当サイトでも以前にスウェーデンについて紹介しましたが、スウェーデンは世界屈指の福祉国家とも言われており、スウェーデンの福祉の在り方を参考にするため、各国から視察に来るほどです。しかし、スウェーデンも最初から福祉国家だったわけではありません。では、どのようにして、スウェーデンは今の福祉国家を築いたのか、ここでの記事でお伝えしたいと思います。
目次
現在のスウェーデンの福祉制度の始まりは、1992年に実施した「エーデル改革」からとなっています。それまでのスウェーデンの福祉制度は、運営方針や財源などの統制があまり取れていない状態でした。例えば、保健医療に関しては「ランスティング」。社会福祉に関しては「コミューン」が管轄するといったように、それぞれ分けれれていました。
運営方針や財源などが分かれているため、コミューンの立場からすると、介護が必要な高齢者に対して、福祉サービスを手厚くするより病院に入院させて、ランスティングに費用を負担させた方が、コミューンの財政には得策となるという考え方が常識化していました。
その結果、スウェーデン国内では、高齢者の社会的入院が多くなるといった問題が起き、医療費などの歳出がどんどん増えていきました。
◇ エーデル改革の始まり
そんな問題を解決するため、1992年に国を挙げて高福祉を掲げ、医療資源を有効かつ効率的に使用し、医療費の歳出の抑制と高齢者ケアの質の向上を目指したのが「エーデル改革」なのでです。
エーデル改革の前は、国が全てを決める中央集権のような体制でしたが、改革後からは高齢者や障がい者への社会サービスや保健医療の行政サービスは、地方自治体(ランスティングとコミューン)の権限と責任のもと実施されることになりました。
さらに言えば、福祉サービスの責任のほとんどが「コミューン」が担うことになりました。
改革前の制度では、高齢者を「長期療養病床(ランスティング管轄)」から「福祉施設(コミューン)」へ移動した際のインセンティブが、コミューン側になかったことが原因で社会的入院が多くなったと考えられています。
◇ 5日以内に退院後の福祉サービスの確保しなければ・・・
そのため改革後は、病院が退院可能と判断した際に、コミューンが5日以内に適切な福祉サービスを用意できず病院に留まることになれば、留まった分の入院費などの財政責任の全てを「コミューン」が負担することなりました。
◇ インセンティブ効果で入院者数が激減
その結果、1988年には「10万4,000床」だったランスティング管轄の病床数が、制度開始から7年で「3万3,000床」と約7万床も減らすことに成功しました。
インセンティブの構築により、スウェーデンでは「病院介護」から「在宅介護」へシフトしたのです。
日本では、利用者とケアマネジャーがケアの計画を立てますが、スウェーデンでは、コミューンに「特別な住宅」を含む高齢者住宅でのサービス内容や自己負担額など、運営上の決定権が与えられているため、地域のニーズに合わせた質の高いケアの計画を立てます。
そのため、総合的且つ効率よく計画を立てられるので、社会的入院以外での医療費もある程度の抑制に成功しました。
スウェーデンの福祉医療サービスにも、日本同様に訪問介護、訪問看護、ディケアなどがあります。主に、どういった種類のサービスがあるのか紹介したいと思います。
◇ ランスティング管轄の医療サービス
ランスティング | |
● 短期医療 | ● 精神科医療 |
◇ コミューン管轄の医療福祉サービス
コミューン | ||||
特別な住居 | 在宅 | |||
● ナーシングホーム | ● 老人ホーム | ●サービスハウス | ● 訪問介護 ● 訪問看護 | ● ディケアサービス ● ディケアセンター ● 電話サービス ● 緊急アラート ● 配食サービス |
● 長期療養ケア | ● ナイトパトロール | ● ナイトパトロール |
スウェーデンの高齢者住宅には、大きく分けて「一般住宅」「シニア住宅」「安心住宅」「特別な住居」の4つの種類が存在します。また、サービス費用については、コミューンの税財源と利用者の自己負担で成り立っています。
今紹介した4つの高齢者住宅は、施設ではなく住居と位置付けられているため「特別な住居」以外はコミューンの認定は不要です。
福祉サービスについては、必要に応じて福祉局に申請を行うことで、利用ができます。スウェーデンでは、日本のように定められていないため、コミューンが必要だと判断すれば、入浴や食事などの支援以外に「掃除、買い物、調理、配食サービス」などの家事援助も対象となっています。
以前は機能ごとに区別されていた「ナーシングホーム・認知症グループホーム・サービスハウス・老人ホーム」といった医療・福祉施設でしたが「特別な住居」として統合し、コミューンが管轄することになりました。
◇ 改革後は、「施設」という名称は消える
スウェーデンでは、高齢者の医療福祉サービスが提供される場は、「自宅(高齢者住宅含む)」か「特別な住居」の2種類だけです。
また、制度上では「施設」ではなく「住居」に変更され、生活の場として環境整備が進められています。
◇ それぞれの特別な住居とは・・・
それぞれの施設では、体が悪くなっても、その場の環境のまま状況に応じて介護や看護の環境を変えることができるため、高齢者が最期まで同じ場所で住み続けることができます。
日本では、「健康体でない」「介護度・医療度が重くなった」といった理由で退去しなければならない施設もありますが、スウェーデンの場合はそういったことはありません。ただし、入居する条件が少し厳しいので、そう簡単には入れません。
「特別な住居」の入居には、本人や家族が申請を行い、介護ニーズ判定員が本人などの介護レベルの判定等を経て、入居の調整を行います。
入居調整(優先順位の判断)には、日本でも同様に「認知症の程度」や「独居」等といった状況などを考慮します。また、「特別住宅」への入居する流れには、大きく分けて2つあります。
スウェーデンでは、改革後施設という概念がなくなり「家に住む」という考え方になっています。しかし、高齢者が子どもたち世帯と同居するということは、ほとんどありません。
スウェーデンの高齢者の多くは、単身か夫婦世帯の居住が主流で、高齢者と成人した子供と同居する割合は「10%」も満たないと言われています。
エーデル改革前は、国が全ての福祉行政の権限を担っていましたが、1992年のエーデル改革以降、福祉行政の権限が地方自治体へと移り、医療と福祉サービスが連携が取りやすくなり、さらにインセンティブを設けることで、入院・施設介護から在宅介護と看護の流れにシフトすることができました。その結果、社会的入院が解消、医療費の削減、医療と福祉の総合化に繋がりました。
◇ エーデル改革後のスウェーデンの福祉を簡単にまとめると・・・
※参考文献:・スウェーデンの介護事情 ~海外調査報告~