厚生労働省は13日、働いて一定収入がある高齢者の年金を減らす【在職老齢年金制度】で、減額基準を現行より4万円高い月収51万円とする案に訂正しました。当初の案では62万円でしたが、高所得者および富裕層優遇との批判に加え、65歳以上の年金給付が年2千億円以上に膨らみ、将来現役世代がもらえる年金額が減る懸念があるためです。
在職老齢年金制度とは、年金と賃金の合計が基準額を超過すると年金が減る仕組みになっています。現在の制度では、65歳以上は月収47万円、60~64歳は月収28万円。基準額で支給停止の対象は約108万人、金額にすると約9千億円の年金給付が止められています。
日本の公的年金制度の仕組みは【賦課方式】、いわゆる現役世代が高齢者に対して仕送りする仕組みになっています。そして、在職老齢年金制度は一定以上の収入のある高齢者から協力を得て、将来世代に財源を回す【世代間の支え合い】です。しかし、【働くほど年金が減る】という一部の高齢者の働く意欲を削いでいる面や、今後70歳までの就業機会を企業側に確保するよう努力義務を課す方針といった様々な事情から、基準額の引き上げが必須となりました。
当初は62万円という基準案を示しましたが、19年度の年金額は約22万円。現役会社員の手取りは平均35.7万円で所得代替率は61.7%になり、将来的には少子高齢化の影響で50%程度までに下がる試算です。加えて、在職老齢年金制度の見直しによる将来世代の年金への影響を換算すると年間で1万円弱の減額になるため、高所得の高齢者に年金財源を回すと若い世代にしわ寄せが来ることになります。これには与党からも修正を求める声が上がり、厚労省は見直しに追い込まれました。
また、金融庁が公表した老後資金2000万円問題(撤回済み)もあり、年金制度に対する不信感は一層強くなり、年金デモに若者世代が参加するなどその不満は顕著です。こうした状況にもかかわらず、現実離れ(国民常識離れ)した案(62万円案)が出てくるようでは、年金制度は本当に危ういのかもしれません。