肺炎は、わが国の死因第3位(1位=がん・2位=心疾患)となっている病気です。そもそも肺炎というのは、細菌やウィルスが肺に侵入することで発症しますが、その原因菌で最も多いのが肺炎球菌です。この肺炎球菌というのは、肺炎を引き起こす病原体の中でも特に毒性が強く危険な菌として知られています。
高齢者は、通常時でも免疫力が低いため、そうしたところに風邪を引いただけでも重症化し、肺炎球菌が原因で肺炎になることは珍しくありません。しかし、肺炎球菌ワクチンの予防接種をすることで重症化を防ぐことができます。ここでに記事では、肺炎球菌の怖さと、肺炎球菌のワクチンの必要性についてお伝えしたいと思います。
目次
※引用元:日本呼吸器学会/日本感染症学会
※黄色い円が白血球
通常、体に病原菌が入れば白血球がそれを捕食します。私たちは白血球の働きにより病気にならずに生活が出来ています。しかし、肺炎球菌は通常の最近とは違い、莢膜(きょうまく)という強力なバリアを持ち、白血球に食べられるのを阻止してきます。この莢膜というのが肺炎球菌の極力な武器で、且つ毒性の強い菌にしています。
肺炎球菌は肺以外にも侵入します。侵入したところで発症すると肺炎球菌による合併症を引き起こすため、高齢者の方で特に基礎疾患を持っている方は注意が必要です。
肺炎球菌感染症の種類には大きく分けて3つあります。
・高齢者に多いとされている【誤嚥】が原因とされています。日本人の高齢者の約3~5%に喉や鼻に肺炎球菌は常在しており、食べ物や飲み物、唾液などと一緒に肺炎球菌が誤って気管に入ることで、肺炎球菌性肺炎を引き起こします。
この肺炎は飲み込む力が低下している高齢者に多く、感染すると強い胸の痛みや血が混じった咳をします。咳をするごとに痛みが増強します。
ただ、肺炎の症状は風邪の症状と似ているため、様子見をしていると最悪の場合死に至ることがあります。「辛そう」と判断した際には、直ぐに病院を受診してください。
・日本で毎年1,000人の小児が罹っている病気です。肺炎球菌が原因で発症する確率は20~30%と言われていますが、高齢者もかかります。症状は【風邪に似た症状・発熱・頭痛・全身倦怠感】で、重症化すると後遺症を残すことがあります。
・こちらも小児に起こりやすく、症状は【耳の痛み・鼓膜の奥に膿が溜まる・鼓膜が赤く膨らむ】。
これらの中で高齢者の方は、肺炎球菌性肺炎が最もかかりやすいので誤嚥には注意が必要です。
肺炎球菌(肺炎球菌感染症)に感染しやすい年齢は、5歳以下と65歳以上の高齢者です。
※引用元:(社)日本病理学会より
先ほどでもお伝えしましたが、日本人高齢者の喉や鼻には約3~5%に常在(通常時は悪さをしない)しています。ただ、健康で体力がある状態であれば肺炎球菌感染症を引き起こすことはありません。
しかし、体調不良などが原因で免疫力が低下すると、大人しくしていた肺炎球菌が活動をし始め、重篤な肺炎球菌感染症を引き起こします。さらに【敗血症、副鼻腔炎、中耳炎、気管支炎、髄膜炎など】といった重い合併症を引き起こす場合があります。
こうした重い肺炎や合併症にかからないためにも、高齢者の方は肺炎球菌ワクチンの予防接種が推奨されています。
肺炎球菌ワクチンには【ニューモバックスNP】・【プレベナー13】の2種類があります。ワクチンを作る過程で「元となる細菌からワクチンを作っているから危ないのでは?」と思われがちですが、これらのワクチンは細菌が含まれていないワクチンのため、ワクチン接種をしたことで感染することはありません。
補足として、日本呼吸器学会等ではより高い予防効果を発揮させるために、65歳以上の高齢者の方(過去にいずれもワクチン接種なし)に、プレベナー13を接種後(6~12カ月後)、ニューモバックスNP を接種。
もしくは、過去にニューモバックスNPを接種した方で、ニューモバックスNPを接種後(1年以上空けて)、プレベナー13を接種することを推奨しています。
インフルエンザなどでもそうですが、ワクチンが効く人と効かない人がいますよね。残念ながら、肺炎球菌感染症もワクチンの予防接種を打っても100%罹らないということはありません。また、肺炎球菌による肺炎を減らしたという研究結果はいくつかありましたが、明確な予防効果はまだ示されていないのも事実です。
ただ、予防接種をしたことで発症率や死亡率が低下したという報告もあるので、一定の効果はあると考えても良いと思います。
予防接種にはお金がかかりますが、制度などを利用すれば公費で賄える場合があります。
結合型ワクチン | 多糖体ワクチン | |
---|---|---|
ワクチン名 | プレベナー13 | ニューモバックスNP |
血清型抗原の種類 | ・13価 ・13種類の肺炎球菌の血清型抗原を含む。 ・約60~70%の肺炎球菌をカバーする。 | ・23価 ・23種類の肺炎球菌の血清型抗原含む。 ・約80%の肺炎球菌をカバーする。 |
抗体を作る力 | 強い | 比較的弱い |
公費の有無 | ・公費助成なし ・任意接種 | ・公費助成あり ・一部の疾患に保険適応あり ・定期接種/任意接種 |
費用について | ・保険適応外 10,000~12,000円前後 | ・保険適応外 10,000~12,000円前後 |
再接種 | 不要 | 5年ごとに接種が望ましい |
肺炎球菌ワクチン(23価)の定期接種は、予防接種法に基づき自治体が実施する予防接種です。ただ、いつでもに受けられる訳ではなく、期間や対象者といった条件があります。
●例えば、東京・新宿区であれば・・・
・今年度の場合は、2019年度(令和元年度)の対象者の助成期間は【平成31年(2019年)4月1日~令和2年(2020年)3月31日まで】です。
・令和元年度に【65歳・70歳・75歳・80歳・85歳・90歳・95歳・100歳・101歳以上】になった方、もしくは接種日現在60歳以上65歳未満の高齢移行期の方で【心臓・腎臓・呼吸器・免疫機能に重度の障害(身障手帳1級程度)】のどちらかに該当する方で、過去に肺炎球菌ワクチン(23価)を接種したことが無い方が定期接種として公費助成が受けられます。
・4,000円(生活保護受給世帯は免除)。新宿区では接種費用の半分程度を公費で助成。
補足として、13価のワクチンについては平成26年6月20日付けで、65歳以上の高齢者に対する肺炎球菌感染症の予防の効能・効果が承認されていますが、現時点では定期接種に使用することはできないとのことです。
ここでは新宿区の対応について紹介しましたが、住んでいる地域で若干変わりますのでお住まいの自治体に直接確認すると良いでしょう。
いかがでしたでしょうか。
記事で紹介した通り、高齢になればなるほど免疫力が低下し肺炎球菌に感染するリスクが高まります。
「なぜ、高齢は感染しやすいの?」と思った方に簡単に説明しますと、高齢者になると体力の低下などで免疫の質が下がり、若い頃は数%ほどの免疫で病原菌を対処出来たのが、質の低下により大量に使わなくてはいけなくなります。仮に健康を保つのに80%ほど近い免疫を常時使っているとすれば、新たに入ってくる病原菌に使える免疫は20%しかありません。つまり、高齢者は病原菌と戦う免疫の数が若者より少ないため、強い病原菌が侵入した場合、対抗出来ずやられてしまうのです。
この例えは極端過ぎますが、使える免疫には限りがあり、高齢者は免疫の質が若者より悪くなっています。限りある免疫を有効活用するには、普段から免疫力を下げないよう規則正しい生活をした上で、ここで紹介したワクチン接種を行い、感染リスクを少しでも下げる心がけが必要となります。
※参考文献:日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討 WG 委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会
・厚生労働省・肺炎球菌感染症(高齢者)
・新宿区