家族が介護が必要になった時、老人ホームへの入居(入所)を考える方もいると思います。しかし、その際に気になるのが施設内での【虐待】ではないでしょうか。近年、介護職員による高齢者虐待のニュースがよく取り上げられており、当サイトでも高齢者虐待のニュースはいくつも発信しています。老人ホームへの入居を考えている人からすれば、とても他人事な話ではないはず。ここでの記事では、老人ホームで起こる虐待の要因と施設選びをする上で注意するポイントについて、私の実体験なども織り交ぜながら解説していきたいと思います。
目次
高齢者虐待の相談・通報・判断件数
まず、わが国で起きている介護施設従事者等による高齢者虐待の件数について整理したい思います。下記のグラフは、厚生労働省が公表したデータを基に作成しています。調査対象年度は、平成29年4月1日から平成30年3月31日までに、市町村等が相談・通報・虐待判断した件数となっています。
虐待の種別の割合
虐待の種類は【身体的虐待・心理的虐待・経済的虐待・性的虐待・ネグレクト(介護放棄)】の5つに分類されています。要介護施設従事者等による虐待傾向についてグラフに表したので、ご覧ください。
要介護施設従事者等による虐待で特定された高齢者854人のうち、特に多かったのが【身体的虐待:511人・心理的虐待:261人・ネグレクト:144人】となっています。
虐待をしてしまう要因とは
虐待をしてしまう要因については、本人の資質、介護特有の業務内容や環境、状況、人間関係などが重なり、虐待に至る傾向にあります。では、具体的にどのような要因が虐待へとなっていくのか紹介しています。
慢性的な人手不足
これは、ニュースなどで知っている方も多いと思いますが、常に介護業界は人手不足です。他の業界より賃金が安い上に、業務内容がキツく、人間関係のトラブルといった理由で辞めてしまい、また、辞めてしまっても直ぐに人が入ってこないという悪循環な業界です。また、入職して1ヶ月も経たないうちに辞めてしまうといったこともザラあります。
人手不足ということは、本来いるべき人数がいないということです。となると、今働いている人はいるべき人の分の業務をやることになります。
そういった状況からストレスが徐々に溜まっていき、何かのキッカケで弱い立場である高齢者に虐待をしてしまう傾向にあります。
有給が取りづらい
私も現場に居た時で、一番辛かったのが【有給が取りづらい(休みが取りづらい)】ことでした。
有給を使い旅行に行きたいと思っても取れず行けなかったり、友人と予定を合わせづらいということはよくありました。そして、よく言われたのが「あなたが休んだら他の人が大変になるでしょ?」です。
本来、有給は労働者に与えられた権利ですので、基本的には「いつ、どこで、何のために」取ろうと労働者側の勝手です。しかし、人数が足りないから取れないといった理由で有給の取得を拒む施設は少なくありません。私の友人の話ですが、有給申請をするときに有給の理由を上司に伝えて、上司が納得すれば有給の許可が下りるといった意味不明な施設もありました。
人間だれしも、リフレッシュは必要です。業務が大変な上に、休みが満足に取れない日々が続けばストレスが溜まるのは、火を見るよりも明らかだと思います。しかし、どんな状況でも虐待をしてはならないのは変わりはありません。
介護職員の質の低さ
介護業界は、慢性的に人手不足のため、誰彼構わず採用してしまうことはよくあります。さらに、他で定職につけなかった人も介護業界に流れてくることはよくあるため、常識に欠けている人や、認知症高齢者への理解が十分に出来ていない人が介護の現場にいることがあります。全ての人に当てはまる訳ではないですが、介護は自分の思い通りになるような仕事ではありませんので、本当に人としての質が求められます。
こういった人手不足が絡み、介護職員への虐待防止研修といった指導が行き届いていない施設もあるため、職員育成の不行届きで虐待が起こるケースは多々ありのが現状です。
夜勤の過酷さ
介護職で一番大変な業務といえば【夜勤業務】でしょう。私が特別養護老人ホーム(従来型)で働いていた時の夜勤勤務の話をします。
当時働いていた施設の夜勤勤務は、2人対応で16時半から翌日の9時半まで、うち2時間休憩がありました。ちなみに、他の勤務帯と被る時間帯もあり、遅番勤務は19時まで、早朝勤務は7時半からなので、実質夜勤者のみで活動するのは19時から翌7時半の7時間半です。大体の施設は、このような時間帯になると思います。
夜勤の頻度は、月に8回~10回(月休日は土日計算で8~10回)。入所者は、1フロアに50人程がいましたので、1人25人換算でみます。
次に、夜勤者のみで介護をする業務は【トイレ誘導・オムツ交換・汚れたシーツ衣類を洗濯(汚染された場合のみ)・徘徊者の対応・ナースコール対応・巡回・看取り者のケア・起床準備】など夜通し行われます。しかも、1つの業務を行っている時に、他の人からナースコールが鳴ることなど日常茶飯事で、常に走り回っている状態で【夜は静かで暇】ということなど年に1回あるかないか。
そういった過酷な状況を毎回やっていると神経が擦り減っていき、忙しい時に介護職員の思い通りにならないことがあれば、魔が差して虐待をしてしまうのではないかと私は思います。かく言う私ですら「この野郎」と思ったことはあります。
補足ですが、虐待(暴行事件など)が起きる時間帯のほとんどが、人の少ない夜勤帯に多いと言われています。
施設入所を見極めるポイント
上述したように、施設の介護職員は、激務の中介護を行っています。しかし、そんな激務の中でも、プロとしてしっかりと行っている介護職員および介護施設はあります。そこで、私の経験を基に、虐待がない施設を見極めるポイントについてお伝えします。
見学時間がしっかりと取られている
短い時間しか設けられていない施設は、ちょっと考えものです。何故なら、施設の説明や運営方針といった施設の特徴(良さ)を説明するのに、短時間で終わるでしょうか?また、見学時間も十分に取られていない場合は、都合の悪い部分をあまり見せたくないといった意図もあるので注意が必要です。
昼飯時に見学にする
私の経験上、昼食時間帯はかなり介護職員の質が出ると思っています。
では、なぜ昼食時に見学をオススメするかというと、限られた時間の中で食事介助をしなければならないからです。恐らく何処の施設も昼食時間をゆっくり取っているところは少ないと思います。取って30分程度。
そして、昼食の食事介助が終われば、口腔ケア(歯磨き)、トイレ誘導、オムツ交換などといった業務が待っています。この昼食の食事介助に手間取るということは、これらの業務に支障がでてくるため、その焦りから雑さなどが現れます。雑さは、介護職員の質の低さですので、どのような対応をしているかよく観察してください。ポイントとしては【無愛想で配膳をしていないか】【流れ作業になっていないか】【食べ物を口に運ぶときに声掛けをしているか】【殺伐とした雰囲気の中、食事介助を行っていないか】などです。
ちなみに、大体の施設が午前11時半ごろから昼食の配膳を行いますので、そのくらいの見学を希望されると良いでしょう。
入所者の身だしなみをチェック
介護職員は、様々なケアをしながら入所者の介助を行っています。私の経験上では、ケアの中で身だしなみが一番後回しになることが多く【髪がボサボサ・髭がボーボー・目ヤニが付いている・パジャマ姿で起きてる(状況による)・服が汚れている】といった利用者がいないか観察して下さい。こういった入所者が多い施設は、細かなケアが出来ていない可能性があるので注意が必要です。
職員の表情が明るい・笑顔が多い
入所者と介護職員の笑顔が多い施設は、精神的に余裕がある証拠です。余裕のない環境だと魔が差して虐待をしてしまう恐れがあるので、職員の表情や入所者との関わりを良く見ることをお勧めします。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
正直な話し、利用者からしたら虐待を見抜くのは至難の業です。何故なら、虐待は誰も見てない時に行うものなので、なかなか表面化しづらいからです。そして、このようなアドバイスをしている私ですら、現場に居た時は何度も「この野郎」と思ったことがありました。特に夜勤帯に。
しかし、虐待を見抜けない訳ではありません。今回紹介したポイントを参考に施設見学をし、最適な介護施設を見つけてもらえたらと思います。