高齢になると食事量が減っていく傾向にありますが、必要栄養量はさほど若い時と変わらないため極力食事量は落としてほしくないところです。
しかし、認知症になってしまうと病気の影響で食事を食べないことがあります。認知症高齢者を介護している人ならそんな場面に出くわしたことがあると思います。
私も介護施設で働いていたので、食べない人に食べてもらうのは本当に苦労しますよね。。ここでは、私が介護施設で実践していた、認知症高齢者が食事を食べない時の対処法について紹介していきたいと思います。
目次
食事を食べない時の対処法とは
結論からいうと、認知症の進行具合やその人の状況によるので、「○○をやると大丈夫」という特効薬のような対処法はありません。
基本的に認知症の方は、自分で「○○が悪いので食べたくない」という食べない理由を伝えるのが難しいので「食べない」という態度で表す場合が多いです。
赤ちゃんとまでは言いませんが、赤ちゃんも【お腹が空いた】【下が不愉快】【寂しい】などの「○○してほしい」という意思表示を泣いて表しますよね。
これは、認知症高齢者にも共通している部分があり、食べれない原因を深く考えること(推察する)で対処法が見えてきます。その中でもよく起こる原因とその対処法について、次で見ていきたいと思います。
食事環境が原因で食べない場合
食事環境のセッティングはとても大事です。特に認知症になると環境の変化に過敏になり、食べる気を無くすことがあります。次にお伝えするのは、よくある無くす原因についてです。
騒がしい環境
よくあるのが【テレビ・ラジオ】といった雑音が原因で気が散って食べないケースです。人にもよりますが、通常聞きたい音には集中して聞き取り、そうでない音は遮断するといった音の選択が無意識に出来ます。
しかし、認知症を患うと音の選択ができないため音の方にも意識が行ってしまい、食事に集中できない場合があります。
● 私が実際に施設(グループホーム)で認知症と音について経験したことがありますので、お話します。
食事の時は、何人かの利用者と一緒に食事をするのですが、毎回「シーン」と静かになることが多かったので、賑やかになれば良いなと思い、私はラジオをつけることにしました。
すると、ある認知症利用者の方が徐々に食事のペースが落ち始め、最初のうちは「お腹がいっぱいなのかな?」と思って下膳したのですが、次の食事(ラジオを付ける)になると今度は全く食べなくなり、それが数回続きました。体調不良の傾向もなく、明らかにおかしいと思った私は急に食べなくなった時の環境の変化を探ることにし、「ラジオをつけた日から様子が変わった」と思った私は次の食事時にラジオをつけなかったところ、その方は今まで通り食事を食べたということがありました。
もちろん、個人差がありますので食べないから音のせいという訳にはなりませんが、音が原因で食べなくなるということはあります。
そのため、そうした傾向にある方は【静かな空間・落ち着ける空間】を作ってあげてください。
適正ではない室温・湿度
今の季節、例えば冬であれば「室内は寒すぎないか」「乾燥していないか」など気を配ることが大事です。認知症になると「今は寒い・暑い」を正確に言えなかったり、逆に「寒いのに暑い」などと言ってしまうこともあります。
快適ではない環境では食欲はわきませんので、環境に合った室温・湿度調整を行って下さい。
大勢で食べる
いわゆる【気が散る】ということです。周囲に人がいると、視界や音などから様々な情報が
入ってきます。それらの情報が食事に集中できない原因になります。
そうした場合には【孤食(1人で食べる)】という手段をとってみてください。
食事そのものを理解していない
認知症の進行で食事そのものを理解していない場合があります。例えば「これは私のゴハンじゃない」「これがゴハンなの?」「お金持っていないからいらない」「食事道具の使い方が分からない」などで食べない場合があります。私が経験した事とその時の成功した対応を紹介します。
自分の食事を認識していない場合
食事を理解していない人に配膳をしても「これは私のじゃないわ」「これは何?」などと拒否することがあります。
そうした場合には、配膳をする前に【食事をする雰囲気を作る(食卓をレストランのように綺麗にする・ランチョンマットを一緒に敷く・食器を並べてもらう)】、【調理をしている姿を見せる】、【献立の話をする】などといった「今からゴハンですよ」という雰囲気を作ることが重要です。
認知症だから「何言っても分からないでしょ」と思っている人がいるかもしれませんが、必ずしもそうではありませんので試してみてください。
食事道具の使い方が分からない場合
よくある例として、使いやすいと思った【自助具】や【普段使わない食器】などを出した場合です。良かれと思ったことが本人にとっては突然の変化に混乱し、対応できず食べないということがありますので、なるべく長年使っている食事道具や食器を使ってください。
やむを得ず変更する時(破損など)は、変更したことを分かりやすく説明し、時間をかけて慣れてもらうしかありません。
品数が多すぎて食べない場合
どれから手をつけていいか分からず食べない場合があります。ご飯と味噌汁と主菜の3品でも多いと感じることがあります。
そうした時は【1品ずつの提供】や【のっけ丼(ご飯の上に魚の切り身を小さくして乗せるなど)】、【ワンプレートの皿に盛り付けて提供する】と食べる場合があります。
体調不良が原因で食べない場合
認知症になると、正確に「○○が悪いので食べたくない」と伝えることができなくなります。次で話すのは、体調不良で食べない例について紹介します。
便秘をしている場合
基本的には認知症問わず、高齢者は便秘になりやすい傾向にあります。便秘になると、便でお腹が張って吐き気や食欲不振に陥ります。
認知症の方が便秘になっても便秘を上手く伝えられないので、食欲がないと感じたら直近の排便日の確認、腹部の張りなどを確かめてください。便秘による食欲不振は、認知症高齢者では特にあるので覚えておいてください。
睡眠不足が原因で食べない場合と解決法
食事の時間になっても元気がなかったり、「ボー」っとして食事をしない時は、睡眠不足を疑ってください。
高齢になると、セロトニンやメラトニンの生成不足(睡眠を促すためのホルモン)で不眠症に陥る傾向にあります。不眠症になると体内時計も狂いやすくなるため夜に覚醒してしまい、日中に疲れ果て眠ってしまうという負のサイクルが出来上がります。また、薬の副作用で日中に眠くなってしまい傾眠がちになる場合があります。
そうした場合には、主治医に相談し服薬の変更などをしてもらうことをオススメします。ただ、服薬以外での睡眠不足の対策はあります。
・食事を摂る場所に日の光がしっかりと入り、明るい場所なら問題ないですが、立地によっては晴れていても暗い場所もあります。暗いと眠気を誘いますし、気分も落ちますので、暗い環境での食事は避けてください。
● カフェインが入っている飲み物は避ける。
・カフェインが入っている飲み物は睡眠不足を引き起こしやすくなります。有名どころで言えば【コーヒー・緑茶】でしょう。もし、好きで止められないという方は、午前中までに飲むこと(1杯)をオススメします。
● 起床・就寝時間を一定にする。
・起きる時間、寝る時間が日によってバラバラだと生活のリズムが整いづらいため、睡眠不足の原因になります。日の光を浴びることで入眠に必要なセロトニン物質などが体内で分泌されやすくなるので、なるべく多くの日の光を浴びるよう朝に起床することを心がけてください。睡眠のコントロールが難しい人は、睡眠導入剤でコントロールすることをオススメします(主治医相談の上)。
もし、昼夜逆転をしてしまった場合には【日中は絶対に寝せない】が鉄則です。多少嫌がられますが昼夜逆転は健康によくありません。私が行っていたのは【大きな声で話す】【冷たいタオルなどで首元冷やす】などと意地でも寝せないようにしていました。
これは予防の観点ですが、出来る方なら体操や運動を積極的に行ってください。普段から体を動かす機会が増えれば昼夜逆転の予防になりますし、エネルギー消費も進むので食欲増進に繋がります。
まとめ
ここでの記事では、私が介護施設で認知症高齢者を介護していた時によく遭遇した原因・場面と対処法について紹介ました。
しかし、このやり方は全ての人に当てはまる訳ではありませんので、1つの原因や手段として覚えていただけたらと思います。
私が食べない時に、まず実践していたことは【今までどういう食べ方をしていたか】【嗜好品は何か】【今日の機嫌や体調はどうか】【食事に集中をしているのか】【普段と違った場面になっていないか】などです。
認知症高齢者は体調の変化や環境の変化に敏感なため、食事をする環境をしっかりと整えると解決することが多いので、広い視野を持って食事のセッティングを行ってみて下さい。