高齢者問題と増加する医療費問題との関係性

私たちは、病気やケガなどをした際は、医療のお世話になっていると思います。しかも自己負担が少なく。しかしそれは私たちがしっかりと税金や社会保険料などを納めているから、医療費の自己負担が少なく済んでいるのです。

では、私たちの負担を肩代わりしてくれている社会保障費及び医療費が年々増加している現状をご存知でしょうか。

もしご存じでなければ、医療費が増大している事実を知っておくべきだと思います。何故なら、医療費が増加すれば、現在設定されている税金や社会保険料だけではまかなえなくなり、私たちの生活にしわ寄せが必ずくるからです。そこで、ここでの記事では医療費の増大の原因や現状などについて、私の視点から解説していきたいと思います。

医療費が増大した原因とは

医療費の増大は様々な原因が重なり合った結果です。よく一般的に言われてる医療費の増大の原因としては、ケガや病気をした際の治療費や受診率の増加、医薬品の高騰、生活習慣病の罹患者の増加、病気などの予防の意識低下、不要な薬の投与や処方などが挙げられると思います。

ここでの記事では少し違う角度から、医療費の増大について考えていきたいと思います。そこで下記に4つの原因を挙げさせてもらいました。それがなぜ原因なのか、私なりに解説していきたいと思います。

1.戦後からの人口の増加
2.高齢者の増加
3.平均寿命延伸
4.医療機器や医療技術の進歩

戦後からの人口の増加について

まずこちらのわが国の人口の動態をグラフをご覧ください。

※2025年と2055年は推移。

厚生労働省から出されている人口動態ですが、グラフの通り1950年から2010年辺りまでは、人口の増加は右肩上がりでした。それ以降は徐々に人口は減少していますが、2017年や2025年(推移)までの人口数ですら1億人をキープしています。人口が多ければ多いほど、医療(費)を利用する人数は増えるので、人口の増加は医療費増加に繋がるといえるでしょう。

高齢者の増加について

先ほどのグラフの通り、わが国の人口は徐々にですが減少しています。しかし人口増加とは対照的に高齢者の人口に関しては、年々増加しています。また現在のわが国の高齢率は27.7%となっており、人口の約1/4が高齢者ということになります。そしてわが国の高齢率の上昇は、世界でも類を見ないスピードで上昇しています。

高齢者の増加と医療費の増加の関係性ですが、まず高齢になると誰しも体が衰えてきますので、何らかの原因により病院に通う頻度が多くなってきます。しかしわが国の医療保険制度では、医療費の全額を国民に強いるのではなく一部だけの負担だけで済んでいます。

そして負担をしてくれている費用の出どころは、社会保障費からとなっています。そのため通院の頻度が多い高齢者が増えるということは、すなわち医療費の増加に直結することを意味しています。

※こちらの記事で医療費を含む社会保障費について紹介していますので、良かったらご覧ください。

●「高齢者問題にまつわる社会保障制度の仕組みについて

平均寿命の伸長

平均寿命の伸長について全てが一概に言えることではありませんが、医療費の増加に影響していると私は思います。

現在分かっているわが国での平均寿命が、「女性:87.26歳」「男性:81.09」となっています。また前年度比より女性0.13、男性0.11伸びており、これは先進医療の発達により、「がん」「心疾患」「脳血管疾患」が改善されているためといわれています。さらにこれらの病気が完全になくなれば、女性で5.61歳、男性で6.81歳伸びるともいわれています。

しかし前述でも述べたように、高齢になるにつれて体は衰え病気やケガを負うリスクが高くなります。

例えば、薬を飲んでいれば健康が維持でき、また生きることが出来る人もいます。しかし反対に言えば、医療費を利用して健康の維持や生きていることにもなるので、長く生きれば生きるほど、医療費がかかってくることになります。言い方は残酷ですが、理論上はそうなるのです。

医療機器の進歩と高騰

現在の医療機器や医療技術の進歩により、一昔前までは治療や治癒ができなかった病気も、治療や治癒が可能となってきました。また最新の医療機器のお陰で、今まででは発見できなかった病原体なども見つけることができるようになり、早期発見が昔より容易となっています。

医療機器であれば、3DCTスキャン、カラードップラー(心臓エコー)、出生前診断、PET装置(がん細胞の早期発見に貢献)・SPECT装置(血流量の変化を測定する装置)などの導入が最近ではよく目や耳にするかと思います。

しかしこれらの高性能な医療機器を利用するということは、金額もそれなりに高額になってきます。そこでCTスキャンの料金の一例をご紹介します。

自己負担なし 1割 2割
単純CT 20,000円 2,000円 4,000円
造影CT 35,000円 3,500円 7,000円
冠動脈CT 41,000~45,000円 4,100円~4,500円 8,000~9,000円

※現役世代及び現役所得並の方は3割負担。

上記の表を見ていただけたら分かるように、国からの負担がなければかなり高額になっています。ですが、その料金で病気の早期発見が出来ると考えれば安いという判断も出来ますが・・・。

負担割合いにより料金は違いますが、1割の人ならば残りの9割が医療費ということになります。単純CTで換算しますと、1回スキャンでの国が負担する医療費は18,000円となります。これが1日に日本各地で行われていますので、1年を通しますと、ものすごい金額になることは考えるまでもありません。

医療費の現状とは

厚生労働省から平成 28 年度の概算医療費は 41.3 兆円と発表がありました。 ちなみにここでいう概算医療費とは、国民のケガや病気の治療にかかった医療費から、労災医療の費用や全額自己負担の医療などを除いた金額のことをいいます。

医療費の伸び率は毎年増加していますが、27年度と28年度の伸び率が少ない原因としては、厚生労働省より診療報酬改定の影響や抗ウイルス剤の薬剤料の大幅な減少等により一時的に減少をしたと解釈をしています。

しかしそれでも、医療費の捻出は高すぎます。

平成24年度 平成25年度 平成26年度 平成27年度 平成28年度
医療費 38.4兆円 39.3兆円 40.0兆円 41.5兆円 41.3兆円1.7%
医療費の伸び率 1.7% 2.2% 1.8% 3.8% 0.4%
1日当たり医療費の伸び率 2.6% 3.1% 2.1% 3.6% 0.3%

引用:厚生労働省

政府の医療費についての考え方

医療費適正化計画

下記に厚生労働省が公表している医療費適正化計画について簡潔にまとめていますので、ご覧ください。

日本国民が高齢者になっても適切な医療が受けられるために、医療費の適正化を総合的且つ計画的に推し進めるよう、国は医療費適正化基本方針を策定しました。また医療費適正化基本方針の期間は「6年を1期」として、医療費適正化計画を定められています。都道府県は、医療費適正化基本方針に基づいて、医療費適正化計画を定めることになっています。  

わが国では、急速に進んでいる少子高齢化でも、国民の健康の維持と向上のために、国民皆保険を維持していかなければなりません。そのために、医療の質を落とさずに国民生活の質の維持と向上を目指しつつも、今後の医療費が過度に増加していかないよう、医療費適正化計画というものが存在しています。

ちなみに、現在は3期目(2018年度~2023年度)に入っており、下記の基本方針のもと計画が実行されております。

【入院医療費について】
○病床機能の分化と連携の推進の成果を踏まえた目標を設定し、引き続き検討を行っていく。
※患者の病状や状態に合わせた病床へ行き、適切な治療を受けれるような環境を行う。それは状態に合っていない病床で治療を行うことは、効率的な治療が出来なく無駄な費用が使われるため。
【外来医療費】
● 現在の外来医療費から将来の医療費の推計を行う。 その結果から、適正化効果額を差し引いて「医療費目標」とすることが基本的な考え方 。
● 適正化効果については、都道府県や保険者等による適正化に向けた取組に繋げていき、医療・介護情報専門調査会による検討を行う。 疾病別医療費の3要素である「受療率」「1人当たり日数」「1日当たり診療費」の地域差や薬剤費の適正化を行う。例を出せば、後発医薬品の使用の促進や重複投与の適正化等を行った具体的な内容については、引き続き検討を行うことになっている。
● 糖尿病の重症化予防、特定健診・保健指導の推進を行う。
引用:厚生労働省

★つまり、この基本方針は何を言っているかというと、ざっくりいえば「医療費の適正化」と「病気の予防」です。無駄を省き効率よく医療を行い、また医療費の見直しを定期的に行う。そして、病気にかからないように定期的な検診や医療職からなどの生活指導を行い、国民に病気への予防意識を高め、可能な限り医療に依存しないようにするということです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
ここでの記事では、現在の医療費の現状と問題について書かせてもらいました。わが国の現在の人口数と高齢化の進展により、医療費の増加は不可避です。国の対策としては、前述で述べた計画を基に医療費の抑制に向けて取り組んでいますが、全てを国任せにするのは違います。私も含めですが、何より医療費のお世話にならないことが一番大切です。
それには、日頃からの生活習慣の見直しや改善を行うことで、少なからず医療費の抑制には繋がると思います。また医療費が増加していけば、私たちが納める保険料や税金が増えるので、他人事とは思わずこの現状について少しでも考えてもらえたらと思います。