皆さんは2025年問題をご存知でしょうか。この年は、団塊の世代と言われている人たちが75歳以上の後期高齢者になる年です。現在、わが国の高齢者の人口は3,588万人(19年9月時点)ですが、2025年の人口推計では3,677万人に達すると言われています。推計では約100万人ほど増える計算ですが、それのどこが問題なのか。ここでは、2025年を迎えることで、私たちの生活や社会にどのような影響を及ぼすのかを深掘りしていきたいと思います。
目次
2025年問題とは
戦後最も人口の多い世代である【団塊の世代:1947~50年生まれ】の人たちが75歳以上になる年が2025年です。この年からより一層医療や介護サービスの維持継続の困難、社会保障費の圧迫などの問題が出てくることから2025年問題と呼ばれています。
介護保険創設の2000年以降、75歳以上の高齢者人口は上昇傾向にあり、特に2020年から2025年までの上昇が特に多いのが分かります。
この世代の出生率は【1947年:4.54% 、48年:4.40%、49年:4.32%、50年:3.65%】と、4年間の出生数が約1,000万人。対して、2016~19年の4年間の出生数は約370万人、2019年の出生率は1.42%。比較すると、団塊の世代が生まれた時代の出生率や人口の多さの違いが分かると思います。
問題1:社会保障給付費の増加
団塊の世代の人たちが75歳以上の高齢者になることで、社会保障給付費が大幅に増大すると予想されています。2018年度の社会保障給付費は、121兆3,000億円。そして、予算ベースではありますが2019年度はさらに増加し、123兆7,000億円となっています。下記に内閣府が公表した社会保障費の推移のデータを基にグラフを作成しましたのでご覧ください。
2019年度の社会保障給付費は、年金56.9兆円、医療費39.6兆円、介護・福祉・その他27.2兆円となっています。
そして、特に増加している部分が高齢者医療と介護給付費です。2025年の医療費は【47.4~47.8兆円】、福祉その他【介護給付費:15.3兆円】、社会保障費は140.2~140.6兆円になると予想されています。
増加の原因の1つが高齢化率の上昇によるもので、現在わが国の社会保障制度は高齢者医療や介護給付費の5割を公費で賄うため、それらの依存度が高くなれば公費負担が増えていきます。
戦後最多の出生数と言われた団塊の世代が高齢による影響で【医療機関の入院、長期療養、介護など】を利用すれば、今まで以上に社会保障費がかさむことになり、財源が圧迫されることは間違いないでしょう。
問題2:介護サービスの崩壊
2025年には65歳以上の高齢者の人口は3,657万人、高齢率が30.3%となり、3人に1人が高齢者と言われる時代が訪れます。また、75歳以上の高齢者人口は2,179万人、高齢化率は18.1%です。
高齢になれば罹患リスクが高くなる認知症は、65歳以上の認知症高齢者が2012年時点で462万人(15%)とされていたのが2025年には約700万人(20%)増加する推計がされています。その根拠の1つが要介護・要支援認定者の増加です。
このような状態になった人たちの主な行き場は介護施設です。2017年時点での特別養護老人ホーム(以下、特養)の施設数は7,891、うち定員数は約54万人です。
現在、要介護(要支援)認定者は約633万人おり、特養に入るための最低条件でもある要介護度3以上は約220万人。定員数と要介護3以上の人の差は約170万人あり、それだけの人が特養に入れないことになります。
もし、介護施設の定員数が2017年の現状と変わりなければ、介護施設でサービスを受けられない高齢者がさらに溢れることになり、在宅サービスを選択せざるを得なくなります。しかし、在宅サービスの要である訪問介護員(ヘルパー)の不足が深刻になっています。
深刻なヘルパー不足
現在、厚労省の推計では、2025年までに必要とされている介護職員の数は約237~249万人としていますが、実際には約218~229万人しか確保出来ないとされています。この推計は、介護施設や在宅サービスで働く人数なため、その深刻さが分かると思います。
その中でも、特に在宅サービスで活躍するヘルパーの数が少ないのが現状です。
採用段階で人材確保に困難があるとした回答が70.2%もあり、いかに人が集まらないかが分かります。
2017年時点での利用者1人当たりの在宅サービスでは、訪問介護が19.7回と断トツに多く、次いでショートステイ10.2回、ディサービス9.1回となっています。いかに訪問介護が在宅生活をする上で要になっているのが分かります。
これが2025年になると状況はさらに悪化するとみられ、施設はおろか、在宅サービスですら満足に受けられない状況が2025年より起こってきます。
問題3:介護保険料の増額
ここまで社会的なことをお伝えしましたが、次は私たちのお財布事情にかかわる問題です。
介護保険サービスを利用する人は、介護サービスの利用費用の一部(1~3割)を支払い、残りは介護保険の財源から事業所へと支払われるため、利用者は比較的安くサービスが受けられます。では、その財源はどこからきているのか。
介護保険料の財源の仕組み
介護保険の財源は、40歳以上の被保険者から徴収した保険料50%(第1号:23%・第2号:27%)と公費50%(国:25%・都道府県:12.5%・自治体:12.5%)で成り立っています。そして、65歳以上の第1号被保険者である介護保険料は自治体ごとで異なります。
異なる理由としては、各自治体のサービス料や65歳以上の人数が異なるからです。保険料の計算式は基準額(年額)=市区町村の介護サービス総費用×第1号被保険者負担分÷市区町村の第1号被保険者数となっています。
つまり、介護サービス費や第1号被保険者が増加すれば、介護保険料も比例して増加することになります。
※出典:内閣府
介護保険料は3年ごとに見直しが行われます。現在は第7期に突入しており、全国平均の介護保険料は月5,869円(+6.4%)。図のグラフでは、2025年には月6,771円まで上昇すると推計され、高齢化が進展していく限り介護保険料は上昇しつづけます。
2025年問題に向けての対策とは
2025年問題に対する政府の対策についてお伝えしたいと思います。
地域包括ケアシステム
出典:内閣府
もうここまでくると、少子高齢化の流れを止めることは出来ません。高齢化率に比例して税収や保険料の増加が見込めないのであれば、社会保障費の増加の抑制にシフトする必要があります。そうした仕組みを作ったのが地域包括ケアシステムです。
地域包括ケアシステムとは、重度な要介護状態になっても住み慣れた地域で人生の最期まで住み続けられるよう、住まいを中心に【医療・介護・予防・生活支援】などが一体となり高齢者を支えていくシステムです。つまり、国が高齢者を支えるではなく「地域で全体で支えていきましょう」ということです。そうなると、地域独自のやり方や介護サービス、財源の使い方など効率よく高齢者支えることが出来てきます。
・高齢者の住まいの確保
・賃貸住宅入居時の保証人の確保
・空き家の活用
● 介護が必要になったら
・在宅系のサービスの提供
・施設、居住系のサービスの提供
● 医療が必要なったら
・急性期、慢性期に応じた医療サービスの提供
・日常的な医療サービス提供(かかりつけ医、訪問診療、歯科(訪問)医療、薬局)
● 予防
・介護予防や健康づくりの行事
・保健衛生面の支援
● 生活支援
・地域交流
・認知症カフェ
・福祉サービスの提供
地域包括ケアシステムによって、地域全体で高齢者の情報を適切に共有して連携することで、介護や医療などといったサービスをスムーズに提供することができます。結果、高齢者が安心して今まで通り自宅で生活をしてくことができます。
高齢者が増える一方で、認知症高齢者の増加も見込まれており、認知症高齢者の生活を支えていくためにも、こうした地域全体で支えていく地域包括ケアシステムの構築は非常に重要となります。
地域包括ケアシステムの課題
地域包括ケアシステムは、基本的には各市区町村の実情や特性に応じて作り上げていきます。『地域全体で支えていく』、つまり地域密着型ということです。地域ごとで作り上げることは、民意が反映されやすく且つ開始が早くなります。
例えば、中山地で買い物が大変という高齢者が多ければ、買い物に特化したサービスが生まれるといった地域のニーズに応じたサービスが生まれてやすくなります。
ただ、このシステムにはまだまだ課題があります。考えは完成しても実際は十分な体制が整ってはいません。特に介護と医療の連携体制の整備は急務となっています。
そして、地域包括ケアシステムの存在自体を多くの人たちが知らないのが現状です。知らないとなると、上記で触れた地域密着型のサービスが生まれにくいということになります。多くの人に浸透していないとなると「地域はどんな現状なのか」「何が必要なのか」「何が困っているのか」など状況が分からないまま、ただ2025年問題を迎えることになります。
そのため、専門職間の連携はもちろんのこと、地域住民へ地域包括ケアシステムの重要性をもっと知ってもらうことが必要です。
介護の人材を確保
介護の人材不足は深刻です。介護不足については、本記事でも触れている通りです。人材不足を解消するために政府は【介護離職者に対する復職支援】【大学や専門学校からの介護希望者に対する啓発活動および普及】、【外国人労働者の受け入れ】などといった介護の人材確保に力を入れています。
ただ、介護人材の確保だけに注力しすぎて、肝心の介護の質という根本的な部分が低下していく可能性があると懸念されています。
そのため、人材確保と同時に介護の質を高めていくための講習を効率よく行っていくことが大事となります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
わが国は、世界でも類を見ないほどのスピードで高齢化が進んでいます。そして、その問題の第一波が2025年問題です。政府は、この事態の対策として【民間による地域支援】と【自助努力】にシフトしています。言い換えれば「国だけでは無理です。みんなも協力してください」といった感じです。
納税者からすれば「削減できるところがあるじゃないか」「まずは税金の無駄遣いをなくせ」などといった色んな批判は出るとは思いますが、不満を漏らしたところで現状は良くなりません。そのため、国に全てを丸投げするのではなく、生き残っていくためにも今自分たちで何が出来るのかをよく考え実行していくことが、今後の生活を大きく変えていくことでしょう。
※参考文献:厚生労働省