アジアの少子高齢化問題、その現状についてグラフで解説

少子高齢化問題は、先進国特有の問題ではなくなっているのはご存知でしょうか。1960年半ば以降のアジアは、生産年齢人口(現役世代)が従属人口(高齢者や子ども)を上回っている状態の人口ボーナス期(※)にありましたが、2010年以降は高齢化の成長等を表す人口オーナス期を迎えています。

わが国にも言えることですが、少子高齢化は労働力の低下、国内貯蓄率の低下を通じた投資の減少などから国の成長力を押し下げます。また、医療介護費や年金負担の増加、税収の減少といった財政や家計にも影響を与えるため、国全体が弱体化していきます。ここでは、アジアに起きている少子高齢化の問題、現状についてグラフ等を使ってお伝えしたいと思います。

※人口ボーナス・オーナス期は記事後半に説明しています。

アジアの少子高齢化の現状

日本も同様ですが、アジアの少子高齢化は年々悪化の一途をたどっています。その主な原因は、経済発展による都市化、教育の普及、医療福祉サービスの整備、寿命の延伸などがあげられます。特に経済発展による都市化、いわゆる近代化ですが国自体が豊かになり人口が増える半面【人口転換➡少産少死➡人口高齢化】を生みます。では、アジアの少子高齢化の現状を見ていきたいと思います。

アジアの高齢化率・人口の推移

アジアの高齢化率については、アジアの中でもとりわけ高齢化率が高い国(日本、香港、韓国、シンガポール、タイ)の推移を見ていきたいと思います。


出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構 「データブック国際労働比較2020」より
※単位:%

日本は他の国とは違い高水準で推移していましたが、2020年を機に他の国も急激に高齢化率が伸びたのが分かります。また、高齢者の人口も顕著に増加しています。

日本を除いて、韓国・タイの高齢者の人口は飛躍的に増えており、特に2020年以降から急激に増加しているのが分かります。韓国を例に挙げれば、韓国にも日本の様にベビーブームが到来しており、その時期が1955~1963年です。この時代に生まれた人たちが2020年前後に65歳以上になることから、表の様に急激に高齢者人口が伸びると予想されています。

少子化・未婚率

アジアの高齢化率の上昇、高齢者の人口が増加している一方で、アジアの未婚率の低下、合計特殊出生率の低下が減少傾向にあります。


※出典:図解でわかる ざっくりASEANより

上記のデータは女性の未婚率ではありますが、未婚率が高いと子どもを作るチャンスが少なくなるのは言うまでもありません。

2019年6月に内閣府が発表した【2019年版少子化社会対策白書(2017年時点のもの)】の合計特殊出生率の数値では【日本:1.43(2.07)、韓国:1.05(4.28) 、香港:1.13(2:89)、タイ:1.47(4.96) シンガポール:1.16(2.62) 台湾:1.13(3.71)】となっています。()内は1970年の数値。

アジアの少子化は、経済発展による所得水準の向上により1980年代以降は減少傾向にあります。所得水準が上昇すると少子化が進む背景としては、子どもを持つコストが増える且つ、女性の社会進出の拡大で子育てに対する機会費用の向上に繋がります。

さらに、工業化の進展で子どもが労働力となる農業が縮小していったため、子どもをたくさん持つことのメリットが薄れたことも原因の1つです。

平均寿命

World Bank Data Indicators(2017年時点)によるアジアの平均寿命で言えば、【香港84.6歳(61.0)、日本84.1歳(63.9)、シンガポール82.8歳(60.4)、韓国82.6歳(47.5)、タイ76.6歳(50.8)】()内は1950年の平均寿命。

1950年と比べると圧倒的に平均寿命が延びています。やはりそこには、経済成長、とりわけ現代医療技術や防疫システムの構築などが挙げられ、先進医療等の進歩で急性期疾患の救命率は飛躍的に上昇したことが、人類史上類を見ない速度で平均寿命が延びたと考えられています。

少子高齢化による影響

上述で、高齢化の現状についてお伝えしましたが、高齢化による影響はどのような影響を及ぼすのか。まず、人口動態の変化が経済に及ぼす影響について見ていきたいと思います。

●人口動態の変化のイメージ図

人口の長期的な推移は、初期段階は【多産多死(多く生まれ、多く死ぬ)】型の社会から、経済の発展により生活の質が向上し、死亡率の低下、人口拡大による【多産少死】型へ移行します。いわゆるベビーブームです。このベビーブームで生まれた労働力がさらに所得水準も相応に高めることで少子化が始まっていきます。いい例として日本の高度経済成長期の初期から現在までがこれにあたります。

少子化の初期は、労働人口は多いため高齢者層はそれほど多くなく、扶養される高齢者や子どもの人口は全体に占める割合は低くあります。また、労働力が高いため扶養の負担が比較的少なく、経済が活性化しやすい状況になります。この状態を多産少死型から少産少死型への転換過程がもたらす経済的有利性【人口ボーナス】と呼びます。

しかし、人口ボーナス期は長続きせず一度来たら二度と訪れないと言われており、少子化世代に生まれた若者が生産年齢人口(16歳から64歳まで)に達する頃には、ベビーブームで生まれた人たちが老年世代に移行しています。

この時期になると労働人口が減少する一方で、ベビーブーム世代の高齢化により医療福祉の負担が増大し、国全体の負担が高まります。このことを【人口オーナス(負担)】と呼びます。

現在、大半のアジアの国々では人口オーナス期に突入しており、少子高齢化の影響を受け始めています。

経済へに打撃を与える

人口ボーナス期には、豊富な労働力があるため、従属人口(高齢者や子どもなど)を扶養する負担が軽いため、人口構成が1人当たりの経済成長を押し上げる効果があります。

逆に人口オーナス期は生産年齢人口が低下するため、潜在成長率の下押し圧力になります。潜在成長率とは、国内にあるモノやサービスを生産するために必要な【資本・労働力・生産性】の3つの【生産要素】を最大限に活用できた場合の国内総生産(GDP)の伸び率のことを言います。

こうした状況を打破するためには、時間当たりの生産性を向上させ、且つ女性や高齢者の労働力を加えていくとともに、外国人や移民労働者を活用するなどをして労働力を向上させる必要があります。いずれにしても、働く人がいなければ国は弱体化していきます。

財政面の負担の増加

少子高齢化は医療、介護費や年金制度といった社会保障費関連の国民負担率が大きく高めるため、現役世代を中心とする家計や企業の可処分所得が低下していきます。そうなると、労働者は労働意欲の低下、購買力の低下、企業は設備投資意欲が削がれ、経済がさらに下押しになる可能性がでてきます。

家庭事情について、韓国やタイでは老後の生活費は「①家族が面倒をみるべきだ」「②社会保障で賄うべきだ」に関する質問に対して、数値が時代の影響で逆転傾向にあります。

「①家族が面倒をみるべきだ」については、1980年代の韓国では49.4%あったのが1996年には28.2%。タイでは61.4%が41.9%まで減少しています。日本では18.8%に対して12.8%とそこまで大差はありません。

「②社会保障で賄うべきだ」では、1980年代の韓国では8.2%だったのが1996年には29.2%、タイは10.6%が16.1%、日本は21.8%が37.7%と各国ともに上昇しているのが分かります。

各国の1980年代は労働人口も豊富で経済は豊かな時期でしたが、1990年代以降は少子高齢化の影響で労働人口も年々低下しています。労働人口が減るということはさまざまな所で影響が出てくるため、結果、家庭の懐事情が厳しくなり「家族が面倒を見るべき」と考えていた人たちはそれができなくなり、社会保障費に頼らざるを得ない人たちが多くなっていると考えられます。

ただ、日本以外のアジアの社会保障制度は充分に整備されておらず、強いて言うなら軍人や公務員などの一部の人たちをカバーするだけでやっとなところばかりです。医療面で言えば、韓国は1989年に国民皆保険を実現していますが、他のアジアの国々では財政面の問題から整備が遅れています。加えて、高齢者人口が多くなっているにもかかわらず、高齢者施設もまだまだ少ないのが現状です。

社会保障制度が遅れている原因としては【経済成長が政策中心だったこと】【高齢者人口、高齢化率が予想以上に急速に上昇してしまったこと】【国民の社会福祉に対する意識が低い】などが挙げられます。

アジアを含む発展途上国の多くは、経済成長ばかりに力を入れる傾向にあるため、福祉の対応が遅れるがちになります。そのツケが今になってきているのです。

まとめ

日本を始めとするアジア諸国は人口ボーナス期を活用し、東洋の奇跡と呼ばれるほどの目覚ましい経済発展を遂げました。しかし、2010年以降は人口オーナス期を迎え、徐々に少子高齢化の影響を受けつつあります。

その影響については本記事の通りですが、こうした状況を打破するためには、労働力の確保、生産性の向上、医療福祉制度や年金制度といった日本が打ち出している政策をアジアの諸外国も積極的に行う必要があります。ただ、急速に少子高齢化が進んでしまったため、それらの整備が追いついていないのが現状です。