近年、介護士が高齢者に暴行を加えるニュースをよく耳にします。先日も横浜で、介護士が入居者の男性を殴り重傷を負わせた事件があったばかりです。事件を起こした介護士は「暴言を吐かれて我慢の限界だった」と供述しています。高齢者介護で一番苦労するのが【認知症】疾患を持った高齢者の介護だと思います。中でも、暴言や暴力をする高齢者は本当に大変です。私も介護の現場にいた時は、殴られたりや罵声を浴びせられた事は多々あり、かなりストレスを溜め込んだ覚えがあります。ですが、認知症高齢者の特性をよく理解をすれば、上手く暴言や暴力を回避することができます。ここでの記事では、暴言や暴力で我慢の限界にならないようにする方法を紹介したいと思います。
目次
まず、認知症介護をする上で「病気だから仕方がない」というある程度の割り切ることが大切です。愛情がないように聞こえますが、介護はストレスを溜めないことが最も重要となります。
ストレスが溜まれば溜まるほど、自然と言葉や態度に出ます。そして、それが相手に伝わり暴言や暴力の原因になります。
ですが、どこかに割り切りの気持ちがあれば、腹立たしい事をされても「しょうがないな」という気持ちになれます。
その気持ちをベースに、次に紹介する暴言や暴力をする認知症高齢者について理解が出来ると意外と上手く行きます。
認知症を患うと感情のコントロールが難しくなります。感情のコントロールが難しくなる原因は、前頭葉の萎縮(能力低下)です。前頭葉は理性を抑える役割でもある器官なので、萎縮すると、すぐに暴言や暴力といった行動に出てしまいます。
よくあるのが「病前は大人しい人だった人が、認知症になったら暴言や暴力をするようになった」というのは、このためです。
「自分が今どこにいて、ここがどこだか分からない」といったように、認知症の悪化で見当識に障害が出ます。
見当識に障害が出ると、自分の名前や今の居場所、日時などが全く分からなくなるため、日常的に不安や混乱状態になります。よくあるのが、自分の家に居るのに【私、帰る】というのは、このためです。
そういった不安や混乱によるストレスが暴言や暴力の原因になります。
認知症の人を勘違いしている例で「認知症だからどうせ分からないでしょ」「何言ってもすぐ忘れるでしょ」といった考え方です。この考え方は大きな間違いです。認知症の人でも、自身の能力低下は自覚しており、自尊心も持っています。
そうした中、【バカにした態度・発言】【攻撃的な態度・発言】【のけ者にする】などの言動をとられれば、誰だって怒ります。
間違った考え方で介護をしていると暴言や暴力の原因になるので、気をつけてください。
認知症の人は、健常者と違って「○○の場所が痛い・気持ち悪い」といったように正確に伝えることが難しいです。
よくあるのが【便秘】です。定期的に排便をしていないと、お腹が張って痛くなります。しかし、認知症の人は痛みの原因が分からないため不安や恐怖といったストレスを感じて、暴言や暴力をしてしまうことがあります。
認知症の人の体調管理(食事内容・薬・排便回数・入浴・バイタル測定・睡眠の質など)は、とても重要になります。
一番よくないのが【暴言・暴力】での対抗です。暴言や暴力をされたら、誰でも「カッ」となると思います。私も「カッ」となる時はありました。
しかし、暴言や暴力で対抗をしてしまうと火に油を注ぐようなもので、相手に「嫌な奴」という悪い印象だけが残り、更に関係が悪化します。そのため、暴言や暴力をされた場合は、次の対応を取ってみてください。
まず、「グッ」と堪えてください。そして、可能な限り距離を取ってください。もし、代われる人がいればその場で交代してもらってください。別の人が話を聞いてあげると落ち着く可能性があります。
もし、距離を置かずに言い争いをしても、相手は「そうだね。ごめんなさい」とはなりません。
相手は、傷つけようとして暴言や暴力をしてるわけではありませんので、一旦距離を置き、冷静になる時間を設けることが大事です。
定期的に専門職に相談することが大事です。1人で塞ぎ込むのは、よくありません。
相談する際は、具体的なアドバイスをもらえるよう言動や状況など詳しく記録しておくことが大事です。
何をおいても、【コミュニケーション】が最も重要となります。しかし、闇雲にコミュニケーションをとっても意味がありません。私は介護を行う上で、次の事を心掛けてコミュニケーションをとっていました。
失敗した時に「なにやってるの!」といった言葉を言いたくなりますが、これは厳禁です。
そこに、追い打ちをかける言葉を言ったり、不快な態度をとると、本人を怒らせてしまうだけです。
認知症の人でも自尊心はありますので、失敗をしても「大丈夫だよ、気にしないで」といった相手を安心させる声掛けが重要となります。
介助者がよくやりがちなのが「(でも)(それは)(だけど)○○でしょ」といった否定です。
おかしな事を言っていると、それらを言いたくなる気持ちは凄く分かりますが、言ってしまうと本人は想像以上に傷つきます。そして「否定された」と強く思い、介助者に不信感を募らせます。
明らかにおかしな事を言ってても「うんうん」「そうだね」と話を合わせることが大切です。
予告なしに何かをされれば、誰でも驚いたり、不快に思います。それは、認知症の人でも一緒です。
例えば、衣類の脱いでもらう時に、何も言わずに衣類を脱がそうとする行為。部屋の掃除をする際に、何も言わずに掃除するなどです。
特に認知症の人は、些細なことでも過敏に反応してしまうので、先手のコミュニケーションがとても重要になります。至極当然の事ですが、何かをする際は「○○をしますからね」と声掛けをし、相手を安心させることが大事です。
いかがでしたでしょうか。
認知症の人の暴言暴力というのは、脳機能の低下から起こります。そのため、病前は温厚な人でも変わってしまいます。しかし、認知症の人が必ず暴言暴力をしてしまうという訳ではありません。日頃の介護者の言動などで大きく変わってきます。
そして、もし暴言暴力をされても、同じように対抗してはいけません。暴言暴力で返しても「仕返しをされた」などと悪い印象を強く与え、今後の共同生活に支障が出てるだけです。
これらの内容は、私の経験が基になってお伝えしていますので、是非参考にしていただければと思います。