東京の高齢化問題と現状

わが国の高齢化率は世界でもトップクラスなのはご承知の通りだと思います。では、日本国内での高齢化率はどうなのか。令和元年版の内閣府の資料(平成30年現在のデータ)によりますと、秋田県の36.4%が最も高く、次いで高知県34.8%、島根県が34.0%と地方ほど高齢化率が高く、都市部ほど低くなっていく傾向にあります。

やはりそこには高度経済成長期の時代に地方から都市部、特に東京に向けて多くの若者たちが移動したため、地方の高齢化が始まりました。

現在も地方から大学の進学、就職で上京してくる若者は絶えずいるのは皆さんご存知の通りだと思います。しかし近年、東京にも高齢化問題が迫っているのをご存知でしょうか。ここでの記事では、東京の高齢化問題とその現状について触れていきたいと思います。

東京都の高齢化率と人口

東京都は2020年9月15日(敬老の日)時点での住民基本台帳人口を基に、東京都の65歳以上の高齢者人口(309万4千人)を推計したデータを公表しています。それが下記の表です。


出典:東京都
※人口数:万人

この表の通り、東京都は超高齢化社会に突入しています。東京は若者が多い街と思われがちですが、実際はそうではないことが分かります。特別区と市町村部別に見てみると、特別区の65歳以上の高齢者人口は202.8万人、高齢化率は22.3%。市町村部では106.6万人、25.5%となっています。

後期高齢者が増え続ける

東京都の高齢者の総人口は、2050年までに約440万人まで増え続け、東京都の総人口の約4割が65歳以上になると見込まれています。2050年以降は、75歳以上を除く全ての年齢階層で人口減が進みますが、高齢化率は変わらず上昇し続け、2100年には高齢化率は46%に達すると推計されています。

直近で問題になっている2025年問題についてですが、東京都に住む団塊の世代が75歳以上になる2025年の後期高齢者の人口は約191万人。2015年時点では144万人だったので10年間で50万人増えた計算になります。

高齢化によって起きる問題点

次は東京都が高齢化よって起きる問題点について掘り下げていきたいと思います。

高齢者の単身世帯の増加・孤独死の増加

東京都の高齢化の特徴の1つとして、高齢者の単身世帯が多いことが挙げられます。

2015年の国勢調査の結果によりますと、65歳以上の高齢夫婦世帯(夫婦のみ)は約56万世帯、世帯主が65歳以上の単身世帯は約74万世帯となっています。高齢者の単身世帯が増加している背景には、配偶者の死、もしくは配偶者が介護施設等に入所したことが挙げられます。そのため、今後も高齢者が増え続ければ単身世帯数も比例して増加することでしょう。

ただ、高齢者の単身世帯はリスクが大きく、その中でも孤独死問題が懸念されています

孤独死と言うのは、誰にも看取られず自宅で息を引き取ることを言います。単身世帯が増えれば自ずと、このような事態が増えるのは容易に想像がつくと思います。内閣府が2015年時点での【東京23区内における65歳以上の1人暮らしの自宅での死亡者数】のデータを公表しています。それが下記の通りです。

グラフを見てもらえたら分かるように、平成15年から増加傾向なのが分かります。今後、高齢者の単身世帯が増えれば、こうした孤独死も同時に増えていくことでしょう。

空き家問題

高齢者の死亡後、死亡した高齢者の住んでいた自宅が空き家になることが問題になっています。

2013年時点の東京都の空き家率は11.1%で高齢化率との相関が高く、今後も高齢化率が上昇すれば空き家率も比例して上昇していくと予想されています。

空き家が増えることでの問題点は、維持管理せずに長期間放置すると倒壊を招いたり、不審者の侵入、放火、不法投棄といった危険性の増加、景観悪化などの悪影響を近隣住民に与えます。

特に地方とは違い、東京都では住宅が密集しているため、空き家が1軒でもあると近隣住民への影響は大きくなります。

戸建ての場合の空き家問題になる背景としては【人口減少、少子化問題】【核家族化】【質や立地面で親世代の家を子世代が引き継がない】【売却・賃貸化が出来ない場合、更地にしたいが、固定資産税が最大6倍にまで上がる可能性がある】などです。

結局のところ、遺族も放置しておいた方がデメリットは少なく済むため、高齢化に伴い戸建ての空き家が増えると予測されています。

介護施設不足問題

東京都の要介護・要支援認定者は2002年度の170万人、要介護認定率が10.1%だったのが、2017年度には250万人、18.3%にまで増加しています。

要介護・要支援者が増えるということは、その人たちを支える介護施設等の需要が高まります。しかし、東京都では介護施設等の供給が追いついておらず、都内の特別養護老人ホームでは2015年時点で1施設当たりの平均待機者が296.3人もいます。

東京都では、介護施設等の供給が追いついていない状況を受け、近隣3県(千葉・埼玉・神奈川県)に頼っている部分があります。しかし、高齢化問題は東京都だけの話ではないので、3県も供給が追いつかなくなる可能性は十分にあります。今まで頼っていた県を頼れなくなると東京都だけで補わなければなりませんが、そうなると莫大な費用がかかることは容易に想像つくことでしょう。

1つの参考例として、介護施設を建てると仮定し、東京都と秋田県を比較したものが下記の通りです。

費用の差については、当たり前ですが歴然です。ただ、東京都は現在の介護施設等の状況を打開すべく、2015年位東京都総合戦略を打ち出し、2025年度末までに【特別養護老人ホームの定員6万2000人分】、【介護老人保健施設の定員3万人分】、【認知症高齢者グループホームの定員2万人分】、【サービス付き高齢者向け住宅等を2万8000戸】をそれぞれ整備するとしています。

介護基盤の整備に当たっては、市区町村が算定するサービス見込み等を踏まえた整備目標に基づき、介護施設へ入所するための都県間の移動が見られることを踏まえ、1都3県(千葉・埼玉・神奈川県)が連携および協力を図る方策を検討しています。

介護不足についても人材を確保すべく、都県の枠を超えた介護サービス等の利用・提供、そして労働力の移動についても連携協力していくことを検討しています。

病院不足問題

東京都には多くの病院(病床)があるように思われがちですが、実際はそうではありません。厚労省の【平成27年(2015)医療施設(動態)調査・病院報告の概況】によりますと、人口10万人あたりの病院病床数では、病床数トップは高知県2,522.4床に対し、東京都では948.3床。東京都隣接の近隣県である千葉県では943.3床、埼玉県は853.8床、神奈川県は810.5床といずれも全国で最低の水準です。

今後、東京都の高齢者の人口が増加すれば、今よりも病院に入院する人は確実に増えます。そうなれば、東京都のみならず首都圏の病院が不足しているため、さらに深刻な問題になると予想されています。

地域の崩壊

少し前までの日本では【向こう三軒両隣】という言葉をよく耳にしていましたが、今ではあまり聞かなくなりました。現在の日本、特に都市部では近隣住民の関係性は希薄化しています。

その例として自治会・町内会加入率の低下が挙げられます。都市部ほど若者の1人暮らし世帯、居住年数が浅い世帯などが多くなることから加入率が低く、未加入世帯ほど地域活動に関心がない傾向にあります。こうしたことから近所付き合いの希薄化が進み、地域活動の担い手がいなくなります。

地域活動は、近隣に住む住民にとってはかなり重要なものになります。各自治会や町内会の人たちが日々周囲の見回りなどを行うことで治安の維持に繋がり、ボランティア活動により地域が活性化するなど高齢者たちにとっては大きな支えになります。もちろん、その地域に暮らす若い人たちにもその恩恵はあります。

しかし、地域が崩壊すればそうした恩恵はなくなり、恐らくですが行政が介入せざるを得なくなるでしょう。それはつまり、税金を投入しての地域の維持となるため、回りめぐって都民税などに上乗せされ私たちの懐にダメージを与えるでしょう。

まとめ

ここでは、東京都の高齢化による問題と現状についてお伝えしました。やはり、東京と聞くと若者のイメージは未だにあります。あながち間違いではないですが、多摩ニュータウンを例に出すと分かると思います。

こちらも東京都にありますが多摩ニュータウンの高齢化は深刻な問題になっている地域です。今後の東京都は単身世帯の高齢者が増え、高齢者の社会的孤立が増えていくと予想されます。しかし、これを補うとなると本記事の最後でも触れたように税金がかかり、回りめぐって私たちの懐を痛めます。

この問題は東京都に住んでいる人であれば他人事ではありません。自治体や町内会などの役割は知らない所で私たちの生活に関わっていることを認識し、みんなが住みやすい地域にしていくためにも高齢化に関心を持つことが大切です。