認知症に伴う高齢者による異常性欲について

突然ですが、高齢者の性的欲求について皆さんはどう思いますか?ちなみに人間の三大欲求は「食欲・睡眠欲・性欲」といわれています。当然ですが、高齢者も同様に三大欲求はあります。ここで「食欲と睡眠欲は分かるけど、高齢者にも性欲なんてあるの?」と疑問に思われた方。

実は、高齢者の性的欲求は年齢と共に衰えるというのは、一概にいえませんがあります。ですが、性欲も基本的には理性でコントロールされています。しかしそれが、認知症になると上手くコントロールが出来なくなる場合があるのです。

認知症は、同じことを何度も尋ねる、身の回りのことが出来なくなるだけの症状ではありません。それは、脳がダメージを受けた場所によって症状が異なるからです。

では、認知症の影響で理性がつかさどる場所に、ダメージを受けてしまった場合はどうなるのか。正直、個人差はあるものの、さまざまなことに歯止めが利かなくなることがあります。その中でも「異常性欲」を引き起こしてしまうことがあります。

前置きが長くなりましたが、ここでの記事では、実話を交えて「高齢者の異常性欲」についてお伝えしていきと思います。

認知症を患うと性への抑制が効かない場合がある

認知症には、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などあります。しかし認知症というのは、萎縮も含め脳にダメージを受ける場所によって症状が異なります。

その脳の中でも、「前頭葉・側頭葉」という部分にダメージを受けてしまうと、問題発言を平気で言ってしまったり、暴言暴力、万引き、痴漢といった判断力の低下および理性を保つことができなくなり、社会で生活を続けていくことが難しくなる場合があります。

前頭葉と側頭葉の役割

前頭葉と側頭葉というのは、脳の約4割も占める重要な部分です。下記にそれぞれの特徴を簡潔にまとめます。

● 前頭葉の働き
・「感情や思考、判断などをコントロール」する器官。

● 側頭葉の働き
・「言葉の理解、聴覚や味覚、感情や記憶」をつかさどる器官。

これらの役割は、個人の人間性を表します。そのため、社会で過ごしていくには、とても重要な器官といえます。

認知機能の低下が原因

認知症の影響により、前頭葉と側頭葉の器官が衰えていくと、今まで抑え込んでいたものが爆発したり、思ったことをすぐ言動に出てしまったりと抑制が効かなくなることがあります。つまり、本人の頭の中では、世間体などを気にしなくなるということです。

言動の傾向については、人によるというのが正直なところです。しかし、中には性的な言動が激しく出てしまう人もいます。下記に性的な言動例について、まとめましたのでご覧ください。

● 妻にそれまで、何十年もなかった性交渉を急に求め始める。

● 嫌がる女性を押し倒し、性行為に及ぼうとする。

● 異性を見ると見境なく、触れたり、卑猥なことを発言する。

● 高齢者施設などの入居者に対して、性交渉を持ち掛けたり、強引に迫ろうとする。

など

これらを見る限りでは「本当?」と思ってしまうところですが、実際に私が施設などで働いていた時に、こういった行為見たり、同じ業界の人から聞いたりしました。

明らかな性言動がないにしても、「普段、お世話をしている看護師や介護士の体を触る高齢者」なんていう話はよくある話です。

異常性欲になりやすい人の特徴

上述で挙げた内容を「異常性欲」という言葉に置き換えられることがあります。私が、同業者から聞いた話や実際に体験した中で、異常性欲とみられる言動をしていた高齢者の特徴が「昔にお堅い仕事」をしていた人でした。いわゆる、お役所仕事や教師といった「公務員」です。

筆者の体験談

これからお話しするのは、実際に私が施設で働いていた時の話です。

70代の男性(以下、A氏)が入所していました。A氏の前職は学校の教師で、引退直前まで校長を務め、施設内での様子は、寡黙で大人しい入所者というのが印象でした。
ある時、入所者の女性が「最近夜になると男性の人が、私の布団の中に入ってくる」と訴えてきたのです。
その時たまたま私は夜勤だったので、巡回を強化し対応していたところ、A氏が一目を気にしながらコソコソと歩き、訴えのあった女性の部屋へ入っていきました。
私は、訴えがあった女性の部屋だったため、あとから部屋に入ったところ、女性の布団の中に入り女性のズボンを下げるという行為をしていました。
のちに話を聞くと、今まで何回か行為に及んでいたということです。
ちなみに、この70代の男性は「軽度認知症障害(認知症の一歩手前)」にかかっていました。

他にも別の施設での話ですが、70代入所者男性が、面会に来た妻と性交渉をしてしまうといったこともありました。

異常性欲の全てが前頭葉などの原因というわけではありませんが、脳の衰えや萎縮により機能の低下をしていれば、今まで理性で抑えていたものが出てしまうという可能性は考えられます。

放置をすると危険

こういった行動を放置しておくと、非常に危険です。上述した体験談では、一般的には「レイプ」です。もしそれが家庭内であれば、嫌がる妻への性的強要にあたるのでDVです。

またこれらの症状は自然に治るものでありません。むしろ、悪化していきます。また自宅で過ごされている方ですと、家族と住むことが難しくなってきます。

家族介護の限界(リタイア)を早める

一般的に「家族介護の限界(リタイア)」は、中核症状(記憶障害・理解力低下・見当識傷害など)が原因よりも、周辺症状(介護拒否・暴言暴行・幻覚・不潔行為など)での原因が多いとされており、今回紹介した体験談は「周辺症状」にあたります。

そのため、異常性欲について軽く捉えるのではなく、早期対応をすることが望ましいです。

異常性欲への対処法(治療方法)

こういった行動を直ぐに落ち着かせるという意味では、投薬による抑制が効果的です。その中でも「メマリー」という薬は、個人差はあるものの、異常性欲に一定の効果があることが分かっています。

一般的にメマリーというのは、認知症の症状などを抑える薬として用いられています。では、なぜメマリーが異常性欲を抑えることが出来るのでしょうか。

メマリー

まず、認知症の薬には大きく分けて「アクセル系」と「ブレーキ系」に分かれています。認知症状によっては、「急にやる気が出なくなった」「無気力になった」といった症状がありますが、そういった方にアクセル系の認知症薬を処方することが多いです。

反対に、「イライラする」「気性が荒くなった」など衝動が止まらない症状については、ブレーキ系の認知症薬が処方されます。その薬の一つが「メマリー」です。

メマリーの副作用

メマリーが処方されることになれば、医師から説明を受けるとは思いますが、こちらでもメマリーの副作用について紹介させていただきます。

● 眠気
・ブレーキ系の薬だけあって、眠気が伴います。そのため、服用して眠気が改善されないようでしたら一度、医師に相談してください。

● めまい
・特に飲み始めに多いとされていますが、めまいは徐々に慣れていくため、症状は改善されていきます。

● 体重の減退
・食欲不振になりやすいため、体重が減る場合があります。そのため、こまめに体重を測ることをお勧めします。

● 便秘
・便秘になりやすいため、認知機能が衰えている方ですと、便秘になっていることをうまく伝えられない場合があります。便秘が続くと「腸閉塞」など違う病気を招きます。

まとめ

ここでの記事では、認知症の症状の中の「異常性欲」について取り上げさせてもらいました。ただ、認知症の方が全てに当てはまるわけではありません。しかし、何らかの影響により理性をつかさどる部分にダメージを受けることで、今回お伝えした症状が起きてしまいます。

正直なところ、家族の性行動については、なかなか相談しづらいものです。しかし、これは病気の一種です。そのため、ためらわず医師に相談することをお勧めします。