わが国では、ここ十数年前から少子高齢化や核家族などといった問題を抱えています。この問題が浮上する前の日本では、隣人同士や町内会といった地域住人同士の付き合いが活発に行われていました。しかし、今では地域同士の付き合いが希薄となり、都会に行くほどその現象は顕著です。また、少子高齢化や核家族の影響で、1人暮らしを余儀なくされた高齢者も数多くいます。
このように家族や地域社会から孤立した高齢者の1人暮らしが特に問題となっています。では、具体的に高齢者の1人暮らしがなぜ問題なのか、ここでの記事で解き明かしていきたいと思います。
目次
高齢者の1人暮らしの現状とは
まず、現在わが国の高齢者の単独世帯数(1人暮らし世帯)と、高齢者が1人暮らしをする理由について、お伝えしたいと思います。
現在の高齢者の単独世帯数
現在わが国の高齢者の単独世帯数は、平成30年時点で683万世帯あります。これより10年前の平成19年の調査では432万世帯だったので、10年足らずで1.5倍に増加したことになります。
さらに、現在65歳以上の者がいる世帯数(夫婦世帯、3世代世帯など)は、2492万7千世帯なので、高齢者世帯の1/4が単独世帯ということになります。
(※情報元:平成30年 国民生活基礎調査の概況より)
高齢者が1人暮らしをする理由
内閣府が60歳以上の単身高齢者に行った「病気の時や一人ではできない日常生活に必要な作業の手伝いなどについて頼れる人の有無」の調査で「別居の家族・親族」と答えた人が66%、「いない」と答えた人が12.3%でした。
※(内閣府「平成23年度 高齢者の経済生活に関する意識調査結果(全体版)」
また、内閣府別の調査では、1人暮らしの65歳以上の高齢者に【幸福・不幸】かの意識調査を実施し(「とても不幸:0点」から「とても幸せ:10」の10段階)、平均点が6.59という結果が出ました。年齢別でもみると、80歳以上の平均点が6.97と最も高くなっています。
※(内閣府「平成26年度 一人暮らし高齢者に関する意識調査結果(全体版)幸福感、不安に関する事項」)
何らかの理由で、1人暮らしをしている高齢者もいますが、必ずしも不幸という訳ではないことがこれらの調査で分かります。しかし、これはあくまで【自分の体が元気なうちは幸福(=問題ない)】でしょう。
次は、高齢者が1人暮らしをする上での問題点についてお伝えします。
高齢者の1人暮らしによる問題とは
前述の通り、1人暮らしの高齢者がどれだけいて、どのように感じて生活をしているが分かったかと思います。次は、高齢者が1人暮らしをすることで生じる問題について見ていきたいと思います。
フレイル問題
まず、フレイルというのは、健全な高齢者と要介護者の間のことを指します。いわゆる、要介護の一歩手前です。では、なぜ高齢者の1人暮らしがフレイル問題になるのか簡単に説明します。
フレイルが生じる要因には大きく分けて3つあり、それらの原因が重なり合うことでフレイルが生じます。
・筋力の低下
・転倒が多くなる
・低栄養
社会的要素
・引きこもり
・社会交流の減少
精神的要素
・認知機能の低下
・意欲や判断力の低下
・老人性うつの発症
次は、フレイルに陥る1人暮らしの高齢者の例についてお伝えします。
退職後、地域交流(友人交流)をせずに人との関わりが減っていくと、人と話す機会が自ずと減ってきます。そうなると、徐々に引きこもりがちになっていきます。この時点でフレイルの【社会的要素】が生じてきます。
次に、人と話す機会が減れば、口腔周辺(特に喉)の筋力が衰えてきます。口腔周辺の筋力が衰えれば、食事がまともに取れなくなるため(飲み込みが上手くできなくなるため)、低栄養の危険性が出てきます。ここで【身体的要素】生じます。
そして、低栄養になれば、体全体に栄養が行き渡らなくなり、認知症のリスクが上がります。【精神的要素】の出現。
実際には、この例のように短い期間で3要素が現れる訳ではありませんが、1つの問題が起きると連鎖的に問題が生じるのがフレイルの特徴だということは覚えておいてください。
これらは一例でしたが、1人暮らしの高齢者は知らずにフレイルになる危険性は常にありますので、注意して生活しなければなりません。
低栄養に陥りやすくなる
私がケアマネジャーをやっていた時は、1人暮らしの高齢者の初回訪問で低栄養状態、もしくは一歩手前の人はかなりいました。フレイル問題の身体的要素でもお伝えしていますが、1人暮らしの高齢者は特に低栄養に陥りやすい傾向にあるので、少し深堀させてもらいます。
低栄養の主な症状は【体重減少・骨格筋の筋肉量や筋力の低下・風邪など感染症にかかりやすい・傷や褥瘡(床ずれ)が治りにくい・下半身や腹部がむくみやすい】です。
1人暮らしをしている高齢者の食生活を聞くと【自分の好きな物しか食べていない】【食事時間はバラバラ】【食べるときと食べないときがある】【お腹が満たされれば大丈夫と思っていた】【料理をするのが億劫】といった答えが返ってきました。
当然ですが、食べたものが自分の身となり栄養となるわけです。食事を疎かにして生活を続けていると体は衰えていきいつか必ずツケがやってきます。
孤独死問題
上記で説明したフレイル問題から孤独死問題へと進展していく高齢者は少なくありません。孤独死をする人は、何らかの理由で亡くなりますが、突然ポックリ逝くわけではありません。孤独死をする殆どの人が、規則正しい生活をしないがために(出来ないも含む)徐々に状態が悪化し、気づいた時には自分一人では生活が出来なくなるまで能力が低下し息絶えるといったケースが非常に多いです。
孤独死をする特徴が大きく分けて3つあります。
現役時代は、仕事一辺倒だった男性は家事が苦手な傾向にあります。妻との離婚や死別などで、支えてくれてた人がいなくなれば、その傾向は顕著です。家事が出来ないということは、生活の質が下がり、不健康状態になりやすいことを意味します。不健康だと病気の発症や悪化を引き起こすため、孤独死をするリスクを高めてしまうからです。
人付き合いが苦手
孤独死をする人の多くは、社会から孤立している人が多いです。よくあるのが、会社を退職し、社会との接点が減り、コミュニティへの参加を拒み、地域から孤立していくケースです。孤立するということは、助けを求めたり、発見される機会が減るので、孤独死をするリスクが高まります。
持病があり、貧困暮らしの人
持病があって、経済的に余裕がない人は、孤独死がしやすい傾向にあります。まず、持病があるということは、医療費が必ずかかります。医療費を削って通院を拒めばそれこそ孤独死のリスクが高まりますが、経済的に余裕がなければ、生活全体の質が下がるので健康状態に悪影響を与えます。
ちなみに、孤独死をする高齢者は【身寄りがいない】【地域社会との繋がりがない(持たない)】人がほとんどで、孤独死の発生件数は6.70代が最も多くなっています。また、1年間のうち、全国で孤独死をする人は約3万人(全世代)と言われ、年間に国内で死亡する125万人のうち、3万人が孤独死をしているということになります。
犯罪被害に遭いやすい
家族と同居していても、家族が居ない時間帯(昼間など)を狙ってくる場合もありますが、終日高齢者しかいない家だと、やはり犯罪グループのターゲットにされやすいでしょう。
犯罪被害の例としては、振り込め詐欺(還付金詐欺など)や押し売り、今年の始めに話題になった【アポ電強盗】といった事前に現金を自宅に用意させて、無理やり奪い去る事件もあります。このような事件の被害に遭った人たちは、1人暮らしの高齢者世帯です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
高齢者の1人暮らしというのは、仕事を退職した高齢者の事を指します。仕事がある高齢者は仕事という社会およびコミュニティがあるので、さほど問題ではありません。しかし、仕事に行かなくなれば、運動量(活動量)は圧倒的に落ち、趣味などがなければ徐々に意欲が低下し、引きこもりがちになり、そういった生活を繰り返ししていれば、記事内で話したフレイルや孤独死といった問題が起きやすくなります。
老いた体で1人暮らしをするということは、どういった生活が待っているかをよく考えておく必要がありますので、この記事を参考に今一度老後生活について考えることをオススメします。