「認知機能検査」の対策本 高齢者ドライバーから注目

わが国では、高齢化問題が社会問題となっていますが、同様に高齢者ドライバーによる交通事故も社会問題となっています。そんな中、昨年の2017年3月に行われた道路交通法の一部改正とともに、高齢者の運転免許証についての規定が変更されました。その中の一つが「運転免許証の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上のドライバーは、高齢者講習の前に認知機能検査を受けなければならない」という規定が追加され、条件にあたる高齢者は更新時に検査を受けなければなりません。

そんな中、最近高齢者ドライバーの間で「認知機能検査」の対策本が売れているのです。本来は、現在の身体の状態で、運転が可能なのかを検査するものなのですが、何故この対策本が売れているのか。ここでの記事では、認知機能検査の対策本について、触れていきたいと思います。

認知機能検査とは

認知機能検査とは、主に「記憶力」や「判断力」を測定する検査です。検査自体は、約30分ほどで終了なのですが、検査項目は大きく分けて3つあります。

時間の見当識
・主に検査日の日時を答える
手がかり再生
・提示されたイラストを記憶し、他の課題を行った後に、提示されたイラストをヒントなしに回答する。
時計描写
・時計の文字盤を描き、さらに指定された時刻を手書きで針を文字盤に描く。

認知機能検査の設問例

下記に、警視庁HPから実際に出されている「認知機能検査 検査用紙」を載せておきます。この用紙には、どのような検査が行われているのかが分かります。

● 警視庁HPより: kensayoshi.pdf

認知機能検査の対策本とは

冒頭でも軽く触れていますが、現在高齢者ドライバーの間で、認知機能検査の対策本が全国で爆発的に売れています。

「運転免許認知機能検査 まるわかり本」と題された本で、2018年5月に全国の書店などで販売され、10月時点で既に7万部も売れています。下記に、実際に販売されている対策本を載せておきますので、気になった方はご覧ください。

なぜベストセラーになったのか

ベストセラーになった背景には、やはり昨年3月から導入された認知機能検査の実施が要因でしょう。

この検査は、100点満点中49点未満だと「認知症の恐れあり」とされ、新たに免許証の更新をする際は、医師の診断が必要となります。

また、医師に「認知症」と判定されると、免許停止や取消しの行政処分を受けることになります。

認知症の恐れありと診断された人は「約 57,000人」

導入から1年間で「認知症の恐れあり」とされた高齢者ドライバーは「約 57,000人」にも上り、そのうち医師からの診断で、免許停止および取消しの行政処分を受けた高齢者ドライバーは「約 1,900人」もいます。

また、運転免許証の自主返納をした人などを合わせると「約 20,000人」もいることが分かっています。

対策本についての疑問

そもそも、認知症にかかっている高齢者が、対策本を購入し検査の予習をするのは難しいと考えます。

認知症の中で、罹患率が極めて高いアルツハイマー型認知症を例にとって説明したいと思います。

まず、健康の方は、対策本を購入するまでに以下のような行動を取ります。

①「認知機能検査の対策本」があると知る
② 認知機能検査の対策本を購入するには、どうすれば良いのかを考える。(ネットも含む)
③ 認知機能検査の対策本を探す
④ 購入しに行く

のように、少なくても上記のような行動を取ると思います。

しかし、アルツハイマー型認知症の方は「物事を頭で考え」「次の行動を想定し」「実施に行動する」という一連の流れを行うことが難しく、また、記憶力も通常より衰えています。そのため、途中で何をしたら良いかが分からなくなります。

上記の例はアルツハイマー型認知症の場合ですが、認知症の種類が違えども脳の病気であることには変わりはなく、どの認知症でも正常な判断が出来なくなる(出来なくなっていく)のは、共通しています。

そのため、この本は認知症の疑いがある高齢者にあてた本ではないことが推察できます。

仮に、何らかの形で対策本を購入し予習が出来ても、本番で予習の成果を出すことは不可能に近いです。

また、この対策本の件について、認知症に詳しい医師も、認知症の高齢者は対策本自体買わない(買うという発想がない)と話しています。

試験慣れしていない高齢者向け

対策本を出版している担当者いわく、何十年も机上での試験から離れているため、いざ試験となった場合に「緊張から頭が真っ白になる高齢者もいる」と話しています。

そういった高齢者に対して、本番でも実力が出せるように出版に至ったということです。

◇ そもそも、認知機能検査というのは・・・

認知機能検査というのは、記憶力や判断力など運転に必要な能力を検査する試験です。

そのため、対策本自体存在してよいのかという疑問が生まれます。検査の対策をされてしまえば、記憶力や判断力が適切に検査ができない気がします。

運転するなら出来て当たり前(筆者個人の意見)

筆者個人としての意見としては、キツイ言い方かもしれませんが、車を運転するなら試験が出来て当たり前。むしろ、出来ない人は乗らない方が良いと考えています。

まず、車を運転するというのは、とても危険な行為です。一つの判断ミスが、自分の命はもちろんのこと、他人の命をも奪ってしまいます。

さらに、運転中は咄嗟に判断しなければならない瞬間はいくらでもあり、そういった時に「どのように対処しなければならないのか」という判断力が問われます。

そのため、認知症(軽度も含む)にかかっている人が運転することは論外として、認知症にかかっていない人でも、適切に運転をするために必要な判断力などが鈍っている人は運転するべきではないと、私は思います。

まとめ

ここでの記事では、認知機能検査の対策本について触れさせていただきました。対策本に対する考え方は、人それぞれだとは思いますが、最後は私個人としての意見を述べさせてもらいました。

高齢者の中には、運転が出来なくなることで、生活が成り立たない人はいると思います。当サイトでも、そういった高齢者に対しての記事も取り上げています。

しかし、運転というのは非常に危険な行為です。これは、高齢者だけに限ったことではありませんが、一つの判断ミスが、相手の命も奪うこともあり、相手の人生を狂わせることもあります。さらに、相手の家族の人生をも狂わせます。

そのことを踏まえて、運転免許証の更新をしていただけたらと思います。