成年後見制度とは?【解説付き】

成年後見制度について、最近よくニュースなどで耳にすることが多くなってきました。その背景には、高齢化に伴う認知症の増加、身寄りがいない高齢者の増加などがあります。

詳しい説明は後述しますが、成年後見制度とは認知症や知的障害、精神障害、生活環境などの理由により日常生活を営む上で、自身で適切に選択が出来ない人の財産や身上監護に関する契約などを代理で行う制度です。
しかしこれには手続きや本人の程度により権限などの違いが出てきます。ここでの記事では成年後見制度の仕組みなどを、分かりやすく解説していきたいと思います。

成年後見制度とは

冒頭で触れた内容と少し被りますが、成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などの理由により、意思能力や判断能力に継続的な衰えが認められる場合には、本人が不利益にならないように、法律的に代理、同意、取消権を持って守る制度のことをいいます。

また後ほど説明しますが、成年後見制度には『法定後見制度』と『任意後見制度』と分かれており、後見人をたてることには変わりはありませんが、内容が違ってきます。

成年後見制度には、3つの理念が存在する

成年後見制度は、高齢者や障害を持った人の権利を擁護する制度です。そういった人たちの生活を守るために、3つの理念が存在します。

●ノーマライゼーション

・高齢者や障害者に関わらず、すべての人と変わらず共に住み、共に生き、生活ができる社会を築いていく。病気や障害があっても可能な限り、同じ条件の下に置かれるべきである。

●残存能力の活用

・本人の持っている力を信じ、そして本人がその力に気づいて、活かせるような支援を行う。残存能力というのは、その人の「生命力」「回復力」「自己決定能力」「適応能力」などを指します。

●自己決定の尊重

自己決定の尊重はノーマライゼーションの理念と重複します。

また2013年までは、被後見人は選挙権を持つことが出来ませんでした。しかし、たとえ健常者と同じようにいかなくとも、本人の人権は尊重されるべきなのです。そして、本人の生活に配慮し、本人に合った選択を行うことが重要です。

☆ここでのポイント:本人の状態を見極めながら、本人の代弁者となり、最善の方法を検討や模索することが重要なのです。

成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つの種類がある

タイトルの通りではありますが、成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類存在します。こちらについては、意味合いが全く違いますので、その違いについて解説したいと思います。

法定後見制度とは

本人が認知症状などにより「判断能力が低下し、自身で契約や財産管理に不都合が生じているため、何らかのサポートが必要という状況になった」場合に、本人もしくは親族が家庭裁判所へ申し立てることにより法定後見という制度が適用されます。

任意後見制度とは

こちらは法定後見制度とは違い、「将来的に判断能力が低下した場合に備えて、予め後見人を選任」することをいいます。任意後見を行う際は、本人が後見人を選任するわけですので、認知症状などによる判断能力が低下してる場合には、任意後見に関する契約を結ぶことが出来ません。

後見人の3つの権限について

後見人となった人には、家庭裁判所から「後見」「保佐」「補助」のどれかの権限が与えられます。名称が違うように、権限などの内容も異なります。その違いについて図でまとめましたので、ご覧ください。

法定後見制度 任意後見制度
名称 後見 保佐 補助 任意後見制度
本人(対象者) 日常的に判断能力が常にかけている状態の方 日常的に判断能力が著しく不十分な方 日常的に判断能力が不十分な方 判断能力がある方
支援者 成年後見人 保佐人 補助人 任意後見人
支援内容 財産管理権・身上監護 ・財産管理権
・身上監護
代理権 本人が行うすべての法律行為 本人から承諾および同意を得た上で、家庭裁判所から定められた法律行為 本人と契約で交わした行為
同意権・取消権 日常生活に関する行為以外の全ての行為について適用。 民法13条1項で定められた法律行為 本人から承諾および同意を得た上で、家庭裁判所から定められた法律行為 特になし

※成年後見人等は、法定代理人として法律行為を行うため、身元保証人や身元引受人、連帯保証人などには該当しません。例えば、一緒に債務を負担することになれば、利益相反になるからです

●「代理権」とは、本人に代わって行う法律行為の権限のことを指します。

<例>
・介護保険サービスを利用する際の契約
・老人ホームに入居する際の契約
・〇〇の物を買う時の契約
・税金の申告など

●「同意権・取消権」とは、同意権を有する者に同意を得ず、本人が行った法律行為の取消が出来る権限を指します。

<例>
・訪問販売をして購入した物
・リフォーム工事の契約
・金銭賃借契約の締結
・不動産の売買など

成年後見制度の手続きについて

ここでまで成年後見制度の内容についてお伝えしましたが、次に成年後見制度を利用する際の手続き方法及び流れについて説明したいと思います。

成年後見制度開始までの流れについて

①家庭裁判所へ申し立て

②家庭裁判所の調査官が申立人と後見人に面談

③必要に応じて、医学的鑑定の実施

④審判

⑤審判の告知と通知

⑥法定後見制度の開始

基本的には家庭裁判所へ申立書を提出から開始までの流れが上記のようになっています。ここからは番号に沿って解説をしていきたいと思います。

①:申し込む際には必要な書類があります。また専用の申立書は、家庭裁判所に無料でもらえます。

●必要な物
・申立書
・申立人の戸籍謄本1通(本人以外が申し立てする場合に限り)
・本人の戸籍謄本、登記事項証明書、戸籍の附票、主治医による診断書の各1通
・成年後見人候補者の戸籍謄本、身分証明書、住民票、登記事項証明書の各1通
・申立附票

②:本人および後見人の方は、家庭裁判所で調査官による面談を行います。面談の内容については、申し立ての理由や本人の今までの経歴、病歴、財産や収支、親族や後見人の経歴などが聞かれます。

③:必要に応じて申立人の判断能力や財産管理能力、日常生活が営めるかの判断を行うために、専門医による医学的鑑定を実施します。費用について、5~15万円の幅があります。

④:面談や調査の結果などを基に、後見人候補の審判および決定が行われる。場合により家庭裁判所より弁護士や司法書士などの専門職後見人(※)が選任される場合があります。
※専門職後見人とは:弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職種の方が後見人になることをいいます。基本的には近親者に後見人として該当する方がいない方などが利用するケースがあります。
また専門職後見人を選任された場合には、本人の資産から報酬を支払う形となりますので、注意が必要です。
報酬については、家庭裁判所から公表されている基本報酬が、月額2万円(目安)とされています。また各資産によっても変わってきます。

管理財産が1000万円以下の場合 月額報酬2万円
管理財産が1000万円以5000万円以下の場合 管理財産が1000万円以5000万円以下の場合
管理財産が5000万円以上の場合 月額報酬5万円~6万円

引用:東京家庭裁判所・成年後見人等の報酬額のめやすより

⑤:審判の通知結果と、審判書謄本をもらいます。

⑥:①~⑤まで終了後、東京法務局にて登記され、開始となります。

●どこの家庭裁判所へ申し立てればよいか

申立人が住んでいる家庭裁判所で申し込む必要があります。

成年後見制度に必要な主な費用

・収入印紙代について

補助開始の申し立て 収入印紙代
●補助開始の申し立て+同意権追加付与の申し立て 1,600円
●補助申し立て+代理権付与の申し立て 1,600円
●補助開始の申し立て+代理権付与の申し立て+同意権追加付与の申し立て 2,400円
保佐開始の申し立て 収入印紙代
●保佐開始の申し立て 800円
●保佐開始の申し立て+同意権追加付与の申し立て 1,600円
●保佐開始の申し立て+代理権付与の申し立て 1,600円
●保佐開始の申し立て+代理権付与の申し立て+同意権追加付与の申し立て 2,400円
後見開始の申し立て 収入印紙代
●後見開始の申し立て 800円

・切手代について

お住まいの家庭裁判所によって、多少の差はありますが「3,000~5,000円」となっています。

・登記費用について

成年後見制度を開始するにあたって、東京法務局に内容を登記する必要があります。その費用として収入印紙分の費用が必要となります。費用については、「2,600円」です。

・鑑定費用について

明らかに鑑定の必要はないと判断されれば必要ありません。もし必要となる場合には、5万~15万円の間はみておいてください。

任意後見制度の手続きと流れについて

任意後見制度とは、将来を見越して元気なうちに後見人を選任する制度です。では、任意後見制度を利用するにはどのような手続きが必要なのか、そしてどのような流れになっているのか解説していきたいと思います。

任意後見制度の流れについて

①現在は問題ないが、将来的に不安である。

②信頼をおける方と任意後見契約の締結を行う。

③認知症状などの影響により、判断能力の低下が見られてきた。

④家庭裁判所に申し立てを行う。

⑤任意後見人が任意後見契約で交わした内容の支援を行う。

ここからは番号に沿って解説をしていきたいと思います。

①:この時点で、どのような人と任意後見契約を結ぶべきなのか決めましょう。

②:選任を行った任意後見人と任意後見契約を結びます。契約書については、お近くの公証役場でひな形をもらうことが出来ます。また公正証書の作成が必要となりますので、その用紙も公証役場でもらいます。

補足:公証役場では相談も承っていますので、疑問などがありましたら足を運ぶと良いでしょう。尚、病気やケガなどで公証役場に出向くことが出来ない場合、出張の対応も行っています。出張を頼む際は、別途料金が加わりますので、お気を付けください。

公証人は東京法務局へ登記を行い、また作成された任意後見契約、公正証書の原本を公証役場へ「時が来るまで」保管します。

③・④:お住まいの家庭裁判所へ「任意後見監督人選任」の申し立てを行います。その後家庭裁判所の調査官よる面談を行います。

⑤:任意後見人は、以前に交わした任意後見契約の支援内容に沿って、仕事を始めます。

任意後見制度の費用について

・収入印紙代について

任意後見制度における費用
●公正証書作成の基本手数料 11,000円
●登記の際に納付する印紙代 2,600円
●登記嘱託の手数料 1,400円

後見・保佐・補助の終了事由について

後見・保佐・補助の終了事由について以下の文にまとめましたので、ご覧ください。

●本人の死亡が確認された場合。
●本人の病状が回復された場合。
●辞任・・・後見人・保佐・補助が正当な理由にある場合は、家庭裁判所の許可を得て辞任することが出来ます。
●解任・・・後見人・保佐・補助が相応しくない行為、不正行為があった場合に、家庭裁判所から解任されることがあります。
●欠格事由の発生・・・後見人・保佐・補助が破産などをして、要件に満たさなくなった場合。その際は、家庭裁判所が新たな適任者を選任します。

終了後も仕事について

それらについて、下記にまとめましたので、ご覧ください。

●財産目録の作成

2か月以内に財産目録を作成しなければなりません。

●後見人・保佐・補助の終了登記

本人が死亡のみ終了登記の申請を行います。それ以外の事由については、家庭裁判所から東京法務局へ以来となります。

●財産の引き渡し

解任などによる場合は、後任の後見・保佐・補助へ財産の引き渡しを行わなければなりません。また本人死亡の場合については、相続の有無や相続人の人数、遺言書などで異なりますので、注意が必要です。

●家庭裁判所へ終了報告

家庭裁判所へ財産目録、後見等事務報告書、財産引き渡しの際の受領書、通帳コピー等の証拠となる資料を提出します。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
ここでは成年後見制度について書かせてもらいました。成年後見制度にはまず、「法定後見制度」と「任意後見制度」に分かれています。それらの制度によって、制度の適用の仕方や内容が異なることは説明した通りです。基本的には家族がいれば、家族が担ってくれたりするケースもありますが、全ての人がそうではありません。そのため、成年後見制度などを視野に入れた自身の将来を、元気なうちに検討することをお勧めします。

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