12月ともなると朝晩の気温の寒暖差が激しく、空気も乾燥するため高齢者にとっては多くの危険が潜む季節でもあります。では、高齢者にとっての危険とは一体何なのか。ここでは、冬に起こりやすい高齢者の健康トラブルを7つ紹介していきます。
目次
高齢者の免疫力は、60代を迎えると20代の半分程度の免疫力しかないと言われており、年齢が上がるにつれて免疫力の低下が顕著になっていきます。
免疫力の低下の主な原因は、老化による白血球を生み出す数が低下していくためで、さらに寒さという体にかかる負担が重なることで、感染症にかかるリスクを上げてしまいます。
その中でも、特に高齢者が冬にかかりやすい感染症の代表格がインフルエンザです。そして、その合併症からなる肺炎となっています。
インフルエンザとは、インフルエンザウィルスに感染して起こる感染症です。インフルエンザウィルスにはA型、B型、C型、D型の4種類に分けられていますが、主に人間に流行するのはA型とB型です。
主なインフルエンザの症状は、下記の通りです。
・38℃以上の高熱
・咳やのどの痛み
・倦怠感
・食欲不振
・頭痛、関節痛、筋肉痛
感染ルートは、感染した人の咳や、くしゃみからウィルスを吸い込むことで感染する飛沫感染。ドアノブやつり革などについたウィルスに触れることで感染する接触感染です。
インフルエンザは、この飛沫感染と接触感染から主に感染します。
肺炎には主に3つあり、ウィルス性肺炎、細菌性肺炎、非定型肺炎があります。その中でも細菌性肺炎、とりわけインフルエンザの合併症による肺炎が注意が必要です。
ただ、インフルエンザウィルスによって肺炎になるのではなく、インフルエンザに感染したことによる抵抗力の低下で、感染してしまうケースがほとんどです。もちろん、インフルエンザに限らず、風邪をこじらせて肺炎になってしまうのも同じ原因と言えます。
肺炎は最悪死に至ることもあるので、肺炎にならないためにも栄養補給など徹底し、少しでも免疫力を落とさないことが重要になります。
新型コロナウィルスが流行している今では、当たり前に聞かされていることですが、感染症対策の基本は手洗い、うがい、マスクの着用による飛散防止が最も有効となっています。その他で有効の対策は下記の通りです。
● バランスの良い食事 ・栄養状態の悪化は免疫力の低下に繋がるため、バランスの良い食事を基本にしつつ、体を温める食材を摂り入れるとよいでしょう。 ● 十分な睡眠 ・睡眠は疲労回復をするのには最も有効な手段です。疲労が溜まっていると免疫力の低下に繋がるため、十分な睡眠をとりましょう。 ● 湿度管理 ・ウィルスは乾燥した空間が最も活発になります。少しでもウィルスの活動を抑えるためにも、加湿器などを使い、湿度50~60%程度を維持することが重要になります。 |
脱水症状は夏をイメージする人も多いと思いますが、実は冬に脱水症状で倒れてしまう高齢者は多くいます。
冬は夏に比べて空気が乾燥し、寒さから常時暖房をつけているため、空気の乾燥がより進みます。こうした環境下では、体から水分が徐々に失われていきます。加えて、高齢になると喉の渇きが感じづらくなるため、気づかぬうちに脱水症状に陥ります。
脱水症状には、軽度、中度、重度の3つあり、それぞれのサインがあります。
● 軽度 ・唇の乾燥、口の渇き、めまい、吐き気、食欲不振、ふらつきなどです。また、手の甲の皮膚をつまみ、直ぐに戻らない状態、爪を押して色がすぐに戻らない場合も脱水症状が進行しているサインになります。 ・軽度の脱水症状は、自覚症状がほとんどでないため、細かな異変にいち早く気づくことが重要になります。 ● 中度 ・頭痛、嘔吐、尿量減少、イライラ、精神不安定、口腔内の粘つきなどです。中度になると、明らかな体調不良がみられます。すぐに病院受診をしましょう。 ● 重度 ・意識朦朧、痙攣、幻覚、呼吸困難、チアノーゼ、昏睡状態です。命にかかわる危険な状態なため、すぐに119番通報をしてください。 |
水分補給をする水分は、お茶やコーヒーなどの利尿作用のあるものではなく、水もしくはスポーツ飲料、経口補水液を摂取すると良いでしょう。水分をあまり摂りたがらない方であれば、水分量が多い食事や、みずみずしいデザートなどといった口当たりの良い物などで補うのも有効です。
冬の時期になると、肩や腰、ひざなどの関節が痛くなる高齢者は多くいます。なぜ、冬になると関節痛の痛みが顕著に現れるか。主な原因は血行不良と考えられています。
人間の体は寒さを感じると血管の収縮を行いますが、収縮することで血流が悪くなります。血流が悪くなると、酸素や栄養素などの循環が滞り、体に老廃物が徐々に溜まっていきます。
その状態が長く続くと筋肉が固まっていくので、いつも以上に肩や腰、ひざなどの関節を動かす必要が出てきます。そして、その負担に耐えきれず痛みが出てきます。それが、冬の関節痛の原因です。
特に高齢者の場合は若い人よりも血流が悪く、筋肉量も少ないため、より顕著に現れてしまいます。
関節痛を和らげる対策としては、体を温かくし、無理のない範囲でストレッチをするとよいとされています。ストレッチをすることで血管が拡張し、血流が良好になっていきます。ただし、関節痛がひどい時にそれらの方法を行うと、かえって悪化する可能性がありますので、その際は早めに病院受診することをおすすめします。
ヒートショックは、寒暖差が原因で急激に血圧が変動したことで、脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくする現象のことを指します。ヒートショックが起きやすいシチュエーションとしては、入浴時や暖かい部屋から寒い部屋への移動などでよく起こります。
特に冬の高齢者の入浴事故は多くなる傾向にあり、平成26年に厚生労働省が実施した人口動態統計によりますと、家庭の浴槽での溺死者数が4,866人。そのうちの約9割が65歳以上の高齢者で、とりわけ75歳以上の高齢者による浴槽での溺死が増えています。
ヒートショックの対策は、空間ごとの寒暖差を無くすことが重要になります。
よく起こる場所で言えば、廊下、トイレ、洗面所、脱衣所、浴室などの場所です。これらの場所には、ヒーターを設置したり、簡易的な暖房器具を使うことで回避ができます。
浴室内では、入浴前に浴室の壁や床などにお湯をかけて温めて入ることで、ヒートショックを防ぐことができます。
加齢とともに新陳代謝が低下するため、皮脂分泌の減少や皮膚の弾力性の低下、皮膚が薄くなったりなどの影響で、乾燥しやすい体質になっていきます。
そして、高齢者でよく聞かれるのは、皮脂分泌や汗の分泌の減少で痒みがでる老人性乾皮症です。老人性乾皮症は、皮膚に白いふけのようなものが現れ、痒みが生じる皮膚病の一種です。特に冬場は、湿度が低下するため夏場よりこういった症状が顕著に現れるので注意が必要です。
こういった痒みから皮膚を強く何度もかき、皮膚を傷つけてしまいます。場合によっては皮膚がベロっと剥けるまでかく人もいます。そこから、ばい菌が入り感染症にかかるといった悪循環に陥ることもありますので、たかが乾燥と侮ってはいけません。
痒みから夜が眠れなくなる場合もあるので、乾燥する冬の時期は保湿し、肌を乾燥させないことが重要になります。
冬場は寒いので熱いお風呂に入りたくなると思います。しかし、熱い湯に浸かると皮脂が急速に溶け、かえって乾燥してしまいます。そのため、37℃ほどのお湯に設定し、長時間の入浴や頻回な入浴は避けた方が良いです。
洗体をする時もゴシゴシと擦ってしまうと、皮脂を根こそぎ取り除いてしまうので軽く擦る程度にしましょう。
乾燥対策として、一番有効なのは保湿剤を塗ることです。上記で触れた老人性乾皮症にも有効です。
保湿剤は、ドラックストアなどで市販で売られているものでも十分効果があります。選ぶポイントとしては、本人に合うもので良いですが、少量でよく伸びるクリーム系の保湿剤がおすすめです。
冬場になると、湯たんぽや温風ヒーター、ストーブ、電気こたつといった暖房器具を長時間使う人もいると思います。ですが、こういった暖房器具の長時間の使用で低温やけどになる高齢者は多くいます。
低温やけどは文字通り低温なので、高温の熱源を触ったような熱さを感じないため気づきづらく、じっくりと時間をかけて皮膚の奥までやけどが進行していきます。
分かりやすい表現で言えば、肉の調理です。高温で焼くと表面がこんがり焼けると思います。この状態を人に例えると「あちっ」という反応です。対して、低温でお肉を焼くと、表面だけでなく中までゆっくりと火が通っていきます。低温の温かさなので「あちっ」と高温のようにはならないため、気づかずに進行していきます。
低温やけどと聞くと、あまり大したことはないように聞こえますが、低温やけどは皮膚の奥深くまでやけどをしてしまうため、治りにくく、最悪壊死してしまう恐ろしいやけどです。
特に糖尿病や麻痺など感覚機能が低下している高齢者の方は重症化しやすいので、冬の暖房器具の使用には十分注意をしてください。
暖房器具から近い場所での長時間の使用を控えることが最大の予防策になります。低温やけどの発症の目安は、下記の通りです。
● 42℃・・・6時間
● 44℃・・・3~4時間
● 46℃・・・30分~1時間半
● 50℃・・・3分
● 60℃・・・1分
※一部参考:奈良医師会より
あくまで目安であり、それらの温度および時間以下なら絶対に低温やけどをしないという訳ではありません。低温やけどの予防は、熱源に触れている時間を少なくすることが重要になります。
冬場になると発症する冬季うつ病。季節性のうつ病の一種で、比較的若い女性に多いとされていますが高齢者の人も注意が必要です。特に認知症の高齢者が冬季うつ病になると、認知症が悪化すると言われています。
原因はさまざまありますが、一般的には日照時間が深く関係しています。日照時間は夏場より冬場の方が短くなるため、メラミンと言われるホルモン分泌が低下することで起こるとされています。さらに、高齢になると外に出る機会も減るため、ホルモン分泌の低下はますます顕著になります。そのため、冬季うつ病の主な予防は、日を浴びる時間を極力長くすることが重要になります。
冬季うつ病の主な症状は、過食、体重増加、過眠と典型的なうつ病とは異なる症状が多いのが特徴です。秋口から春先までこういった症状が2年以上続く場合は、病院受診をおすすめします。
いかがでしたでしょうか。
冬は高齢者にとって危険な病気や事故が多発します。私が高齢者施設や在宅介護をしていた時は、ここで紹介した健康トラブルはよく起きていました。ただ、これらの健康トラブルは未然に防ぐことができるものばかりですので、これらのトラブルには十分注意して冬を乗り切ってもらえたらと思います。