農業の高齢化問題 高齢化の原因とは

高齢化問題と聞くと医療福祉サービス、社会保障費などに注目されがちですが食の問題も大きく絡んでいるのをご存知でしょうか。農業の高齢化は、農業の崩壊を招き、日本産ブランドでもある安心安全性の消失、長年培ってきた農業技術の消失、食料の大半を輸入に頼ってしまうなどの問題が引き起こされます。

農業が高齢化してしまった主な原因は、少子高齢化の影響を受けているのは間違いないのですが、単純に若者が少ないだけの問題ではありません。ここでは、私たちの食の根幹でもある農業の高齢化の原因や現状についてお伝えしたいと思います。

農業の高齢化の現状とは

農業の高齢化率や人口は、農林水産省でデータが公表されていますので、そちらを基に紹介していきたいと思います。

農家人口と農業就業人口の推移

補足として、農家人口とは農家の世帯員のことです。農業就業人口とは、15歳以上の農家世帯員のうち、調査期日前1年間に農業のみをしていた人、もしくは兼業をしていたが農業に従事していた日数が多い者を指します。

グラフを見てもらえたら分かるように、農家人口・農業就業人口は年々減少しているのが分かります。実働の有無については就業人口を見るとよいでしょう。

わが国の農業就業人口のピークは1960年で約1,454万人いましたが、2010年には260万人にまで減少。2016年には200万人を切ってしまい、毎年約10万人以上のペースで減っています。ちなみに、平成31年の398.4万人を対総人口比にすると僅か3.2%です。私たちの生活に不可欠な、安心安全で美味しい食材を作ってくれる農家の人口が対総人口比の3.2%しかいないのは、かなり深刻な問題といっても過言ではありません。

農業の平均年齢と高齢化率とは

このグラフを見ても分かるように、農業の平均年齢が65歳以上と異常な高さとなっています。ではそれがどれくらい高いのかを、学生や社会人からも人気のある職業の看護師を例に挙げてみたいと思います。

令和元年賃金構造基本統計調査によりますと、看護師の平均年齢は39.5歳で農業と比べると20歳近くも離れています。高齢化率に至ってはわずか10年で10%も上昇し、いかに農業の高齢化が進んでいるのかが分かります。
※補足:看護師の平均年収は482万9,100円となっています(農業の年収についてはのちに触れます)。

農業が高齢化している原因とは

ここでは農業が高齢化している原因について触れていきたいと思います。

後継者不足

1970年代ごろから農業の高齢化問題が危惧されていました。この背景には若者の後継者、新規参入不足が原因です。この状況は30年近く経っても好転せず、農林水産省によりますと、平成29年の44歳以下の新規就農者は18.0千人、新規自営農業就農者が8.4千人、新規雇用就農者7.2千人、新規参入者2.4千人となっています。

上述で紹介している通り、高齢化率が上昇しているということは、これからの農業を担う若者がほとんど入っていないことを意味します。若い人が入らなければ、農業の高齢化率が上昇し続けるのは言うまでもありません。

収入面が厳しい

一般的に農家には専業農家と兼業農家の2種類があります。専業農家とは家族全員で農業を営んでいる世帯を指します。一方、兼業農家とは家族の中に他に仕事を持っている人が1人以上いる農家のことで、よくあるのが両親が農家を営み、息子が外で働いているケースです。

さらに、兼業農家には農業収入をメインに生活をしている第一種兼業農家と、農業収入がメインではなく他の職と兼業して、兼業している収入がメインの第二兼業農家の2種類あります。

現在、わが国では専業農家より兼業農家の方が圧倒的に多く、第二種兼業農家の方が多いのが現状です。第二種兼業農家が多い背景には、収入面の厳しさがあるのかもしれません。

農業の平均年収については採る作物によって異なりますが、農林水産省の農業経営統計調査によりますと、農業の平均年収は450万円前後。安定してもらえるボーナスはなし、社会保険料や税金など諸々引くと月収にすると30万円程度でしょう。

加えて約4割の人は平均年収が300万前後と言われており、それも全て安定して作物が採れているのが条件です。

新規参入事業者にはハードルが高い

わが国の農家の多くは世襲制度です。世襲制度とは簡単にいうと、父親が引退して息子が引き継ぐことです。世襲制度の良いところは、やはり土地代や設備投資などにお金をかける必要がないところです。また、ある程度の地盤を築いてから世代交代をすると思うので、一定の収入も確保できているところがほとんどです。

では、全くの新規で農業を始めるとどうなるのか。農業を始めるには、まず農地や農業設備が必要になります。農地は購入より賃金の方が得と言われており、2013年の全国平均で10アールあたり田んぼ10,778円、畑5,562円程度です。アールを坪数にすると、10アールはおよそ302坪になります。次に農業設備ですが、ここは何を作るかによって異なりますので一概には言えませんが、平均取得費用は411万円となっています。

初期投資を無事乗り越えたとしても、次は維持費(肥料・燃料、土地代など)や天候との戦い、収穫しない期間の生活費などの問題が出てきます。仮に無事に収穫ができても、売り物にはならず、安定して作物を現金に変えられる保証はありません。農業は必ずしも努力が対価として返ってくる職業ではないのです。

そうしたことからも『リスクはあるけど、俺はやる』という気骨のある若者でなければ農業をあえて選ぶのかは疑問なところです。ちなみに、農林水産省の新規就農者数の全体推移では、平成30年の49歳以下の新規就農者は19,290人で、平成27年の23,030人から連続で減少しています。

全産業より未婚率が高い

上記で世襲制度について触れましたが、農家の未婚率が異常に高いのも問題です。

全産業と比較すると未婚率の高さが分かると思います。未婚率が高いということは親から子へと引き継ぐことができません。そうなると、廃業となり農家人口が減り、日本の農業が衰退していきます。

子がいないのなら従業員を雇い、その人に引き継いでもらうという手段もありますが、そもそも農業をやりたがる人が少ないため、そちらの流入はあまり期待できないのが現状です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
ここでは、農業の高齢化についてお伝えしました。冒頭でも触れましたが、高齢化問題となるとどうしても医療福祉サービス、社会保障費問題などに注目しがちです。もちろん、それらの問題はとても重要なことのですが、高齢化問題はさまざまな事に影響してます。その1つが農業です。

日本人は元々農耕民族でしたが多様化により農業をやる人が徐々に減っていきました。しかし、日本人の食を支えているのは、農家の人たちの努力からだということを決して忘れてはいけません。こうした現状を知っているのと知らないとでは今後の農業の未来は大きく変わってくることでしょう。