世帯所得が低所得層ほど介護時間が長く、また高齢者同士が介護をする「老老介護」を行っている家庭での抑うつのリスクが約3倍にもなることが、「国立長寿医療研究センター」の調査で分かった。ここでの記事では、「国立長寿医療センター」の研究データを基に、何故低所得者ほど介護の時間が長時間になってしまうのか解説していきたいと思います。
目次
まず分析対象者となったのが、65歳以上の介護者です。次に人数については、65歳以上の介護者1.782名中無回答を省いた、1,598名のデータを基に算出しています。まず下記のように対象者を等価可処分所得額(※)ごとにグループ分けをします。
※等価可処分所得:家計収入から税金や社会保険料などの非消費支出を差し引いたものを指します。
①世帯(現役所得並み世帯)・・・318万円以上
②世帯・・・200~318万円未満
③世帯・・・130~200万円未満
④世帯・・・130万円未満
⑤生活受給者
次に対象者から「介護を要する頻度」と「1日当たりの介護時間」を週当たりの介護時間を聞き取りをし時間を算出。それに「週36時間以上介護の有無」「週72時間以上の介護の有無」の2つの枠組みに照らし合わせ測定したものが、下記のグラフのようになります。また現役所得並み当たる「①世帯現役所得並み」をリスクを1とした基準で算出しています。
※データの引用元:国立長寿医療研究センターより
上記の図を見ていただけたらお分かりのように、①を起点に所得が下がるにつれて、介護時間のリスクが上昇しています。また生活保護受給世帯の介護時間に関しては①と比べて「週72時間以上の介護」が約2.7倍と突出して高いことが分かりました。
まず考えられる原因としては、金銭面の問題です。介護保険サービスを利用すればするほど、自己負担が増加していきます。可能性の1つとして自己負担の問題から、必要なサービスを入れることができず、家族が担うことになっていると考えます。
介護保険サービスの利用を行う際、所得ごとに負担割合が「1割」もしくは「2割」と割り当てられていますが、介護度が高ければ高い程、介護保険サービスの利用リスクが高くなり、それに比例して介護費用も増えてきます。
また「1割」負担とはいえ、まるまる介護保険サービスを「週36時間以上」「週72時間以上」の介護費用を捻出すれば、それなりの額になります。やはり費用を少しでも抑えるとなると、家族の介助が不可避となるわけです。
前述した話とは少し変わってきますが、生活保護受給者の自己負担金額については、生活保護の介助扶助により給付されるため、介護保険サービスの自己負担はありません。そのため、本来は介護者だけで介護を抱え込まずに済むはずです。しかし、上記のデータを見る限りでは、介護時間が他の世帯と比べ突出して高いことが分かります。
さまざまな要因があると思いますが、「適切な介護情報の提供が出来ていない」可能性があります。これは支援者側の問題でもありますが、現在の状況にあった介護情報の提供が出来ていないため、家族の大部分が行っていると考えます。
また生活保護受給者の抑うつリスクは①の世帯と比べて3.10倍という高いデータが出ています。長時間の介護を行っていると、大なり小なり健康被害のリスクが生じてきます。これらが全て直結するわけではありませんですが、少なくとも必要な介護が導入されていないことにより、家族の介護時間が増え、さらにそれに比例し抑うつのリスクが上昇したと考えられます。
介護保険サービスを利用するには、介護認定が下りていなければ利用が出来ません。介護認定については、「要支援1~2」「要介護1~5」まで存在します。この区分によって介護保険の適用の幅が決められているため、介護度が低ければ保険適用範囲が狭まります。
本来は、その方の状態によって必要な介護度が決められているのですが、その時の調査員のスキルや調査時の体の状態、主治医より適切な意見書が書かれなかったなど色々な原因で、介護度が変わることがあります。
よくあるのが、「あの人の方より状態が悪いのに、私の方が軽く認定度が出ている」などです。私の経験上でも、明らかに状態が悪化していたため、区分変更申請を行うも却下になったケースが多々ありました。
介護度が見合ってないことにより、自己負担を気にして必要サービスの導入が出来ない。つまり必要サービスが入っていないため、家族が介護を行うという悪循環になっている可能性があります。
いかがでしょうか。
ここでの記事については、国立長寿医療研究センターの公表データを基に作成しました。内容を見ていただけたらお分かりのように、低所得者の介護者ほど長時間のリスクが高いことが分かりました。
先日「経済財政運営と改革と基本方針2018」より社会保障費の抑制のため、介護や医療の利用負担を増やす方針を打ち出しています。しかし国民に負担を強いるのではなく、何故社会保障費が増大しているのか、根本的なところから解決すべきだと私は思います。
私は社会保障費の増大は、単純に「高齢化」・「少子高齢化」だけの問題ではない気がします。一時的な社会保障費の増大はあるにせよ、まず増大の根本的な問題や原因を見直し、国民が住みやすい社会の構築をするのが急務なのではないでしょうか。