刑務所の高齢化問題 刑務所が介護施設状態

現在、わが国の高齢化率は28.4%(2019年9月時点)と統計史上過去最高を記録し、超高齢化社会の真っ只中にいます。周りでは超高齢化社会の影響で【介護士の人材不足】【介護施設不足】などが問題になっており、この問題は今後も続くと言われています。そうした中で、社会とは隔離されている刑務所でも高齢化の問題が起きているのはご存知でしょうか。

世の中も同様、刑務所内また深刻な状況になっています。ここでは、平成30年度版・犯罪白書のデータなどを基に、刑務所の高齢化問題の現状をお伝えしたいと思います。

犯罪を犯す高齢者が増加

冒頭で刑務所の高齢化が進んでいることについて触れましたが、刑務所が高齢化するということは、高齢者が世間で犯罪を犯す率が増えていることになります(無期懲役などで年を重ねた場合もある)。

まず、直近20年間の年齢層別の刑法犯検挙人員および高齢化率と高齢者数の推移を見ていきたいと思います。

刑法犯とは【殺人・強盗・窃盗・放火・脅迫】などの刑法等の法律に規定する犯罪を言います。平成29年の全国の検挙件数は327,066件、検挙率は33.8%。そのうちの高齢者の検挙人員は31,636人ですので、全体の約10%の犯罪は高齢者が犯しているということになります。そして、高齢化率も平成10年と比べて約5倍に増加しており、いかに高齢者による犯罪が増えているのかが分かります。

刑務所の高齢化問題

現在、わが国の刑務所数は2018年時点で68庁あり、概ね5万人近くの受刑者が収監されています。ですが、高齢化率については上記の通りで、全体の人数における高齢者の割合が7%以上であれば高齢化社会になるので、現在の刑務所は間違いなく高齢化問題に直面していると言えます。

では、なぜ刑務所が高齢化しているのでしょうか。そして、高齢化することによってどのような問題が出てきているのかを見ていきたいと思います。

問題1:高齢受刑者の入所が増加

平成10年以降、高齢者の入所数は増加傾向にあり、29年時点で総数が2,278人、10年と比べると約3.3倍も増加しているのが分かります。

平成29年の高齢者の入所受刑者の人口比(10万人当たりの入所受刑者人員)で見てみると、65~69歳が11.5(H10:7.2)、70歳以上になると4.5(H10:1.5)にも上昇しています。

では、一体何を犯して受刑者となるのでしょうか。高齢入所受刑者の主な罪名が下記の通りです。

順位 罪名 65~69歳(件数) 70歳以上(件数)
1位 窃盗 601件 701件
2位 覚せい剤取締法 161件 90件
3位 道路交通法 73件 77件
4位 詐欺 78件 73件
5位 傷害 28件 23件

刑法・特別刑法(その他含めず)を見てみるとさまざまな罪名で入所しているため、その中でも最も多かった罪名を5選紹介しました。

高齢入所受刑者で最も多かった罪状が窃盗という結果になり、年齢が70歳以上の件数が100件も上回っているのが分かります。窃盗が多い背景には、満足に生活ができないのを理由に万引きや置き引きなどで捕まってしまう高齢者が多々いるようです。

問題2:高齢受刑者の刑期が長い

刑期が長ければそれだけ刑務所に長くいることになるため、高齢化率は高くなると言えます。高齢受刑者の刑期の割合については下記のとおりです。

グラフを見れば2年以下が最も多く、次いで1年以下、3年以下と続いています。1年以下は27.5%と全体の4分の1を占めていますが、全体を見るとやや少ない気はします。

さらに、無期懲役の在所期間が延びているのも原因の1つです。2014年に仮釈放とななった無期懲役収囚は7人で、7人の平均在所期間は31.4年。31年も塀の中に入れば、かなり年老いるのは必然です。こうした無期懲役囚達が刑務所内の高齢率を上げています。

問題3:高齢者の再入所率が高い

日本の法律では初犯と再犯との量刑が異なり、再犯の方が量刑が重くなる傾向にあります。そうなると、再犯率が気になるところです。

出所年から時間が経つにつれて、再入所率の割合が高くなっているのが分かります。高齢者の再犯率が高くなれば、新しく入所する高齢受刑者もいるわけですので、刑務所の高齢化率が低下しないのは容易に想像できると思います。

問題4:認知傾向のある受刑者が増加

法務省は、認知症および認知症傾向のある受刑者に対する処遇方針等を検討するために、平成26年12月31日時点の60歳以上の受刑者のうち、認知症傾向のある受刑者の比率や推計人員等を明らかにする調査を実施しました。

調査方法については、60歳以上の受刑者451人(男性408人、女性43人)、平成27年1月20日から同年2月23日までの間に【HDS-R(改定長谷川式認知症スケール)】を実施しました。

調査結果では、調査対象者451人のうち429人が実際に実施され、認知症傾向のがあった者は59人で全体の13.8%でした。さらに、65歳以上に限った場合では、HDS-Rができた者は305人のうち51人が全体の16.7%が認知症傾向にあることが分かりました。

これらの調査結果を基に法務省は、平成27年6月1日時点における65歳以上の在所受刑者6,280人のうち、認知症傾向のある者はおよそ1,100人いると推計しました。また、年齢層別の認知傾向にある受刑者は(推計人数)【65~69歳:328人】【70~74歳:383人】【75~79歳:227人】【80歳以上:114人】となっています。

法務省は、この調査結果を受け平成30年度から各矯正管区の基幹施設に、入所時にはHDS-Rを実施すること決め、認知症が疑われると判定された場合には医師の診察を実施することになっています。

ただ、あくまで刑務所であり老人ホームではないので、人的体制や予算上の制約の中でどこまで認知症(傾向者)の受刑者に対して、治療と処遇対応ができるのかが課題になっています。

刑務所の現状、刑務所が老人ホーム化

徳島刑務所内には、【高齢者専用棟:機能促進センター】があります。ここでは、体の衰えから通常の刑務作業ができない受刑者ばかりを集めており、平均年齢は68.1歳です。

同刑務所は、反社会的勢力や再犯者を中心に刑期が10年以上の受刑者を収容しています。しかし、刑期が長いことから所内で年を重ねるため平均年齢は高くなり、老化の影響で集団生活ができない受刑者が増えたことから、高齢者専用棟(機能促進センター)が2016年12月が開設されました。

同刑務所では全受刑者に占める65歳以上の割合は25.5%(17年末時点)で、直近5年で約6%も上昇したということです。日中の作業内容は、部品の組み立て、やすりがけなどいった簡単な内職ばかりを行っています。

● 寝たきり受刑者もいる

徳島刑務所には1人、寝たきりの92歳の高齢受刑者が収監されており、この受刑者の罪は【殺人・強姦・現住建造物等放火】などで無期懲役として刑に服しています。

寝たきりなので刑務作業は行えず、所内の病棟施設に収監されており、当然自分の事はできないため非常勤の介護専門スタッフが入浴や排泄などの介護をしています。

法務省の方針の元、17年度より非常勤の介護職員が1日3時間程度で配置されることになりました。しかし、土日などで介護職員がいない場合は刑務官が代わりに対応しなければならず、また、急変時は介護職員だけに任せるわけにはいかないため、大幅な負担軽減にはなっていないのが実情です。

こちらに、刑務所がまさに老人ホームになっている状況を表した5分程のアニメがあります。とても、分かりやすいので是非ご覧になってみてください。現在の刑務所がいかに老人ホーム化しているのかが分かります。

※参考資料:REUTERS【焦点:刑務所に高齢化の波、寝たきり介護も 再犯防止が急務】より

刑務所の高齢化を防ぐ対策とは

刑務所の高齢化は、刑務所で働く刑務官への負担にも繋がり、本来するべき役割が行えない場合も出てきます。では、どうしたらよいのか。

高齢者の再入所については、本記事でお伝えした通りです。出所年から経過するごとに再入所率が高くなっています。やはり、そこには高齢で出所しても身寄りがなく、出所しても定職につくことができなかったり、定住先が見つからないことが再犯を犯してしまうということです。

こうした出所後に行き場のない元受刑者を保護する更生保護施設は全国に103か所あり、最大で2,383人の受け入れが可能になっています。ただ、保護期間は最長6カ月、そのうち初めの55日間は無料で食事が提供されますので、この期間中に定職と定住先を見つけられるかが今後の生活の鍵となります。

しかし、元犯罪者ともあれば、いくらお勤めを終えたとは言え、求人を出す側も敬遠します。また、住まいに限っては、元犯罪者ではなくても今の時代孤独死問題もあることから高齢者の入居を拒否する大家は多く、さらに契約の際に現住所が更生保護施設の住所を記入をすると元犯罪者と感づかれ、断られてしまうケースも多々あるということです。

このような環境なため、高齢で出所しても行き場がなく、結局は刑務所に戻ってしまうという訳です。

「じゃ、いっその事、再犯者は刑務所に閉じ込めておけばいいんじゃない?」と思うかもしれませんが、一般的に犯罪捜査から刑務所を出所するまで【裁判費用・食費・刑務所の維持管理費など】1人当たり平均で約1,000万円近くの税金がかかっており、再犯者が増えるということはそれだけ私たちの税金が使われているということになります。

それだけの費用がかかるため、生活保護というセーフティーネットを充実させる仕組みを作ることが国民負担も少なく済み且つ、再犯をした際の被害者も減ることに繋がります。

まとめ

世間ではあまり公にはならない刑務所の高齢化問題。本記事でも紹介しましたが、犯罪捜査から刑務所を出所するまでには私たちの税金がかかっており、再犯率が高いため決してこの問題は人ごとではありません。いかに、元受刑者が再犯をしなくても暮らしていける仕組みが求められています。

※参考資料:法務省 平成30年版 犯罪白書

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