から色んな雑音(話声・テレビやラジオの音・車の音など)が聞こえる。 ※音からは色んな情報が飛び交うので、気が散って混乱している可能性がある。 ・極力静かな環境を提供する。 ・本人が好きな音楽を流し、安心してもらう。
・安心して話せる相手がいない。 ・同世代の人がいなければ、職員や家族が本人の目線に立ち、日常的に会話をする。
・座る場所や部屋などがよく変更される。 ・環境に慣れるまでは無理な変更はしない。
・部屋に見慣れない物が多い。 ・本人にとって馴染みのある物を置くようにする。
・夕方になると周囲が慌ただしくなっている。 ※夕方に周囲が慌ただしくなることで『そろそろ帰らなければ』、『夕飯の準備があるから帰らないと』などという思いにさせてしまう。 ・夕暮れ時は、極力慌ただしくせずに日中と変わらないペースで過ごす。

これらの原因から不安や焦燥感などに駆られ、帰宅願望が出やすくなるため、本人の目的や訴えをよく傾聴し、本人が過ごしやすい環境を作ることが大切になります。

次に『帰りたい』と言われた時の対応です。環境を作っている最中などで『帰りたい』と言われることなどはよくあります。そうした時の対応が下記の通りです。

● 否定をしないで受け止め、少しずつ話題を逸らしていく
・『お困りのようですね、どちらに行かれるのですか?』と相手の目線に立ち、まずは本人が何を考えているのかを聞き、一緒に解決方法を探してください。

帰宅願望を言う人の中には『誰も自分のことを理解してくれない』と思っている人もいるため、本人の話を否定せずに受け止め『話を聞いてくれている』という気持ちにさせ、安心してもらうことが大切になります。その安心感が帰宅願望が薄れていく要因にも繋がります。

● 帰りたい理由を聞き、不安を取り除く声かけをする
・『そろそろ、子どもに夕飯を作ってあげなきゃ』、『家の戸締りをしないと』などといった理由で「帰りたい」と言う人もいます。

そうした「○○のために帰りたい」という理由が分かった時は、『今日は、お父さんが夕飯作ってくれるから大事ですよ』や『息子さんが戸締りしてくれたみたいなので大丈夫ですよ』などといった帰らなくても問題ないことを伝え、不安を取り除く声掛けをしてみてください。

中には信じない人もいるので、そのような時は、実際に本人との電話(テレビ電話含む)で言ってもらうような対応が効果的です。

事例⑥:物盗られ妄想の対応方法

物盗られ妄想の原因は、記憶障害や思考力の低下によるものから起こります。このような状態から本人の性格や生活背景、人間関係から『○○が盗られた』という妄想が引き起ります。

物盗られ妄想では、自分が大事にしている財布・通帳・宝石類などといった財産に関するものを盗られたと思い込む傾向にあります。理由としては、認知機能が低下したことにより、本来置いてある場所を忘れたり、思い違いや置き忘れから起こります。そして、本人と多く接している身近な人(介護者)が一番疑われます。

物盗られ妄想で疑われた時の対応については、下記の通りです。

● 落ち着いて話を聞く
・物盗られ妄想が出ている時は興奮していることが多いので、『盗っていない』と反論してしまうと逆効果になります。

まずは、肯定も否定も決してせずに『そうなんですね。』『それは困りましたね』『○○がないと大変ですね』などのように、その時の状況に応じて本人の気持ちを受け止め、安心させてください。本人の気持ちに耳を傾けることで、徐々に落ち着きを取り戻し、解決方法が見えてきます。

● 一緒に探す
・物盗られ妄想の場合は、本人の置き忘れなどから始まっている場合が多いので一緒に探しましょう。ただし、本人より先に見つけると『今、私が見てない間に戻したんでしょう』と言われかねないので、手分けして探すのではなく2人3脚のように一緒に探すことが重要です。

家族向け:辛い時は介護を休む

上記では、事例別対応方法についてお伝えしましたが、全てがこの通り上手くとは限りません。また、介護職員でしたらある程度、仕事として割り切ってできる部分もあるでしょうが、家族が行う在宅介護ではなかなか上手くいかないことが多いでしょう。

何故ならガン末期の介護とは違い、認知症介護は忍耐の連続で、その介護の終わりが見えないため精神的な負担は大きいはずです。そうした心理状態で『寄り添う介護をしましょう』と言われても出来るわけがありません。

精神的に余裕がない時は、時には介護を休むことも大切です。休むことで心身が癒され、リセットすることができます。『でも、どうやって介護を休むの?』『施設に入れる金銭余裕はないよ?』と疑問を持つ方もいると思います。

介護保険サービスの利用ができる状態でしたら、ショートステイという施設に短期入所させるサービスがあります。期間は最大連続30日まででき、1泊2日、5泊6日でも良いですし、そこは担当ケアマネジャーや施設と相談して決めると良いでしょう。まだ利用できない方は、すぐに介護保険の新規申請をおすすめします。

認知症介護の終わりは見えませんが、『あと何日頑張ったら、介護が休める』といったように月単位でゴールを決めると心に余裕が持て、寄り添う介護ができやすくなります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
ここでは、私が実際に認知症の方に実践していた時の事例別の対応方法についてお伝えしました。認知症の高齢者と接する時は、割り切ることが重要になります。言い方は悪いかもしれませんが、認知症の人は私たちとは違う世界に生きていることが多いです。性格や状況、病状などによって『○○すれば、絶対大丈夫です』というのはありませんが、認知症の人の世界に私たちがお邪魔するというくらいの気持ちで接し、その中で共通点を見つけていくと意外と上手くいきます。

ただ、介護側に心の余裕がないときは、イラっとしたりすることもあるでしょう。どうしてもその衝動が抑えきれない場合は「休んでもいいんだ」ということを思い出してみてください。そのような精神状態で認知症の人と接すると、自然とそういった感情が相手にも伝わり、症状悪化の原因にもつながることもあります。

また、そのようなことが繰り返されることによって、介護する側とされる側の間に溝が生じ、信頼関係がだんだんと崩れて行く可能性は十分に考えられます。責任感が強かったり、相手への思い入れが強ければ強いほどそういった悪循環は繰り返され、最悪の場合は犯罪にも繋がりかねないのです。

大切な人を頑張って介護するということはとても立派なことだと思います。しかし、終わりの見えない介護というのは精神的にも肉体的にもかなりの負担を伴うものです。一人で頑張り過ぎず、国の提供するサービスなどを適度に取り入れて、細く長くお世話をしていくということが、大切な人を最後までしっかり守り切ってあげることではないでしょうか。