ストレッチとは、筋肉を伸ばす運動としてよく使われます。いわゆる、柔軟体操です。今ではコロナ渦の影響で、外出を極力避け、運動不足になっている高齢者が多くいると思いますが、そういった状況でも何か自宅でできる運動はないかと考えた時に、選択肢の一つになるのがストレッチではないでしょうか。ストレッチには、筋肉の柔軟性を高め、関節可動域を広げる効果があります。加えて、限られたスペースでもできるため、現在の状況下では最適の運動と言えます。
ここでの記事では、ストレッチの種類やその効果、行うタイミングなどを紹介した上で、運動不足気味の高齢者に向けたおすすめのストレッチをお伝えします。
目次
ストレッチの種類と効果、タイミングを紹介
近年の研究では、ストレッチを行う種類やタイミングで効果が変わることが分かっています。そのため、昔学校などで教わっていたストレッチの種類やタイミングは、実は非効率だった可能性があります。
それらのことを踏まえて、下記ではストレッチの種類や効果について紹介していきます。
スタティックストレッチ/静的ストレッチ
同じ姿勢でゆっくりと筋肉を伸ばし、可動域を広げていくストレッチがスタティックストレッチです。人によっては、静的ストレッチとも呼びます。
スタティックストレッチを一定時間保持することで、柔軟性や関節可動域を広げられるのはもちろんのこと、血行促進による疲労回復、睡眠促進、リラックス効果が得られます。主に、運動後や寝る前に行うとより効果的です。
この方法では、ゆっくりと伸ばしていくため筋肉や腱を痛めにくく、運動不足の高齢者の方でも安全に行えます。
一昔前ではケガの予防として運動前に行われていましたが、近年の研究では運動前にスタティックストレッチを行ってしまうと、逆にケガのリスクが高まると指摘されています。
その理由としては、運動前に行うと、筋肉などが伸びきった状態で固まり、運動時に筋肉や腱がクッションの役割を果たせず、かえってケガをさせてしまうからです。
下記に、スタティックストレッチの参考動画がありますので、気になる方はご覧ください。
バリスティックストレッチ
このストレッチは、反動をつけて、グイッグイッと筋肉を伸ばす方法で行うのがバリスティックストレッチです。分かりやすい動作で言えば、反動でアキレス腱を伸ばしたり、開脚して左右や前に倒して伸ばすストレッチがこれにあたります。
バリスティックストレッチは、体温を上昇させて、体のパフォーマンスを上げる目的で行うため運動前に行うのが適しており、反動を使って筋肉を伸ばすため、通常より筋肉が伸びる効果が得られます。しかし、急激に筋肉が伸ばされるため、筋肉や腱を痛めやすいのでケガに繋がる可能性があると指摘されています。
特に運動不足の高齢者がバリスティックストレッチを急に行うと、筋肉や腱を痛める可能性が高まるため、十分に注意して行う必要があります。
下記に、バリスティックストレッチの参考動画がありますので、気になる方はご覧ください。
ダイナミックストレッチ
名前の通り、体全体を大きく使って筋肉を伸ばしていく方法がダイナミックストレッチです。例としては、腕や足を回したり、胴体を捻る動作でラジオ体操がこれに当たります。
ダイナミックストレッチは心拍数や体温を上げ、ケガの予防や体のパフォーマンス向上の効果が得られます。主に激しいスポーツをする前に行う準備運動として使われるストレッチです。
また、ダイナミックという名前がついているだけに、激しいストレッチでもあります。そのため、運動不足気味の高齢者がいきなり行うと、逆にケガをしてまう可能性があるので、無理のない範囲で行うと良いでしょう。
下記に、ダイナミックストレッチの参考動画がありますので、気になる人はご覧ください。
スタティックストレッチがおすすめ
ストレッチには、運動前と運動後で行うタイミングが違います。運動前に良いとされているのが、バリスティックストレッチやダイナミックストレッチ。運動後は、スタティックストレッチです。
ただ、ここでは運動不足になりがちな高齢者に向けて紹介しています。運動不足である高齢者が、運動前に行うべきストレッチをやってしまうと逆にケガをしてしまう恐れがあります。そういったことにならないよう、まずは体を慣らす意味でもスタティックストレッチから行うのが良いでしょう。
スタティックストレッチの注意点
スタティックストレッチは他のストレッチとは違い、基本的には強度が低く、動きが少ないため安全に行えます。お風呂上がりなど、血行が良くなって体が温まっているときに行うと筋肉がほぐれやすいため、より効果的です。
厚生労働省でも、スタティックストレッチの有用性について言及しています。ただ、いくらおすすめと言っても適当にやっては意味がありません。スタティックストレッチの基本的なやり方について、下記に記していますので意識しながら行ってください。
● 伸ばす部位を20秒以上かけてゆっくり伸ばす。 ● 伸ばす部位をしっかり意識する。 ● 部位を適切に選択し伸ばす。 ● 痛いと感じない程度に伸ばす。 ・痛みを感じるほど伸ばすと、伸張反射(縮まる)が働き、逆に筋肉が硬直して効果が低下します。 ● 呼吸を止めずに伸ばす。 ・呼吸を止めて行うと、筋肉が緊張してしまいます。また、血圧も上昇してしまうため危険です。 |
スタティックストレッチによって得られる効果
スタティックストレッチによって得られる効果については、下記の通りです。
● 柔軟性の向上/関節可動域を広げる
● ケガの予防
● 疲労回復、睡眠促進、リラックス効果
● 冷え性改善
補足として、他のストレッチでも得られる効果もありますが、スタティックストレッチは比較的強度が低く、上記の効果が安全に得られます。
柔軟性の向上でケガ防止
スタティックストレッチをすることで柔軟性の向上が図れます。
人は加齢の影響により、筋肉や腱の柔軟性が徐々に失われていきます。いわゆる【体が固いのか】、【柔らかいのか】ということです。
高齢になると若い時と比べて、運動量が低下し、決められた筋肉や腱、関節しか動かさなくなるため、体全体が固くなっていきます。特に筋肉や腱が常に固い状態(張っている状態)でいると、例えば足を躓いた時などに対応できず、筋肉や腱を痛めてしまいます。場合によっては、筋肉や腱が切れてしまいます。
例えるなら、柔らかいゴムと固いゴムです。柔らかいゴムだと、ある程度伸びてもすぐには切れませんが、固いゴムであれば強い衝撃には耐えられず切れてしまいます。これは、人間の筋肉や腱でも同じことが起きるため、常に体を柔らかくしておくことがケガの予防になります。
そして、高齢者の方で、もう一つ注意しておかなければならないのが腰痛です。腰背部の柔軟性が低下すると、腰椎が前に曲がり腰痛を引き起こしやすくなります。イメージとして、腰が【くの字】になる感じです。さらに、柔軟性に加えて高齢者の多くは腹筋や背筋が弱くなるため、腰を痛める要因にもなります。
そういったことにならないためにも、普段からストレッチを行って柔軟性を高めることでケガや腰痛予防などの改善につながります。
疲労回復、睡眠促進、リラックス効果
ストレッチを行うことで、疲労回復や、睡眠促進、リラックス効果が得られます。まず、疲労回復の理由としては、縮んだ筋肉を伸ばすことで血流(血行)が良くなります。血液の中には体に必要な栄養素や酸素が入っており、血流が良くなることで体の隅々まで血液が行き渡り、結果的に疲労の回復を早めてくれます。毎日ストレッチをすることで、疲れを溜めにくい体作りが出来る観点としては、最適な運動方法と言えます。
次に、睡眠促進とリラックス効果ですが、【特集「ストレッチングの生理学」大脳皮質・自律神経系活動および全身循環への影響/運動・物理療法 2001:12:2-9】によりますと、全身の筋肉を順番に30分程度、伸ばしていくようなストレッチの前後で脳波や自律神経活動を調べてみると、前頭葉でのα波を増加させ、心拍数を低下させることが分かっています。
心拍数が低下すると、自律神経の活動が副交感神経活動を優位にさせます。副交感神経が優位になると、体がリラックスしていき、さらに眠りを誘うホルモン物質が分泌されるため、睡眠が促進されます。
補足として、α波が出ている脳内には、ベータエンドルフィンという快楽物質が出ている状態です。つまり、30分程度のストレッチをすることで脳や体を休める効果、ストレスを鎮める効果があるということになります。
冷え性の改善
高齢者の方で冷え性持ちの人は多くいます。理由はさまざまですが、原因の一つとして運動量の低下です。
若いころに比べて、高齢になればなるほど精力的に動くようなことは少なくなっていきます。また、体力の低下や病気などが原因で運動制限があり、動けなくなる時間が長くなります。そういった状況が続けば、徐々に筋肉が固くなり、血流が悪くなっていきます。
筋肉は、血液を体中に運ぶためのポンプとしての役割もあり、筋肉が固くなればポンプが上手く働かず、全身の血流が悪くなり、結果冷え性の原因になります。
しかし、ストレッチを行うことで筋力が伸び、筋肉の本来の役割を取り戻すことができ、体の末端まで血液が行き渡りやすくなるため、冷え性の改善に繋がります。
高齢者におすすめのストレッチの動画を紹介
高齢者によっては、立ってできる人もいれば、病気やケガの影響で座ってでしかできない人もいます。そのため、ここでは全国展開するスポーツクラブ・ルネサンスが出している【立って行うスタティックストレッチ】と【座って行うスタティックストレッチ】を紹介します。
ルネサンスのスタティックストレッチ動画を紹介したポイントとしては、動作の分かりやすい解説とゆっくりとしたテンポでストレッチを行っているので、これからストレッチを始める高齢者の方でも抵抗なくできるからです。ぜひ参考にしてみてください。
立って行うストレッチ
立って行うストレッチのメニューと動画の時間は、下記のとおりです。目的の部位がある場合は、下記の時間まで進めてください。
● 0:00:肩のストレッチ
● 0:51:胸のストレッチ
● 1:22:胸と肩のストレッチ
● 1:47:背中のストレッチ
● 2:50:ももの裏のストレッチ
● 3:43:ももの前のストレッチ
● 4:37:ももの内側のストレッチ
● 5:31:ふくらはぎのストレッチ
● 6:27:体側のストレッチ
座ってもできるストレッチ
座って行うストレッチのメニューと動画の時間は、下記のとおりです。目的の部位がある場合は、下記の時間まで進めてください。
● 0:00:股関節のストレッチ
● 0:35:胸のストレッチ
● 1:10:背中のストレッチ
● 2:10:お尻のストレッチ
● 3:06:ももの裏のストレッチ
● 4:00:ももの内側のストレッチ
● 4:56:ももの前のストレッチ
● 5:53:体側のストレッチ
まとめ
いかがでしたでしょうか。
コロナ渦の影響で、満足に外出や運動が出来なくなった高齢者の方は多くいると思います
。高齢になればなるほど、体を動かさない時間が増えると身体機能が著しく低下していき、要介護のリスクが高まり危険です。そういったことを予防していくためにも、まずは運動強度の低いストレッチを取り入れていくことをおすすめします。特に記事内に紹介したスタティックストレッチは、ストレッチの中でも比較的安全に行えるため、体力に自信がない方や久々に体を動かす方にはとてもおすすめです。ぜひ、この機会に生活の中にストレッチを取り入れてみてください。
※参考文献:斉藤剛, 保野孝弘, 宮地元彦.特集「ストレッチングの生理学」大脳皮質・自律神経系活動および全身循環への影響.運動・物理療法 2001; 12: 2-9.