介護離職の実態 安易な介護離職は要注意

自分の親が「急に倒れた」「交通事故にあった」「転んで入院した」といったように、介護が始まる瞬間は突然やってきます。「うちの両親は大丈夫」と思っているあなたも大丈夫ではないかもしれません。突然、自分の親を介護することになれば、あなたはどうしますか?

「仕事と介護の両立は難しいので、仕事を辞めて介護に専念する」と選択する方もいると思いますが、この選択が更に生活を厳しくする可能性があります。では、親が倒れた際は、どうすれば良いのか。ここでの記事では、介護離職の実態や離職せずに済む方法についてお伝えしたいと思います。

介護離職の現状

2018年7月に総務省が公表した「平成29年就業構造基本調査結果」では、全国で在宅介護をしている家族は約628万人おり、このうち、約346万人(約6割)の人が仕事を持って介護をしていることが分かっています。ちなみに、過去1年間で「介護・看護のため離職」した人は約9.9万人いるということです。

在宅介護をする家族は何歳から多くなるのか

厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、家族介護は40代から増え始め、50代が約2割、60代が約3割、70代以上が4割を占め、年代が上がるにつれて徐々に多くなっていることが分かっています。

介護離職をした理由

男性 女性
仕事と介護の両立が難しい職場だった 62.1 62.7
自分の心身の健康状態が悪化した 25.3 32.8
介護に専念したかった 20.2 22.8
施設に入所できず介護負担が増えた 16.6 8.5
介護サービスの費用を軽減させたかった 11 8.1

上記のグラフを見れば分かるように、男女の6割以上が「仕事と介護の両立が難しい職場」だったことが分かります。また、離職時に就業継続の意向を聞いたところ、男女ともに約6割が「続けたかった」と答えています。

介護離職をすると経済面に打撃

経済面 肉体面 精神面
非常に負担が増した 35.9 22.3 31.6
負担が増した 39 34.3 33.3
変わらない 19.6 18.1 12.3
負担が減った 1.2 14 12.3
かなり負担が減った 0.7 8.1 7.3
分からない 3.5 3.1 3.2

上記の結果を見ると、経済面の負担は、肉体面や精神面より大きいことが分かります。介護離職ということは、無職状態になるため収入はありません。そのため、自身の貯金や親の年金、貯金に頼らざるを得ない状況になります。

また、金銭面だけではなく、自身の生活が介護中心になります。会社を辞めるということは、社会から孤立しやすくなるので、精神面でも大きく負担がのしかかってきます。

そうならないためにも、親が介護が必要になった状態のことを想定し、どのような選択肢が良いのか(あるのか)を考えておく必要があります。

大変な時期は最初の1~2か月

私は過去に在宅のケアマネをしていましたが、在宅介護で一番大変なのは、最初の1~2か月(状態にもよる)だと思っています。

理由としては、何気なく生活していた生活から、突然介護という環境になり、知らない機関の人達との話し合い、病院への付き添い、介護保険などといった手続き、介護サービスの導入など1~2か月の間に目まぐるしく事態は動くからです。

しかし、この1~2か月を過ぎれば、ケアマネの支援、介護サービス(ディサービス・ショートステイ・福祉用具など)の利用で、在宅介護の環境が徐々に整ってくるため、本人の症状が徐々に落ち着いていく傾向にあります。

あとは、介護慣れと専門職と連携を取っていくことで、乗り越えていけることが多いため、仕事を辞める必要はないと私は考えています。むしろ、辞めてしまうと収入が無くなり、ましてや、自身の老後資金が貯められなくなるため、安易に辞めることは控えた方が良いと思います。

制度の利用

では、仕事を辞めない方がいいと伝えましたが、具体的にどのような制度があるのか、ここでは紹介していきたいと思います。

介護休業制度について

このような制度は、なかなか言い出しづらいかもしれませんが遠慮して言わず、辞めると上述で説明したグラフのように、経済的負担があなたに直撃します。

そのため、冷静に将来のことを考え、勤め先の会社に相談してください。また、会社側も介護を理由に退職されれば、人材の流出となるため、企業経営の悪化につながります。今のわが国は人手不足でもあるので、企業側が「取り合わないわけがない!」と思い、勇気を持って、申し出て下さい。そして、これらの制度は労働者の権利なので、臆することはありません。

制度 概要
介護休業 ・要介護状態の家族1人につき「通算:93日」まで、3回を上限に分割して休業を取得することができる。

・有期契約労働者も要件を満たせば取得可能。

介護休暇 ・通院の付き添い、介護サービスに必要な手続きなどを行うなど、年5日まで「1日・半日」単位で介護休暇が取得ができる。
※対象家族が2以上の場合は、年10日
時間外労働の制限 ・1ヶ月24時間、1年150時間を超える時間外労働を制限することができる。
所定外労働の制限 ・残業を免除することができる。
所定労働時間短縮などの措置
深夜業の制限
・事業主は、利用開始日から3年以上、希望する労働者に対して以下のいずれかの処置を講じなければならない。

①:短時間勤務制度
②:フレックスタイム制度
③:時差出勤の制度(始業・終業時間の繰り上げ・繰り下げ)
④:介護費用の助成措置

ハラスメント防止の措置 ・上司や同僚などから介護休業などを理由とする嫌がらせの防止の措置を講じることを事業主には義務付けられています。
不利益取扱いの禁止 ・介護休業などの制度の申出や取得を理由に、不当な扱い(解雇など)を禁止。

※家族とは:配偶者(事実婚含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹孫
※要介護状態とは:要介護度2以上の場合のほか、介護認定を受けていなくとも2週間以上介護が必要な状態が対象。

介護休業給付金について

介護休業給付金は、家族を介護するために休業をした被保険者に給付する制度です。ただし、これには条件があり、介護休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月が12か月以上ある方が対象です。

且つ、介護休業期間中の各1か月毎に、休業開始前の賃金が8割以上支払われていない。就業している日数が、各支給単位期間ごとに10日以下の要件を満たす場合に支給されます。

介護休業給付金の申請時の概要
申請方法 事業所の所在地を管轄するハローワークに申請する
提出書類 休業開始時、「賃金月額証明書」
※賃金台帳、出勤簿などの記載内容を証明する書類を添付してください。
提出期限 介護休業開始時の翌日から10日以内
支給申請時の概要
申請書類 介護休業給付金支給申請書
※申請書の下部に「払渡希望金融期間指定届」がついています。
提出期限 介護休業終了日の翌日から起算して2か月を経過する月の末日まで
複数回支給の概要
・一度介護休業給付金を受けたことがある同一家族でも、要介護状態が異なる場合には、再度取得した介護休業は、介護休業給付金の対象になります。

・この場合は、同一家族が受給した介護休業給付金の支給日数の通算が、「93日」が限度となります。

介護給付金の算定方法
賃金なし 「介護休業開始時の賃金」÷180日×30日×0.67
賃金が40%以下
賃金が40%超 80%以下 「介護休業開始時の賃金」÷180日×30日×0.67-賃金額
賃金が80%超 支給はありません

まとめ

いかがでしたでしょうか。
これらの制度は、法律で定められているので、企業側は拒否はできません。そのため、制度を上手く使い、規定内に介護環境を整える期間にしても良いと思います。例えば、介護施設を探すなどです。

仕事を辞めるということは、収入がなくなります。また、親の介護が終わった後、仕事に復帰しようにもなかなか出来ないという現状もありますので、制度を活用しながら介護をしていくことをお勧めします。