高齢ドライバーの事故は本当に多いのか?データで検証

高齢ドライバーによる交通事故が社会問題になっている中、「高齢者は運転するな」「高齢者は全員免許返納しろ」といった声や、「高齢者だけが頻繁に事故を起こしている訳ではない」「若年層世代も事故が多い」「高齢者差別だ」といった高齢ドライバーを擁護する声もあります。

確かに、高齢ドライバーばかりがクローズアップされ悪者扱いをされていますが、実際のところ高齢ドライバーだけが多いのかは不確かです。
そこで、ここでの記事では、内閣府や警視庁の統計データなどを用いて、本当に高齢ドライバーの事故は多いのかを解き明かしていきたいと思います。

65歳以上と65歳未満の死亡事故件数などを比較

現在、内閣府が公表している(平成29年末時点)年齢別の運転免許保有者数と保有率のデータをまとめましたので、ご覧ください。

年齢別 保有者数 保有率 死亡事故件数
80歳以上 221万1013人 20.6% ・80~84歳:9.2件
・85歳以上:14.6%
75~79歳 318万4299人 47.3% 5.7件
70~74歳 512万1674人 66.1% 4.1件
65~69歳 766万6908人 77.3% 3.4件
60~64歳 662万0682人 84.8% 3.6件
55~59歳 687万3945人 90.5% 3.4件
45~49歳 895万1287人 94.7% 3.8件
40~44歳 885万7770人 93.8% 2.9件
35~39歳 740万2093人 93.9% 3.0件
30~34歳 655万8412人 92.2% 3.3件
25~29歳 552万5885人 87.8% 4.0件
20~24歳 473万9775人 76.1% 5.7件
16~19歳 92万5890人 19.1% 11.4件

※引用:警視庁より
内閣府より

免許保有者数は、65歳以上は1818万3894人、65歳未満は6407万1301人となっています。死亡事故件数は、免許人口を10万人と仮定した場合に算出した死亡事故件数ですが、件数だけ見ると、高齢者だけが事故を起こしているとは一概に言えないのが分かります。

なぜ、高齢者は事故を起こしやすいのか

一見、上述の死亡事故件数だけを見ると75~79歳と20~24歳の事故件数は同等件数であり、16~19歳に至っては全世代の中でも2番目に多い事故件数になっています。こうしたことからも、高齢ドライバーだけが悪者扱いされているのには違和感を覚えます。ただ、事故件数だけでは見えてこない部分もあります。それは【運転環境(頻度)】です。

高齢者と若者世代の運転環境が違う

私もそうでしたが、車の免許を取得して運転するようになると、色んな場所に行きたい衝動や職場に行くための通勤手段、仕事で乗るといったように車を使う機会がとても多くなります。一方、高齢者世代はどうでしょうか。多くの高齢者世代は仕事を退職するため、通勤手段や仕事で車を使う機会はなくなります。さらにいえば、あちこちにドライブをするという人も減る傾向にあり、使っても週に何度かのスーパーへの買い物や老人会といった用事のみに使う程度になる人が大半です。

つまり、私が言いたいのは、年間走行距離や乗る頻度が明らかに違うにもかかわらず、高齢者世代の死亡事故件数が全世代の中でも上位だということです。週1.2回の運転頻度で、近所付近しか運転しない人より、頻度や走行距離が多い人の方が事故に遭う確率が上がるのは当然です。そのため、単純に事故件数だけで比較することはできません。

高齢者世代の事故原因とは

上述では、若者世代より高齢者世代の方が事故を起こしやすい理由について述べさせてもらいました。次は、警視庁が公表している【高齢運転者による死亡事故に係る分析】と題した人的要因比較のデータを基に、高齢ドライバーが起こす事故についてまとめましたのでご覧ください。

原因 75歳以上 ※死亡事故件数:418件(うち調査不能43件) 75歳未満 ※死亡事故件数:2,829件(うち調査不能120件)
操作不適 ・31%(130件) ・ハンドル操作不適:18%(75件) ・ペダルの踏み間違い:6.2%(26件) ・その他 16%(459件) ・ハンドル操作不適:11%(320件) ・ペダルの踏み間違い:0.8%(24件) ・その他
安全不確認 24%(102件) 27%(763件)
内在的前方不注意(漠然運転など) 15%(64件) 24%(520件)
外在的前方不注意(わき見等) 11%(45件) 18%(520件)
判断の誤り 8%(34件) 10%(295件)

75歳未満では前方不注意が多いのに対し、75歳以上では操作不適が群を抜いて多く、特にその中でもペダルの踏み間違い事故件数が突出しています。また、事故発生件数でも75歳以上から多くなっていることから、高齢になればなるほど事故は起こしやすく、その3割が基本的とも言える運転操作という原因であることが分かります。では、何故運転操作のミスが起こるのか、75歳以上と未満の比率が約6倍も差があるペダルの踏み間違いにフォーカスして考えてみたいと思います。

ペダルの踏み間違いが起こる原因

よくニュースで報道される高齢ドライバーによる【アクセルとブレーキの踏み間違い】事故。高齢になると筋力・判断力・集中力・体の柔軟性などの衰えに加え、骨の歪みも生じてくるため、技術や経験云々の前に基本的な運転操作が行えなくなってきます。

特に、ペダルの踏み間違い事故は駐車時に多く発生しています。まず、車を駐車をする際は【ペダルの強弱による速度調整】【多方面への視点の切り替え】【体を捻る動作(後退時)+ハンドル操作】といった公道を走行している時と違って、複雑な動作を同時に行う必要があり、特にバックの時だとペダルの踏み替え回数が多くなります。

そのバックの時に、上半身を右方向に捻る姿勢をとった状態でブレーキペダルを踏むと、無意識に足先が右方向へ移動し、アクセルペダルに触れてしまうということが起きます。今の表現の画像がTwitterで投稿されていたので、ご覧ください。

体が衰えていくと画像のような形(姿勢)になり、ブレーキペダルを踏んだつもりがアクセルペダルを踏んでいたという事態になります。これが【アクセルとブレーキの踏み間違い】の原因の1つです。

高齢者は、体の柔軟性(体が固い)が失われているため、画像のように右に上半身を捻ると上半身も同時に引っ張られ、無意識に右足がアクセルペダルに乗ってしまいます。もちろん、これには個人差がありますので一概には言えませんが、決して少ない事例でもないので覚えておいてください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

まず、高齢ドライバーが事故を起こさないようにするには、最先端技術が搭載されている安全運転サポート車に乗り換えるか、ペダルの踏み間違い防止装置などといった後付けで装備できる装置を取り付けて車を運転することが現実的な対策だと思います。身体能力などの低下は、日々の生活の中で努力していても完全に防ぐことはできませんので、いかに今の技術で防いでいくかが重要になります。

ただ、安全運転サポート車や防止装置を装備してもあくまでサポート(補助)なので、完全に防ぐことはできません。また、ここでは主にペダルの踏み間違いについてフォーカスしましたが、認知面で衰えて起こす事故もあります。少しでも危険な場面に遭遇したら、車以外での移動手段を検討するなどして、池袋暴走事故のような悲惨な事故を起こさない配慮が必要になってくるでしょう。