振り込め詐欺などの特殊詐欺の手口は、年々巧妙になり、高齢者の預貯金を狙う犯罪集団は水面下で力を蓄え、昨今では特別定額給付金詐欺といった卑劣な詐欺まで登場し始めた次第です。ただ、こうした事態になっても詐欺が根絶しないのは、末端ばかりが逮捕され、大元が逮捕されないことにあります。
よくニュースで「20代の受け子役が逮捕されました」と報道されていますが、特殊詐欺の大元が逮捕されたという報道はあまり耳にしません。受け子役が捕まってもトカゲのしっぽ切りのように切り捨てられるため、詐欺の根絶が出来ないのはそのためです。では、我々はどうしたらよいのか。それは、騙されないために特殊詐欺を知ることが重要になります。詐欺の種類や手口などの知識を身につけることで、詐欺被害を未然に防ぐことができます。高齢者の方およびそのご家族の方も、ここでの記事を参考に知識を深めて犯罪対策に役立ててください。
目次
まず、昨年の特殊詐欺の被害件数(全年齢)から見ていきたいと思います。どのくらいの被害が出ているのかでその深刻さを理解していただけると思います。
警察庁が公表しているデータによりますと、令和元年の特殊詐欺の認知件数は16,851件(前年比-993件、-5.6%)、被害額は315.8億円(前年比-67.0億円、-17.5%)となっています。平成22年から令和元年までの特殊詐欺の認知件数および被害額の推移が下記の通りです。
※引用:警察庁【令和元年における特殊詐欺認知・検挙状況等について(確定値版)】より
※被害額単位:億円
双方共に減少傾向ではありますが、依然として高水準の認知件数と被害額であることは間違いありません。また、特殊詐欺の被害は大都市圏に集中しており、中でも東京(3,815件)、神奈川(2,793件)、大阪(1,809件)、埼玉(1,459件)、千葉(1,409件)と続き、5都府県だけで認知件数全体に占める割合が67.0%にも達します。したがって、大都市圏に住んでいる方および高齢者の人ほど、特に注意が必要です。
これまで特殊詐欺とお伝えしてきましたが、特殊詐欺はさまざまな詐欺をまとめた総称のことを言います。さらに、振り込め詐欺という言葉を聞きますが、振り込め詐欺とはオレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺の総称のことを指します。ここでは警察庁が公表している特殊詐欺の種類について紹介します。
名前の通り「俺、俺」と電話をかけてくることからオレオレ詐欺と呼ばれるようになりました。
オレオレ詐欺の主な手口としては・・・
オレオレ詐欺は、親族が起こした事件や事故に対して、金銭をだまし取る(脅し取る)手口です。
また、親族以外にも警察官や弁護士等にも成りすましたり、それら複数人も登場し巧みに電話をしてくる劇場型というオレオレ詐欺もあります。
例えば、ある日突然、犯人が某有名な百貨店を名乗り「クレジットカードを使用しましたか?」と電話をかけ、被害者は「いいえ」と答えます。すると、犯人は「先日、○○であなたのクレジットカードが不正に利用された可能性があります。こちらで警察に通報いたしますので、この後警察の方から電話があると思いますので出てください」といった感じに登場人物が複数人出てくる手口が劇場型詐欺です。
そして、言葉巧みに信用させATMに誘導し、現金を振り込ませようとしてきます。
ある日突然、自宅に身に覚えのない高額な架空請求が郵便やインターネットを介して送られてきます。請求書やサイトには問い合わせ電話番号が記載されており、そこに電話をした高齢者等を巧みな話術で不安を煽り、高額な請求金額を振り込ませようとしてきます。
最近では、民事訴訟最終通告書といった訴訟を煽るハガキを送り、示談金や取り下げ金などの名目で不当にお金を振り込ませる詐欺もあります。
預貯金詐欺(キャッシュカード手交型含む)とは、警察、金融庁、銀行員、大手百貨店等の職員を装い「キャッシュカードが不正に使われている」「詐欺集団があなたの個人情報を知っている。安全のためにキャッシュカードを一時的に預からせてもらいます」などの理由で、現金やキャッシュカードを直接自宅に受け取りに来るのが【現金受取型】です。
預貯金詐欺に似ているのが、キャッシュカード詐欺盗(キャッシュカードすり替え)です。警察や金融庁、銀行職員、大手百貨店等の職員を装い「キャッシュカードが不正に使用されているので、確認するためにご自宅にお伺いします。キャッシュカードと暗証番号のメモを用意しておいてください」などと嘘を言い、自宅まで訪問してきます。
ここまでは預貯金詐欺と同じです。キャッシュカード詐欺盗は、訪問後、被害者の隙を狙って、予め用意していた偽物のキャッシュカードとすり替える手口です。
すり替える理由としては、細工をせずに持って帰ると「いつ返してもらえるのか?」といった疑問から、名乗っていた本当の機関に電話をし確かめられると比較的早く発覚してしまう可能性が高いからです。しかし、すり替えることで預貯金を使わない限りは確認しないので発覚を遅延させることができます。
※預貯金詐欺・キャッシュカード詐欺盗の具体的な手口の動画は下記で紹介しています。
税務署や市役所、社会保険事務所を名乗り、電話で「税金や保険料の還付金が受けられる」と言ってきます。しかし、還付金を受け取るためには「先に手数料を振り込む必要がある」といって指定口座に現金を振り込ませる詐欺です。
最近では、特別定額給付金を語った詐欺も多発しています。いずれにせよ公的機関がATMの操作を電話でお願いすることは一切なく、手数料を取ることもありませんので、絶対に騙されないようにしてください。
融資しないにも関わらず、融資する旨の文書などを送りつけ、融資を申し込んできた者に対し、保証金などの名目として現金を預貯金口座等に振り込ませるなどの詐欺です。
「融資を行うためには保証金が必要です。確認でき次第、融資します」と語り、指定の口座に振り込ませるといった流れです。また、最近では宅配サービスを使って指定の場所に送付させる手口も多発していますので注意が必要です。
架空もしくは価値がほぼない【未公開株、社債等の有価証券、外国通貨、金、老人ホーム等の施設入居権利】等に関する虚偽の情報をパンフレットやダイレクトメールなどで送ってきます。それらを介して問い合わせをしてきた高齢者などに「購入すれば利益が得られる」「得する」などと信用させ、購入名目等で金銭をだまし取る(脅し取る)詐欺です。
他にも、名義貸し詐欺もあり「パンフレットが送られてきた人しか買えないので、名義を貸してほしい」などの名義貸しを持ち掛けてきます。
その話の後に、弁護士などを名乗る者から「名義貸しは法律違反で逮捕される」などと電話がかかってきます。犯人は「お金を振り込んでくれたら逮捕されないようにする」などと言って不安を煽り、金銭をだまし取る手口がありますので注意が必要です。
最近では、震災などの復興支援を語り、被災者の受け入れ先として老人ホームの入所権を譲ってほしいと名義貸しの手口がありますので注意が必要です。
不特定多数の者が購入する雑誌やインターネットサイトに「パチンコ・競馬の必勝法」などといった情報を掲載したり、それらの内容をメールで送信し、申し込んできた高齢者等に会員登録料や情報料等の名目で高額な金銭等をだまし取る手口です。
「○○をすれば必ず勝てる」といった情報はまずありませんし、必ず勝ててしまうのであればギャンブルをやる人全員がやっていると思います。世の中、そんなに甘くありません。
不特定多数の者が購入する雑誌やインターネットサイト等に「素敵な出会い」「女性を紹介」「シニアの婚活応援」等という文言で掲載もしくは、それらの内容のメールを送信し、申し込んできた者に対して会員登録料金や保証金等をの名目で高額な金銭等をだまし取る手口です。
「交際あっせん詐欺は若い人が引っかかるのでは?」と思うかもしれませんが、令和元年(1~12月)で交際あっせん詐欺の被害に遭った高齢者は、特殊被害全体に占める割合の12.5%おり、男性のみが被害に遭っています。
特殊詐欺の種類と概要をお伝えしましたが、その中でも最も多い特殊詐欺は何なのか?
下記に、令和元年に認知されている詐欺の多い順に記載しましたのでご覧ください。捕捉として、被害認知件数については高齢者だけの件数ではありません。
種類 | 被害認知件数 | 高齢者被害の割合 |
---|---|---|
オレオレ詐欺 | 6,725件 | 97.5% |
キャッシュカード詐欺盗 | 3,777件 | 94.0% |
架空請求詐欺 | 3,533件 | 56.5% |
還付金等詐欺 | 2,375件 | 78.7% |
ギャンブル詐欺 | 48件 | 27.1% |
金融商品詐欺 | 27件 | 81.5% |
交際あっせん詐欺 | 8件 | 12.5% |
平成31年1月から令和元年12月までで最も多かった特殊詐欺は、オレオレ詐欺です。認知件数は、6,725件(前年比-2,420、-26.5%)、被害額は117.6億円(前年比-71.3億円、-37.7%)。前年比と比較すると減少傾向にはありますが、特殊詐欺全体の認知件数に占める割合は39.9%と約4割にも上ります。
次いで多かったのがキャッシュカード詐欺盗で3,777件(前年比+2,429件、+180.2%)、被害額59.1億円(前年比+40.2億円、+212.2%)です。オレオレ詐欺とは対照的に大幅に増加しており、特殊詐欺全体の認知件数に占める割合が22.4%となっています。
特殊詐欺の被害者の年齢および性別では【60~69歳の男性4.3%、女性が8.1%】、【70歳以上の男性15.8%、女性60.3%】と70歳以上の女性が断トツに多いことが分かります。また、特殊詐欺の被害者全体の割合で見てみると、65歳以上の高齢者だけで88.5%に上っており、いかに高齢者が特殊詐欺の被害に遭っているのかが分かります。
現在(令和2年7月2日現在)、警察庁によりますと最も多発している特殊詐欺が【預貯金詐欺】と【キャッシュカード詐欺盗】が多発していると警告しています。では、どのような手口なのか、警察庁が公開している手口を元に具体的に見ていきたいと思います。
警察官や銀行員、金融庁職員などを装い電話をかけてきます。そして、犯人は「特殊詐欺の犯人を逮捕したところ、あなたの口座が悪用されていました」、「キャッシュカードが不正に使用されています」などの内容で、被害者を動揺させてきます。
● 具体的な手口
★不安になっていることを確認したら、被害者に対して下記のような言葉を言ってきます。
・「捜査をするために、あなたのキャッシュカードが必要です。これから取りに伺いますので、キャッシュカードと暗証番号のメモをご用意しておいてください」
・「キャッシュカードの利用停止手続きをしなくてはなりません。私らの方で利用停止しますのでキャッシュカードを取りに伺います」
・「新しいキャッシュカードに変更する必要があります。今から銀行員があなたの自宅に取りに伺います。」
・「手続きに暗証番号も必要なので、暗証番号を教えてください。のちにキャッシュカードも取りに伺います。」
★自宅に、警察官や銀行関係者などを名乗り訪問してきます。
キャッシュカード等を渡してしまった後は、その足で銀行ATMやコンビニエンスストアのATMを操作し現金を引き出します。また、受け取った者とは別の者にキャッシュカード等を渡し現金を引き出す場合もあります(※受け子から出し子へバトンタッチ)。
最近では、市役所や総務省などの職員を語り【特別定額給付金の件】で電話をしてくる犯罪集団もいます。しかし、公的機関が給付などのために手数料を求めたり、個人情報の開示を直接求めることはありませんのでご注意ください。
キャッシュカード詐欺盗の手口は、途中までは預貯金詐欺とほぼ同じ流れです。警察官や銀行行員、金融庁職員などを装い電話をかけてきます。次では、大阪府警が公開している手口を元に紹介したいと思います。
● 具体的な手口
・被害者:「えっ!でも、キャッシュカードは手元にありますけど…。」
・犯人A :「不正に利用されないために【保護申請】が必要となります。保護申請するため、これから金融庁の職員を自宅に向かわせますので、お手元にキャッシュカードとキャッシュカードの暗証番号のメモを用意しておいてください。」
※注【保護申請する】【向かわせる】等と言い、被害者を安心させます。
・被害者:「わかりました。用意しておきます。」
数分後に被害者玄関で・・・。
・犯人B: 「金融庁の●●です。警察の依頼でキャッシュカードを保護いたしますので、この封筒の中にキャッシュカードと暗証番号を書いた紙を入れて下さい」「封をするので、印鑑も必要になります。」
被害者 :「わかりました。では、印鑑を取ってきますので少しお待ちください」
※注:被害者が印鑑を取りに室内に行った隙に、あらかじめ用意しておいた価値のないポイントカード等を入れた封筒とすり替えます。
犯人B:「印鑑を押してもらったので、キャッシュカードの保護ができました。〇〇日までは絶対に封筒を開けないで下さいね。」
※注:犯行の発覚を遅らせることで、確実に現金を引き出すために「〇〇日まで封筒を開けないで」等と言います。
被害者 :「ありがとうございます。分かりました。(キャッシュカードが入った封筒も手渡してもらったし、これで安心。後は○○日まで封筒を開けなければいいだけね。)」
ここで注意する点は2つあり、まず1つ目は本物のキャッシュカードから目を離している隙にニセモノとすり替えられてしまう点。2つ目は、ニセモノの発覚を遅らせるために数日間は封筒を開けないよう指示をしてくる点です。警察、金融機関がキャッシュカード等を封筒に入れさせること、預かることなどはしませんので気をつけてください。
本記事も記載している通り、犯罪集団は主に高齢者を狙ってきます。犯罪集団が高齢者を狙う理由としては以下の点が挙げられます。
・【認知機能で判断力が低下している】
・【情報脆弱の人が多い(最新の詐欺情報を手に入れていない)】
・【日中、家に1人でいることが多く、判断力のある現役世代は外出していることが多い】
・【1人暮らしをしている高齢者が多い】
・【比較的、お金を持っている(と思われている)】
これらの点で狙われるということをよく理解しておいてください。
次は具体的な対策ですが、令和元年で一番多い特殊詐欺の被害は【オレオレ詐欺】、【キャッシュカード詐欺盗】、【架空請求詐欺】、【還付金詐欺】です。それらの詐欺を実行するために犯罪集団が高齢者に接触する主な方法は、電話かメール、書類(ハガキ・請求書など)です。
つまり、これらの接触方法に注意すれば詐欺に遭うことが避けられます。
オレオレ詐欺といった振り込め詐欺は電話で接触してくることがほとんどです。となると、当たり前ですが不審な電話に出ないことが一番有効な対策になります。
そうは言っても「本当に私宛の電話かもしれないから、出ないわけにはいかない」、「不審な電話の見極め方が分からない」と思う方もいるでしょう。そうした問題に有効なのが【迷惑電話防止機能】が備わっている電話機に取り替えることで解決します。
迷惑電話防止機能が備わっている大体の電話機には、ディスプレイ(画面)が付いてます。電話が鳴った瞬間、そのディスプレイに相手の電話番号(見知らぬ番号)や登録した電話番号、非通知といった情報が表示されます。
見知らぬ番号からかかってきたら電話に出なければ良いだけですので、それだけで振り込め詐欺からの被害を防ぐことができます。
ただ、登録していた人の電話番号が変わる場合があるので、常に留守番電話にしておくと良いでしょう。
メールや書類を送りつけてくるケースもあります。しかし、知らない人からのメールや身に覚えのない書類などは無視するのが一番です。
しかし、最近では、民事訴訟のハガキを送りつけてくるケースもあります。訴訟と聞くとびっくりするとは思いますが、それも身に覚えがなければ無視です。もしくは、警察や弁護士などに相談すると良いでしょう。
特殊詐欺対策の基本は、一人で解決しないことです。犯罪集団は、あなたの不安を煽り、動揺させて判断力を奪ったところで一気に畳みかけてきます。
いかなる時でも不安を感じた場合は、まずは親族や友人、警察などに必ず連絡してください。誰にも相談せずに一人で行動するのだけは絶対に避けてください。
特殊詐欺から身を守るためには、詐欺の内容、被害件数の推移、最新の手口を知るところから始まります。それは何故か?本記事でもお伝えしたように、犯罪集団は被害者の不安を煽り動揺させて判断力を奪ってきます。
しかし、事前に詐欺の情報や手口が分かっていれば「あ、これは詐欺だ」と冷静な判断ができると思います。
話は少し反れますが、もしあなたが野球監督だとします。勝負に勝つためにはあなたはまず何をしますか?選手の育成?用具を最新鋭に揃える?もちろん、それも大事なことです。ですがその前に、対戦相手を知るところから始めませんか?どんな球を投げてくる投手なのか、どんなバッティングをする野手なのか。
恐らく、多くの監督は試合前に相手の情報を集め、勝つための準備をすると思います。実は特殊詐欺も同じことなのです。
どのような詐欺の種類が流行っているのか(対戦相手はどんなチームなのか)。その詐欺はどのような手口を使ってくるのか(どんな球種を投げる投手なのか)。どのくらいの被害件数があるのか(バッターの打率はどのくらいあるのか?)。
何事にも相手を知ることから全てが始まります。ここでの記事を参考に、少しでも高齢者の詐欺被害が無くなることを説に願っています。
※参考資料:警察庁