対話型AIによる高齢者の健康増進サポートを実施

現在、福祉業界にはさまざまなロボット産業が進出しています。たとえば、介助を直接行う人の体に装着するタイプのものや、湯船の出入りの補助を行うもの、高齢者を移乗するタイプのものなど、今では多岐に渡ります。そんななか、ある企業がロボット技術を生かして制作された対話型AIロボット「ZUKKU」。この対話型AIロボットZUKKUを、ある施設に試験導入を行ったところ、高齢者の健康値が上がったことが分かりました。なぜ対話型AIロボットの導入で、高齢者の健康増進に繋がったのか、そしてどのようなロボットなのかをお伝えしたいと思います。

介護ロボットの原点とは

現在のわが国の高齢化率は27.7%、4人に1人が高齢者ですが、今後ますます高齢化率が上昇すると見込まれており、2035年には3人に1人が高齢者の時代が来るといわれています。

高齢者が増えていく一方で、その高齢者を介護する人材不足という問題も同時に抱えています。こういった状況を打破すべく、政府は2008年に「介護ロボットの活用やビジョン」について触れており、2011年には厚生労働省が福祉用具・介護ロボット実用化支援事業を開始しました。

その後、介護ロボットの重点分野が設けられ、現在は「6分野13項目」の介護ロボットカテゴリーが定められています。

6分野13項目の介護ロボットカテゴリー

ここでは、政府が設けた重点分野「6分野13項目」の介護ロボットカテゴリーについて紹介したいと思います。

q分野 項目
移動支援 ● 屋内型
・起き上がりや立ち上がりなどといった動作を支援する機器。
● 屋外型
・荷物などを安全に運搬することが出来る歩行支援機器。
● 装着型
・高齢者の一部に装着し、転倒の防止や歩行のアシストを行う機器。
移乗介助 ● 装着型
・介助者に装着し、介助に使う力を補助する機器。(パワースーツ)
● 非装着型
・介護ロボット技術を用いて、介助者の力を補助する機器。
排泄支援 ● 排泄処理型
・排泄処理が出来るトイレの設置位置の調整が出来るトイレ。
● 動作支援
・トイレ内での動作(下衣の上げ下げなど)の一連の動作の補助を行う。
● 排泄予測型
・トイレのタイミングを的確にし、トイレ誘導を行う。
入浴支援 ● 先進のロボット技術を活用し、浴槽の出入りの一連の動作を支援する。
介護業務支援 ● 介護業務(移動支援・排泄支援・見守りなど)に伴う情報を収集し、その情報を基に、高齢者等に必要な支援に活用する機器。
コミュニケーション・見守り ●施設型
・センサーによる感知で、施設職員などに高齢者の動きを探知する機器。
●在宅型
・センサーによる感知により、転倒や外出する高齢者などを検知し、知らせる機器。
●コミュニケーション型
・高齢者と対話をする機器。

コミュニケーション型の介護ロボットについて

上述した介護ロボットカテゴリーですが、その中に「コミュニケーション・見守り」という分野の「コミュニケーション型」があります。

これは、人工知能(AI)が搭載されている介護ロボットが高齢者と対話する機器のことです。次に、ある企業が制作した対話型介護ロボットについての特徴と、その実証についてお伝えしたいと思います。

対話型介護ロボットの登場

株式会社ハタプロという企業が開発した、手のひらサイズの対話型介護ロボット「ZUKKU(以下、ズック)」。このズックというのは、身長わずか10cmほどの手のひらサイズの鳥型で、利用者の情報や環境などの情報を集積し、利用者にとっての最適な情報を提供するロボットです。

たとえば・・・

★ 昨日の献立が「魚」だったとします。

● ズックが「昨日は何を食べましたか?」
と聞きます。

☆ 「魚」
と答えます。

●ズックが「 今日はお肉にしませんか?」
と提案後、肉料理などについての紹介をします。

というように、助言をしてくれます。これらの助言の情報は、ネットに繋がっている情報を、利用者に合わせた内容に変換して助言をするものとなっています。食事以外でも、ニュースや体調面などの対話も可能です。

健康増進サポートの実証

株式会社ハタプロは、長谷工アネシス、長谷工シニアホールディングスと共同で、自立型有料老人ホームの入居している5人を対象に、ズックを使用した実証を行いました。(平均年齢76歳)

この実証では、まず最初にズックとの対話前と対話後の変化の状況を確認するために、利用者には生活や健康面の問いが書いてあるチェックシートに記載してもらう。

そして、ズックの音声とタブレットの画面表示による対話を実施。ズックと利用者が会話をしていき、利用者の暮らしの情報を取得していく。その取得した情報を基に、その方にあった食事や健康、生活習慣などの改善に繋がる情報をズックが提供。このズックの情報提供により、どのような生活の変化が生まれたかの分析を実施。

実証の結果は、ズックとの会話をすることで、「生活の変化が生まれた」と利用者は回答。また実証に参加した5人に、暮らしについてのセルフチェックを行ったところ、改善項目が約8割の項目が改善したことが分かりました。
※株式会社ハタプロ「ZUKKU

まとめ

上述では、対話型介護ロボットを紹介しました。このロボットの凄いところは、会話の中で、対話相手の情報を収集し、その人に合った情報の提供をすることです。そのため、情報弱者といわれている方もZUKKUの導入を行えば、生活の質の向上に繋がるのではないでしょうか。

しかし介護ロボット全体について問われると、費用面や実用性などからまだまだ発展途上です。しかし発展途上がゆえに、可能性は無限大といえるでしょう。今回紹介した「ZUKKU」のように、こういった一歩一歩の積み重ねが、私たちの暮らしを豊かにしていくと私は思っています。