認知症高齢者の金銭管理 トラブル事例と制度を紹介

今のわが国の多くは、子が親を介護するという家庭は少なくなってきています。私が在宅のケアマネジャーをしていた時、担当利用者の7割程は子と離れて暮らしていました。その中には、認知症(軽度含む)の人もいて、特に金銭管理が大変だったのを覚えてます。ここでの記事では、離れて暮らす認知症高齢者の金銭管理についてお話していきたいと思います。

日本の認知症患者数は?

2015年1月、厚生労働省は日本の認知症患者数は「462万人(2012年時点)」と発表しました。これは、65歳以上の高齢者の約7人に1人とされています。

さらに、認知症の前段階「軽度認知障害」と推計される約400万人を合わせると、高齢者の約4人に1人が認知症もしくは予備軍となります。

今後、さらに高齢化が進展していく中で、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症患者数は700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人になる見込みと言われています。

認知症高齢者の金銭トラブル事例

私がケアマネジャーをやっていた時、初回訪問で必ず(詳しく)聞いていたのが金銭管理です。金銭事情は、家庭の内情中の内情なので、後ろめたい気持ちもありましたが、生活を把握する上で絶対お金の流れは確認しておく必要がありました。その中で、多かった金銭トラブルについて紹介したいと思います。

高額商品の購入をしてしまう

認知症を患うと、判断力や欲求をコントロールする前頭葉が萎縮していくので、衝動買いが増える傾向にあります(個人差有り)。例えば、テレビショッピングを観ると直ぐに買いたくなり電話をする、車を購入してしまった、訪問販売の契約をすぐにしてしまう、といった感じです。これらは実際にありました。

また、認知症と認めたくないばかりに「自分の意志で購入したんだから文句ないだろ」と返品などをしたがらない人もいます。

年金支給日に生活費をすべておろす

高齢者の多くはお金がないと不安といった方が多く、月の生活費を一気に引き出してしまうこともあるので、注意が必要です。さらに、お金を引き出したことを忘れ「誰かが私のお金を引き出した」から「子ども、ヘルパーなどが引き出した」といった悪い方に進展することもよくあるので、気を付けなければなりません。

基本的に認知症の人は「○○をするためには、○○しなければならない」といった計画を立てることが難しくなります。ちなみに、認知症の人が料理ができなくなるのもその1つです。

お金をあるだけ使い込む

お金を持ったら、思いついただけ物を買うといったケースもあります。私が担当した中で食材を買い込むといった人がいました。本人に理由を聞くと「食べたかったから」「買い物が好きだから」「私が生まれたのは戦時中で、食べ物が無い時代だった。だから常に補充したい」などと話していました。

しかし、冷蔵庫見ると、食材を入れる隙間もないくらい入っており、冷蔵庫の奥に腐った食材も山ほどありました。

これも認知症特有の計画性と判断力の低下、欲求のコントロール力の低下による影響です。

詐欺や悪徳商法に引っ掛かりやすい

これは、今でも社会問題になっていますが、やはり高齢者を狙った犯罪は後が経ちません。高齢者を狙う詐欺や悪徳商法は、高齢者の「不安」「孤独」「健康」などにつけ込みます。

そして、上記でも出した生活費を全て下ろしてしまう人であれば、特に危険なので注意が必要です。

金銭管理のコツ

上述した金銭トラブルを見ると「家族が管理した方がいいんじゃないの?」と思うかもしれません。確かに間違いではないですし、できれば「そうしたい」ですが、意外となかなか上手く行かないことが多いです。

まず、自分に照らし合わせてみてください。自分のお金を誰かに全て管理されるのは嫌だと思います。「使いたい時に使えない」「欲しいものが思った時に買えない」、引き出す時に「何に使うの?」と言われ煩わしい。

実はそれは、認知症を患っている高齢者も一緒なのです。しかし、本人の意向を100%尊重するとトラブルに巻き込まれる可能性があるので、上手にコントロール(管理)していく必要があります。そうした中で、私が実際に行った方法について紹介したいと思います。

生活費用の口座を開設させておく

いわゆる、お小遣い口座です。すべてのお金を管理すると「私のお金だぞ!」などと反発する場合がありますので、ある程度のお金は家族が管理し、残りを本人に管理してもらうといったやり方です。

この話の切り出し方でよく使った文言は「詐欺被害が多いので、口座を複数を持っておくと安心ですよ」「固定生活費(水道光熱費、家賃など)引き出す専用の口座を持っておきましょう。管理もしやすいので」などといった「安全・便利」を謳い説得してました。ちょっと詐欺みたいですが。

お小遣い口座には、数万円を入れ、残りは家族が管理すれば、無用な出費や詐欺被害などの対策になります。

大きな出費をする時は連絡してもらう

必ず成功する方法ではないですが、例えば「1万円以上の物を買う際は、家族に連絡する」という取り決めを本人としておきます。さらに、忘れないように、取り決めた約束事項のメモを財布の中に入れ、至る所に部屋の目につく場所に貼っておくことが大事です。

制度や金銭管理サービスの利用

家族間で管理を行うことが出来ない場合は、制度や金銭管理サービスに頼るのも一つの手です。

成年後見制度の利用

成年後見制度とは、判断能力が不十分なため契約等の法律行為が難しい人を親族や弁護士、司法書士、行政書士などの専門職などが後見人となり、代理で必要な契約等を締結したり、財産を管理し「本人を保護する事を目的とした制度」です。

また、成年後見制度に「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに分けられています。詳しくは、こちらの記事にも記載していますので、ご覧ください。
●「 成年後見制度とは?【解説付き】

社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」

認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方が地域や自宅で自立した生活が送れるよう、本人との契約に基づき、福祉サービスの利用援助等を行うものです。

このサービスは、有料にはなりますが、おおむね訪問1回につき平均1,200円程度で、年金や預貯金の通帳等の保管や各種支払いや契約行為、預貯金の出し入れ等が受けられます

詳しい内容・相談については、お住まいの市区町村の社会福祉協議会に連絡、もしくは担当ケアマネジャーに相談することをお勧めします。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
正直なところ、認知症の程度によって対応策が全然変わってきます。そして、私が紹介したことが絶対当てはまるとも限りません。何故なら、認知症の症状には個人差があり、本人の性格も加味するからです。

ですが、「こんな対応策もあるんだな~」といった予備知識があるのと、全く知らないとでは全然違いますので、ここでの記事を参考に、本人と家族とで金銭管理の計画を立ててもらえたらと思います。

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