新型コロナウィルスの感染拡大は依然として続き、4月21日時点で日本全国で11,543人うち死亡者数が283人。一番感染者数が多い都市は東京都3,090人(死者71人)、次いで大阪府1,211人(死者12人)、神奈川県781人(17人)となっています。先日、政府は新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、新型コロナウィルス特措法に基づく緊急事態宣言が7都府県に向けて先行し発令しました。
これにより多くの民間企業が自主的に休業し、その中には高齢者が利用する【通所介護・短期入所】の介護施設も休業しています。介護施設は、飲食店や娯楽施設とは違い、健康や介護予防、人によって命に関わる施設もあります。ここでは、介護施設が休業したことでの高齢者の影響や、問題について深堀していきたいと思います。
目次
政府が緊急事態宣言を発令してから、厚生労働省が介護事業所(通所介護・短期入所)へ休業の有無を調査したところ、260事業所が休業していることが分かりました(20年4月16日公表)。宣言前の6日時点では110カ所が休業していましたが、宣言後より2倍に増加。内訳は下記の通りです。
出典:静岡新聞SBS
7都府県は、いずれも介護事業所に対して休業要請は行っておらず、新型コロナウィルスの感染防止を求めるのみとしていました。そのため、感染予防の観点から休業は自主的にしたとみられています。
緊急事態宣言の発令後、法律に基づいて対象都市の知事は【必要だと判断した場合に限り】、デイサービスやショートステイなどの利用制限や休業の要請ができるとされています。上記では7都府県の休業状況でしたが、次は全国の介護施設の休業数についてお伝えします。
調査したデータ結果は、NHKが独自に全国の自治体に対して行った介護施設の休業の有無の内訳となります。
引用:NHKより
※2020年4月20日時点での休業数
NHKによりますと、緊急事態宣言の対象地域拡大を受けて、全国の自治体へ「施設の使用制限をする方針」や「休業要請をする方針」といった回答をした自治体はなく、41の都道府県は休業要請などは行わず、ディサービスといった通所介護、一時的に入所するショートステイの介護サービスは継続させる方針です。
残りの【新潟県・長野県・香川県・奈良県・愛媛県・沖縄県】は現時点での方針は決まっていないとしています。
平成28年度に厚労省が公表している全国の介護サービス事業の件数は【通所介護:23,038】【短期入所(生活介護):10,925】あるとされており、今回休業した事業所は本の一部と考えて良いでしょう。
今月8日から休業している都内の通所リハビリテーションの施設長は「集団感染のリスクを懸念した苦渋の選択。介護サービスが不可欠の人は、別の事業所にお願いするなどした」と説明しています。
大きな街であればあるほど、事業所が休業しても他の事業所へ移れる可能性は十分あります。反対に、地方であればあるほど事業所は少ないため、高齢者にとっては死活問題になる可能性があります。
現在、厚労省などの指導により各施設では徹底して新型コロナウィルスの感染対策を行っています。しかし、閉鎖的な入所型の介護施設とは違い、ディサービスなどの通所施設では多くの高齢者や職員が出入りするため、クラスター感染が発生しやすくなります。
高齢者の多くは持病があり、抵抗力も低いため感染リスクは高く、重症化しやすい傾向にあります。また、潜伏期間もあるため利用当日は問題なくても、周りに移している場合があります。こうしたことから、抵抗力の弱い高齢者がどんどん感染していきます。
また、保菌しているだけで発症していないケースもあるため、抵抗力の高い介護職員が無意識に高齢者に移している可能性もあります。
そのため、ディサービスなどの通所施設は新型コロナウィルスの感染が広がりやすい傾向になります。
名古屋市長は、名古屋市緑区と南区にある126の介護施設に対し、先月7日から20日まで休業要請を出しました。休業要請を出した背景には、ディサービスでのクラスター感染が相次いで発生したことがあげられます。では、利用していた介護施設が休業した場合、どのような影響が高齢者に与えるのかをお伝えします。
影響や問題についての前に、まずどのような高齢者がディサービスやショートステイを利用するのかを、私の経験を踏まえてお伝えします。詳細は下記の通りです。
① 日中家族が仕事で出かけるため、見守る人がいない
・介護者が普段仕事をして、日中1人になると危ないためディサービスに通ってもらう。
② 生活にメリハリつけるために利用
・やることがなく家で自堕落な生活をしているため、健康的な食事、運動不足の改善、介護予防を目的にディサービスへ通う。
③ 入浴がメインで利用
・自宅の風呂場では入ることができないため、介護職員がいるディサービスへ行き、安心安全に入浴をするために通う。
④ リハビリをメインに利用
・ディサービスの中には【理学療法士、作業療法士、言語療法士】といったリハビリの専門職が常駐している事業所もあります。そうしたリハビリ職から専門的なリハビリを受けるために通う。
⑤ 交流を求めて利用
・普段話す機会がないため、ディサービスで交流相手を見つけるために通う。
① 介助者の休息で利用
・四六時中、介護ばかりしていると体や精神が追い詰められます。そうした息抜きをするために、高齢者を施設に一時的に預けるという家族がいます。こうしたサービスを【レスパイトケア】と言います。
② 冠婚葬祭で利用
・冠婚葬祭などで介護ができないため利用。
③ 介助者が入院で利用
・介助者が病気やケガで入院している期間だけ利用。
④ 介護施設に入所させるための慣らし入所
・子どもで例えるなら慣らし保育園です。いきなり、介護施設に入所すると急激な環境変化で混乱や精神的に悪影響を及ぼす場合があるためです。
⑤ 病院退院後の一時利用
・高齢者が病気やケガから退院する際に、すぐに自宅に変えることができない場合にクッション役として利用する場合があります。ショートステイの利用時は、自宅を介護ができる環境に整える時間に使ったり、帰宅する訓練の一環として自宅を想定した環境にし、疑似生活をしてもらう(トイレの位置や種類、ベッドの位置、入浴の仕方などを自宅に再現)。
個人的には、ショートステイよりディサービスの休業の方が生活に大きく影響を与えると考えています。それは、ディサービスの方が日々の生活に深くかかわっているからです。
ショートステイというのは、基本的にスポット的に利用することが多く、1カ月に1回利用しないこともあります。それに対して、ディサービスに通うと決めたら、最低でも週1回は利用し、多い人なら週5・6回利用している人もいます。そうした人からすれば、ディサービスの休業は生活に大きな影響を与えます。
上記の理由の中で、特に①の理由でディサービスをしている人は深刻です。そもそも、日中介護をする人がいないからディサービスに預けているため、休業してしまうと本人や家族の生活に支障をきたします。
こうした事態になれば、ケアマネジャーは休業していない別の事業所を探します。
ただ、名古屋市のように現住所の地区が一斉に休業してしまうとそれも出来なくなります。もちろん、他区や市の事業所を探すことは可能ですが、自宅から遠すぎる事業所は現実的ではありませんし、区や市の自治体の方針が異なるため申請までに時間がかかります。さらに言えば、事業所事態も他の区や市の人を受け入れていない事業所も少なくありません。
別の案として、訪問介護(ヘルパー派遣)という選択肢もありますが、訪問介護はディサービスと違って1日中の利用はできません(※)。そのため、①のような家庭だと1日のどこかに訪問介護士が来ても全く意味がありません。
そうなると、家族に仕事を休んでもらうしかありません。そうなると、その分の給料や有給日数が減るため、介護者の負担が増えます。
※厳密に言えば制度上ではできますが、事業所はコスト面などからNOと言ってきます。
ディサービスに通っている方の中には、認知症を患っている方も多くいます。しかし、この度の休業により新たにサービスを探さなければならない場合、むやみにサービスを変えると環境の変化から認知症の症状が悪化してしまうことがあります。
多くのケアマネジャーの方は、よほどの理由がなければ極力サービスを少なくしているはずです。それは、普段の生活からなるべく変えないための配慮です。
認知症の症状の中にBPSD(行動・心理症状)という症状があります。主に記憶障害や見当識障害を始め【暴言や暴力、昼夜逆転、失禁、弄便】といった行動をとってしまうのがこの症状の特徴です。
この症状は、認知症に罹っていても表れないこともありますが、心理的なストレスや生活環境の変化が元で発症する場合があります。
今まで慣れ親しんだ場所から新たな環境へ変えてしまうのは、認知症の症状が悪化させてしまう恐れがあるため、サービスの変更は慎重に行う必要があります。
休業明けまで自宅待機している高齢者は少なくありません。そうした場合に問題となるのが身体能力の低下です。
普段、ディサービスを利用してた人が自宅にいることが多くなると活動量は確実に落ちます。活動量が落ちていくと筋力は徐々に衰えていきます。筋力が衰えると【起き上がり・立ち上がり・歩行】といった基本的な動作が出来なくなっていきます。
高齢者の身体能力低下は若者と違い、落ちるスピードはかなり早く【1週間後・2週間後】には別人のような状態になっているということはザラにあります。
また、認知症を患っている人であれば、何もしないことが多くなることで刺激を受ける頻度が少なくなり、認知症の症状の悪化を招く場合もあります。
高齢者にとって体を動かすことは、健康で安心安全に生活していく上ではとても重要なため、クラスター感染を警戒して自宅にいる高齢者の方は、少しでも筋力の低下を抑えるためにも自宅でできる運動を取り入れることが大事です。
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休業が相次げば、休業していない事業所へ高齢者がなだれ込む可能性があります。そうなると、曜日や時間、場所など希望通りにならなかったり、全ての曜日や時間に空きがないといった事態が起こりやすくなります。
サービスの供給が都心部より比較的少ない地方ほど起きやすいため、ディサービスの代わりに別のサービス(訪問介護・訪問入浴・訪問看護・訪問リハビリなど)を入れざるを得なくなった場合も同様のことが起きる可能性があるので、注意が必要です。
いかがでしたでしょうか。
ここでの記事では、4月20日時点までで分かっている介護施設(通所・短期入所)の休業件数と、休業に伴う高齢者への影響や問題についてお伝えしました。介護施設の中でも特にディサービスといった通所介護施設では、人の出入りなどが活発に行われるためクラスター感染になりやすい傾向にあります。
健康になるために通っていた場所で新型コロナウィルスに感染しては本末転倒です。だからといって、どこにもいかずに家でただ黙って自粛していても良くありません。休業した施設に通っていた高齢者の方は、自宅でできる運動・体操をすると良いでしょう。