圧迫骨折から寝たきり生活、認知症発症へ

介護認定で「要介護」と認定される割合の約1~2割が、転倒による「骨折」です。そして、骨折の中でも非常に多いと言われているのが「胸椎・腰椎(背骨)の圧迫骨折」です。

骨折後は、痛みなどで体が動かせないため、必然的に寝たきり生活が強いられます。その状態が長ければ長い程、認知症発症を招くこともあるため、骨折程度と甘く見てはいけません。ここでの記事では、平穏な生活を一変させてしまうこともある圧迫骨折について、お伝えしていきたいと思います。

骨折とは

骨折とは、文字通り「骨が折れる」ということなのですが、実は「ヒビ」も骨折です。また骨が凹んだり、一部分が溶けた場合も骨折に該当します。

基本的に健康な骨は、相当大きな力が加わらない限り骨折はしません。しかし、骨全体が弱っていたり、一部が溶けてしまっていると、弱い力でもすぐに骨折してしまいます。

特に高齢者の場合、老化の影響で骨が弱くなっているため、少しの衝撃だけでも骨折します。

気づかぬうちに骨折していた

強い衝撃を受けてなくても、高齢者の場合は、気づかぬうちに骨折していることがあります。

よく高齢者の方で「最近、なんか腰が痛いんだよね」と訴え、整形外科でレントゲンを撮ったら、骨折していたということはよくある話です。

背骨には、体重のほかに、背筋や腹筋の収縮力の負荷がかかります。さらに、物を持つ動作の繰り返しが、さらに背骨に負担をかけます。

その結果、徐々に背骨が圧迫され潰れていき、気づかぬうちに骨折しているということが起きてしまうのです。

高齢者の骨折の割合

厚生労働省では、介護が必要になった主な原因についてのデータを公表しています。

このデータを見ると、「骨折・転倒」が12.2%となっています。また、女性の骨折が男性と比べて非常に多いことが分かります。

なぜ女性による骨折が多いのか

女性が骨折しやすい理由の一つに「骨粗鬆症」の影響があります。骨粗鬆症は、閉経を迎えた中年以降の女性に多く見られます。

主に、下記の3つのことが生じ、女性の骨の中のカルシウムが減り、脆くなっていくと言われています。

● 閉経を迎えると女性ホルモンの分泌が減少
・骨の中にカルシウムを貯める働きが悪くなる。
● カルシウムが尿の中への排出を抑える働きが低下
・カルシウムが尿から排出されやすくなる。
● 腸からのカルシウムの吸収の低下
・腸でカルシウムが十分に吸収されず、カルシウムが体の隅々まで行き渡らなくなる。

骨折と認知症の関係性

骨折をしたからといって、すぐに認知症になるわけではありません。認知症を発症してしまうかは、骨折後の行動で大きく変化します。

圧迫骨折が認知症の始まり

圧迫骨折の治療法は「保存療法」がメインとなります(約3週間のベッド上安静)。そのため、移動の制限がかかるため、筋力が徐々に衰えていきます。

折れた骨が治癒しても、筋力が衰えている状態では、骨折前のように立つことができません。そのため、必然的に「寝たきりの生活」が強いられます。そして、寝たきりの生活が長ければ長い程、認知症発症のリスクは高まります。

寝たきりから認知症の発症

寝たきり状態になってしまうと、身体機能が全体的に低下をします。どのような機能が主に低下していくのか、下記にまとめました。

① 筋肉量の低下
・体を動かさないでいると、筋肉量が徐々に減っていきます。デンマークの大学で行われた研究では、高齢者は2週間運動をしなかっただけで、筋力の1/4を失うという研究結果があります。また、その筋力を戻すのに「約3倍」の期間が必要だったとされています。

② 心肺機能の低下
・体を動かす機会が減れば、心肺機能も低下していきます。心肺機能は、何気ない日常生活からでも鍛えられています。例えば「歩行」「立ち座り」「段差の上り下り」などです。

③ 意欲の低下
・自由に動くことが出来ないため、人との関わりが減ります。人との関わりが少なくなると、意欲の低下の原因になります。また、意欲の低下は、リハビリの意欲にも影響するため、寝たきり状態が続く要因になります。

④ 認知機能低下
・寝たきり状態になると、あらゆる刺激が激減します。そのため、脳への刺激も減るので、認知症発症のきっかけになります。

上記の低下が、寝たきり後より徐々に始まります。寝たきり状態が長ければ長い程、これらの影響を強く受けるため、骨折後のアプローチ(リハビリ)が非常に重要となります。

入院中でも安心できない

意外と誤解されがちなのが「入院しているから大丈夫」と思っている家族が多いということです。確かに、骨折の件については大丈夫ですが、認知症については、また別の話です。

病院は、「骨折の治療」や「リハビリ」を最優先にしていますので、認知症予防のプログラムはほとんどありません。

入院中は、リハビリ以外はベッドにいることが多いため、他者と関わる機会はほとんどありません。認知症の予防には、ある程度の会話も大事ですので、家族の方は積極的に面会に行くことをお勧めします。

退院後の生活が鍵

退院をしても、自宅でリハビリをしていかなければ、体全体の状態が悪くなっていきます。退院後は、自身の意思一つで、生活が変わるので注意が必要です。

退院後、どのような生活を送ればよいか分からない方は、「地域包括支援センター」に一度相談してください。介護保険サービスを始めとする「医療・福祉」全般の相談に乗ってくれます。

骨折を防止するには

これまでの説明で、体を動かす機会が減れば身体機能が低下し、その結果、認知症を発症する可能性があることが理解できたかと思います。

特に女性の場合は、骨が脆くなる傾向にあるため、対策や予防をしなければ、骨折をする可能性が非常に高まります(男性も油断してはいけません)。

ここからは、骨折をしないための対策について、お話していきたいと思います。

下半身の筋力を強化(運動療法)

骨折の原因となる理由の約8割が「転倒(転ぶ)」によるものです。よく高齢者による転倒で最も多いのが、「段差のつまずき」です。

まず高齢者の方は、身体機能の低下により、すり足歩行になりがちです。そのため、ちょっとした段差にもつまずき、転倒をするといったことはよくある話です。このような、転倒事故を無くす手段として、下半身の筋力強化が有効とされています。

◇ 「散歩」で、下半身強化

様々な方法はありますが、「散歩」だけでも十分に下半身を鍛えることができます。可能であれば、足を気持ち高めに上げて歩くことで、より効果を得られます。

また、日中に散歩を行うことで適度な「日光浴」もできます。日光浴は、骨の形成には重要な要素なので、なるべく日中に散歩をすることをお勧めます。

バランスの良い食事を摂る(食事療法)

骨密度を低下させないために、食べ物からカルシウムとビタミンD、ビタミンKなどを骨の形成を促す栄養素を積極的に摂ることが大事です。骨粗鬆症の予防に必要なカルシウム量は「1日700~800ml」と言われています。

また、カルシウムとビタミンDを同時に摂ることで、腸内でのカルシウムの吸収が良くなるため、合わせて摂ることをお勧めします。

そして、たんぱく質の摂取も骨の形成には、大事な栄養素となっています。たんぱく質の量が少ないと骨密度の低下に繋がりますので、注意が必要です。

下記に、骨に必要な栄養素が備わっている食べ物をまとめましたので、ご覧ください。

● カルシウム
・牛乳、乳製品、大豆製品、チンゲン菜、小松菜、など

● ビタミンD
・卵、サケ、ウナギ、サンマ、カレイ、シイタケ、など
※「日光浴」:日光を浴びることで、ビタミンDの生成を促せます。目安となっている時間は、夏場「木陰で30分程度」、冬場「30分~1時間」です。

● ビタミンK
・納豆、ブロッコリー、ホウレン草、小松菜、ニラ、キャベツ、キャベツなど

薬物療法

薬物療法と聞くと大げさですが、一度主治医に「骨折を予防したい」と相談してみてください。診察の結果にもよりますが、「骨密度を増加させる薬」や「骨の形成を促す薬」など骨折予防に適した薬物療法がありますので、手段の一つとして覚えておいてください。

骨折防止のプロテクターを装着

万が一転倒をしてしまっても、衝撃吸収効果のあるプロテクター(防護服)を身につけることで、骨折を防ぐことができます。もちろん、特殊部隊のように物々しい装備品ではありません。下記に、各部位のプロテクターを紹介しますので、不安な方は検討してみて下さい。

◇ ヒッププロテクター

このパンツは、転倒時に衝撃から守ってくれる高性能なクッション材入っているため、非着用時に比べて「約36%」の衝撃低下があるとされています。

また、メッシュ加工されているため、通気性にも優れているので、ムレ感を軽減してくれます。また、洗濯や脱水も可能なので、安全のために履いてみてはどうでしょうか。

◇ リストプロテクター

転倒時、手をついて守ろうとしても、脆くなっている骨では体重を支えきることが出来ません。さすがに家の中も含め、終日装着している訳にはいかないと思いますので、外出時の時や歩行に不安を感じた日など用途合わせて装着することをお勧めします。

まとめ

いかがでしたでしょうか。高齢者の骨は、少しの負荷でも骨折する恐れがあるのは、この記事で紹介した通りです。そのため、日頃から骨折をしないための体づくりが重要となります。

健康な体づくりには「適度な運動」「バランスの良い食事」「良質な睡眠」といった規則正しい生活が鍵となります。規則正しい生活は、認知症含めさまざな病気の予防にも有効ですので、これを機に一度生活を見直してみるとよいでしょう。