わが国の要介護者・要支援者の数は年々増加し、厚労省の介護保険事業状況報告の概要(令和元年5月暫定版)によると、全国で659万8000人いることが分かっています。うち男性が207.5万人、女性が452.4万人です。さらに、居宅(予防)介護サービスを受けている人は376.5万人、施設サービスを受けている人は94.8万人います。
わが国では日々高齢化が進んでいるため、今後もこの数値は増加していくと考えられています。そんな中、生活の支援が必要な高齢者が増えることに比例して虐待する介護者も増加しているのはご存知でしょうか。
ここでの記事では、平成30年度の高齢者の虐待件数についてグラフを交えながらお伝えしたいと思います。
※本記事の参考:厚労省
目次
厚労省が平成30年度に実施した【高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律】に基づく対応状況等に関する調査結果をお伝えします。調査対象については、全国47都道府県、1,741市町村(特別区含む)。
調査方法は、平成30年度中に相談・通報があった事例や、平成29年度以前に相談・通報があった事例ののち、平成30年度中に事実確認や対応を行ったケースになっています。
養護者と要介護施設従事者等から虐待が認められた件数についてお伝えします。
養護者による虐待 | 虐待判断件数 | 相談・通報件数 |
---|---|---|
平成30年度 | 17,249件 | 32,231件 |
平成29年度 | 17,078件 | 30,040件 |
増減件数 | 171件 (1.0%) | 2,191件 (7.3%) |
要介護施設従事者等による虐待 | 虐待判断件数 | 相談・通報件数 |
---|---|---|
平成30年度 | 621件 | 2,187件 |
平成29年度 | 510件 | 1,898件 |
増減件数 | 111件 (21.8%) | 289件 (15.2%) |
養護者というのは、高齢者の介護をしている家族や親せき、同居人などを指します。要介護施設従事者等とは、介護施設はもちろんのこと、居宅サービス(訪問介護・看護、ディサービスなど)の業務に従事している者も含みます。
相談・通報者については【当該施設職員:21.6%】で最も多く、次いで【家族・親族:19.7%】でした。
虐待の事実が認められた施設で最も多かったのが【特別養護老人ホーム:34.9%】、次いで【有料老人ホーム:23.0%】、【グループホーム:14.2%】、【介護老人保健施設:8.1%】となっています。
上記の%は、特定された被虐待高齢者の人数は927人(男性:239人・女性:688人)です。うち、21.9%の人が身体拘束(身体的虐待)があったと報告されています。
身体的虐待を受けた人の要介護レベルでは、【要介護5:65.6%】【要介護4:62.1%】【要介護3:57.6%】【要介護2:50.8%】【要介護1:40.7%】で状態が悪いレベルの人ほど身体的虐待を受ける割合が多いことが分かりました。
要介護施設従事者による虐待および相談通報件数の増加について、18年度から30年度の12年間で約10倍に膨れ上がっています。
虐待判断件数が少ない理由としては、相談・通報なので『事実確認のための調査中(虐待判断までの期間が中央値が35日)』『調査をしたが判断できなかった』『誤報』などといった理由があると考えられます。
相談通報と虐待の判断件数の開きでいえば、平成30年度は3.5倍の乖離があります。要介護施設、いわゆる施設(老人ホームなど)というのは要介護者からの立場からすれば最後の砦です。これは私個人の見解ですが、虐待に関する相談・通報は、平穏無事ではないから発生するわけで、虐待の判断件数と3.5倍の乖離が出来ているのは異常だと言えるかもしれません。誤報もあるでしょうが、基本的には【火のない所に煙は立たぬ】です。
上記の要介護施設従事者との件数の桁が違うのは絶対総数の違いです。冒頭でお伝えしたように、令和元年10月時点で居宅サービス(家で受けるサービス)を受けている人は376万5,000人。対して、施設サービスを受けている人は94万8,000人と約4倍の差があります。そのため、居宅と施設の虐待等の件数に大きな違いが生じます。
相談・通報者は34,867人のうち【ケアマネジャー:28.4%】が最も多く、次いで【警察:24.7%】、【家族・親族:8.4%】。
相談・通報者についてケアマネジャーが多い理由としては、介護サービスを受けるためにはケアマネジャーを自分の担当にする必要があります(自分で全てやる人は別)。そのため、家庭内に専門職が介入するため、不審な点があれば見抜かれやすくなります。そうした理由からケアマネジャーが最も多いと考えられます。
居宅でも身体的虐待は断トツに多いのが分かります。ただ、居宅と施設の経済的虐待の割合を比べると居宅での経済的虐待が約3.1倍に増加。増加の理由としては、居宅は施設とは違い、財産を動かすことが容易に出来るためだと考えられます。仮に金銭要求などを断れば、身体的虐待のリスクが高まるのも理由の1つですね。
居宅内で虐待が起きてしまう状況として、【虐待者のみと同居:50.9%】が最も多く、【虐待者よび家族と同居:36.1%】となっており、8割以上が虐待者と同居していることが分かりました。次に、虐待をしていた続柄です。
※総数:18.740人
虐待者の年齢について【50~59歳:24.8%】【40~49歳:17.3%】【60~69歳:16.4%】【70~79歳:15.4%】となっています。
いかがでしたでしょうか。
ここでは平成30年度(2017年4月~18年3月末)までの高齢者の虐待件数等についてお伝えしました。グラフを見る限り虐待件数は、年々増加しているのが分かると思います。高齢化の影響で虐待件数も増加していくのは間違いないと思いますが、これらのデータは氷山の一角と考えてよいでしょう。
特に居宅に関しては、閉鎖的な空間なためケアマネジャーといえ容易に虐待を発見することは困難です。
また、家族だけで介護をしている家庭や、最低限のサービスしか受けないという家庭も多くいるため、潜在的な虐待はまだまだあることは覚えておいてください。